1866話 ドロガーの記憶

あ、そうだ。


「アレク、テンポも起こしてくれる?」


「ええ、分かったわ。」


『覚醒』


「…………ううっ……」


「起きたか。具合はどうだ?」


「……やけに体が重い……節々が痛い……酒を飲んでいたと思ったが……寝てたのか……」


覚えてないのか?


「少し違う。偽勇者に体を乗っ取られてたぞ。おまけにお前からドロガーに乗り移ったらしい。節々が痛いのはあちこち怪我をしたからだろうな。傷はもう治ってるだろうけどさ。」


「……偽勇者……?」


「ああ、まだ話してなかったっけな。まあそれは後回しだ。それから色々あってドロガーが四、五年分の記憶を失くしたみたいでな。どうしたもんかと困ってるとこ。」


もしかしたら一時的に忘れてるだけって可能性もあるけどさ。


「ドロガーが記憶を……それは一体どうしたことで……」


「それは話が長くなるから後でな。とりあえずキサダーニ。ドロガー連れてギルドに行ってくれよ。」


「それはいいが何するんだ?」


「そこで冒険者集めて酒でも飲めよ。ドロガーは踏破者で英雄じゃん。そいつらと一緒にドロガーが何をしたか話してやれよ。ついでに俺らがどこで出会ったかも。」


ケンカ別れしたお前達が和解した経緯も話してやれよな。そこは私の知らないことだからな。


「そうだな。それもいいな。ヒロナの仇だって討ったって言ってたもんな。よし、ならドロガーを起こしてくれるか?」


『永眠解除』


「もうすぐ起きると思うぜ。今のうちにギルドに運んでやりな。」


「じゃあウチも行く。ウチも教えるし!」


『浮身』


こうしてクロミとキサダーニ、そしてテンポは出ていった。奇しくもタイショー獄寒洞に挑む予定のメンバーじゃん。案外上手くいくかもね。




「カース、飲み直しね。せっかくいい感じに酔ってたのにすっかり醒めちゃったから。」


「私は酔ってるけどね……ドロガーさん心配だよぅ……」


「まあ何とかなるんじゃないかな。それにドロガーなら記憶がなくてもどうせまたクロミに惚れるんじゃない?」


「私もそう思うわ。仇を討った記憶や踏破した記憶がなくなってるのは少し可哀想な気もするけど。どうしても取り戻したいなら獄寒洞も踏破すればいいわよね。」


「あっ、そうだね。ほんと神様ってすごいんだね。こんな身近にいるなんてさ。」


身近と言えば身近なのかな?


「アーニャ、それは勘違いね。普通に暮らしていたら神々と接することなんかまずないわ。毎日熱心にお祈りする聖職者でさえ、おいそれと神の声を聞くことはできないんだから。」


「あっ、それもそうかな。うちの村で祝福持ってる人なんか一人もいなかったし。」


早ければ二歳参りで初めて神の声を聞くんだよな。ヒイズルでも同じなのかな? 私は聞いてないけど。

神は実在するし神の声だって聞けるもんだから、病む聖職者だっているもんなぁ……自分だけ聞けないって。


「普通はそうよ。私達はカースと一緒にいるから何度も機会に恵まれただけ。幸運とカースに感謝しないとね?」


アレクがそう言ってくれるのは嬉しいが、私に感謝しても意味ないぞ……


「そうだねー。カースに再会できて嬉しいし、ありがとね!」


「あはは。そんなのいいから、さあどんどん飲もうよ。コーちゃんが退屈してるよ。」


「ピュンピュイ」


もう何も心配することはない。今宵は心置きなく飲むとしよう。明日のことは明日考えればいいんだよ。ドロガーのことも。


ああ、酒がうまい……




「だからぁー! カースはさいこうのおとこなのぉー!」

「しってるもん! まえからしってるもん!」


「あのときカースはいったの! おまえらみなごろしだって! しぬほどかっこよかったんだからー!」

「ふぇーんアレクさんばっかりずるいぃー! わたしだってたすけてもらいたーい! あ、もうたすけてもらったあとだったぁー!?」


「ちがいないわ! よかったわねアーニャ! いっしょにカースをささえていくのよ!」

「うん! がんばるからぁ!」


酔ってるなぁ……かなり。どんだけ飲んだんだろう。樽で用意してもらった酒がもうほとんど残ってないじゃん。でも楽しいからいいよねー。ね、コーちゃん?


「ピュイピュイ」


ふふ、そうだね。美味しいね。

ふー。窓を開けてみる。星空が見える。冷たい外気が心地よいね。あーいい夜だ。

アレクとアーニャは見てて楽しいしコーちゃんは可愛らしいし。その上酒も料理も旨い。最高だね。カムイは腹が膨れたらさっさと寝たけど。


「ちょっとぉー! カースこっちにきてー! こーこー!」

「そうだよぉー! そんなところにいないでこっちー!」


夜はまだこれからだな。






「……ガウ……」


ん?


「ガウガウ」


あ……カムイ……朝?


「ガウガウ」


あ、もう昼前なの? で腹が減ったから私を起こしたのね。カムイなら呼び鈴の魔道具押せるくせに。私に注文させようとは甘えん坊さんめ。


「ガウガウ」


あ、違うのね。食べたいメニューがあるからきっちり伝わるように起こしたのね。この贅沢者め。


「ガウガウ」


ご飯に味噌汁をかけたものが食べたいって? ほぅ……カムイめ。通だな。私もそれにしよう。とりあえずお櫃と鍋ごと持ってきてもらって、後は私がやろうではないか。どうせならアレクとアーニャにも食べて欲しいしね。あ、漬物も欲しいな。うーん腹がへってきたぞ。今日もいい一日になりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る