1867話 風呂場のハプニング
はぁー。
「ガウガウ」
たまにはこんなのも食べたい? このやろ。贅沢言いやがって。でも同感。私もそう思う。味噌汁ぶっかけご飯。ここでの正式名称は何て言うんだろうね。どうでもいいけど。たっぷり飲んだ翌朝の食事に最適だよな。
「カース……おはよう……」
「おはよ。具合はどう? 昨日かなり飲んでたみたいだけど。」
「よくないわ……悪いけどまた寝るわね……」
いくらアレクでも昨夜はさすがに飲み過ぎだよな。
「じゃあこの汁だけ飲んでおくといいよ。」
『水操』
味噌汁の汁百パーセントを別の器に移しておく。
「……ええ、いただくわ……」
喉だって渇いているだろ? ふふ、旨そうにごくごく飲んじゃって。かわいいなぁもう。
「はふぅ……美味しかったわ……この味がカースの心に訴える味なのよね?」
「あ、う、うん。そ、そうだよ。」
なんだ? やけにアレクの迫力すごいぞ……
「そうなのね。あと『かれー』って言ったわね。カースが食べたがってた料理……」
「え、う、うん、そうだよ。」
「私が! 私が必ず作れるようになってみせるから! ね、カース?」
「あ、う、うん。楽しみにしてるね……」
「よかったわ。あぁ、悪いわね……もう寝るわ……」
くっ……アレクが寝室へと去ってしまった……ちくしょう……
昨夜はあれだけ私とあんなことこんなことしたがっていたのに! 眠気には勝てないってことか! くうぅ……アレク。
まあいい。味噌汁ご飯をおかわりしよう。あーうまい。とてもジャンクなのにどこか上品。やっぱ高級宿は違うってことか。
「ピュイピュイ」
だめだよコーちゃん。昼間から酒を飲むようなダメ人間になっちゃいけないよ。あ、コーちゃんは人間じゃなかった。ならいいか。
「和真……おはよう……」
アレクと入れ違いでアーニャも起きたか。
「その名前で呼ばない約束じゃなかったっけ?」
個人的には気にならないけどさ。でも今後のことを考えるとあまり呼んで欲しい名前じゃないんだよな……
「アレクさんが寝てる今ならと思って……ねぇ、もう何も問題ないんだよね?」
「問題って言うか気にするようなことはないかな。それよりこれ、食べる?」
「えっ? うわっ、猫まんま? でも美味しそうだね。ずびっ……あ、本当に美味しい!」
綾子……いやアーニャにしても懐かしい味だよな。何と言うか、ここの宿の味って完全に和風なんだよな。私達の心に訴えるって言うかさ。ああ……沁みるなぁ。美味しい。
「カース……」
「ん? 何っ、んむっ……」
アーニャに押し倒された。しかも唇を奪われた。もー……
私に甘えるかのように抱きついてくるアーニャ。かわいいものだな。
ん? 誰か……
「おっと悪い。邪魔しちゃったかな。」
「きゃあっ!? え!? う、ウリエン様!?」
「やあ兄上おはよ。」
兄上が邪魔であるはずがない。後で来るとか言ってたもんな。
「おはよう。と言うにはもう昼だけどね。他のみんなはまだ寝てるのかい?」
「いや、それがね……」
兄上にも昨夜の出来事を説明しておかねば。
「なんと……偽勇者がもう現れたのか。確かにタイショーの神は残り二回とか言っていたが……」
「その計算だともう一回現れることになるんだよね。クロミがきっちり殺したとは言ってたけど。その辺りの話をまだ詳しく聞いてないんだよね。」
それどころじゃなかったもんなぁ……
「なるほどな。ところで国王陛下より晩餐会へのお誘いだ。もちろん来るよな?」
「夜? うん行く行く。天道宮に行けばいいの?」
「そうだ。日没前に正門まで来れば後は案内されるだろう。」
「それにしても、もう晩餐会なんてできるんだね。復興早すぎない? まだ一週間も経ってないのに。」
私達が相当ぶっ壊したのに。
「詳しくは知らないが天都の職人を総動員したらしい。天道宮内に隠されていた財産をばら撒いてな。もちろん宮廷魔導士も活躍したそうだ。」
隠し財産? そんなものがあったのか。いや、そりゃまあ……あってもおかしくないけどさ。それをパーっとばら撒くとは……国王やるな。これでローランド国王の器を天都民に存分に知らしめたわけだな。やるよなぁ。
「へー。すごいね。楽しみにしておくね。ところで兄上、夕方まではひま?」
「ああ、ひまと言えばひまだな。それがどうかしたか?」
「せっかく兄弟が再会したんだからさ。街歩きでもして遊ぼうよ。」
「それは名案だな。だがすまん。色々あって昨夜から寝てなくてな。カースに伝達したら夜まで寝ようと思ってたところなんだよ。」
マジかよ……働きすぎだろ……
「そりゃあ寝ないと! ここで寝てく? この部屋はいい感じの風呂もあるし。」
「そうだな。甘えるとしようか。じゃあ夕方に起こしてくれるか? それから一緒に行こう。」
「分かった。ちょうどいいね。じゃあ兄上、風呂はあの扉を入った奥ね。寝室はそっちだよ。」
「ああ。ゆっくりさせてもらう。悪いなカース。」
夕方まで六、七時間ってとこか。
さて、それなら私達は何しようかな。あんまりまともな街歩きをしてなかったことだし、みんなでぶらぶらするのもいいかな。
スラムとか孤児院とか住宅街とかは結構行ったのに。
「うわあ! ご、ごめん!」
ん? 兄上の声だ。柄にもなく焦ったような大声じゃないか。
「兄上どうしたの?」
「す、すまん! まさかアレックスちゃんが入っていたとは……」
何ぃ!? アレクは寝てるもんだと思ったが……いつの間に……
「驚いたわ。てっきりカースが入ってきたのかと思ったら、お義兄さんだったから。どうぞお義兄さん。私はちょうど出るところでしたので。」
おお、濡れた髪がしっとりと。そこにバスタオル一枚。アレク最高。
「ご、ごめんよ……じゃあ失礼して……」
それにしてもさすが兄上だよな。背中の筋肉がすごいわ。歴戦の剣士の背中だよな。弾力もありつつきっちりと絞り込まれてる。
「てっきり寝てるかと思ったらお風呂だったんだね。」
「ええ、さっき飲んだあれが美味しかったせいか何となく目が覚めたの。それで寝汗もかいていたことだしお風呂に入ってたのよ。もう……お義兄さんの裸を正面から見てしまったじゃない……」
「ははは。兄上はいい体してたろ?」
「う、うん……」
うほー、最近見ることが少なくなった赤面アレクだ。かーわいい。
それにしてもさっきの兄上の声ときたら。まるで思春期の少年じゃないか。風呂でラッキースケベに遭遇した鈍感系主人公的なさ。
とても多くの美姫を妻にしている男とは思えない声だったね。ああ面白い。
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