1865話 目覚め

ったく……クロミのやつはいつになったら戻ってくるんだよ。

もうポーション二本目だぞ? 今日一日でどんだけ飲んだんだよ……私だって拘禁束縛を使い続けるのはキツいんだからな?


あーもー……せっかく旨い料理が並んでるのに激マズポーションのせいで台無しだよ。早く帰ってこーい。


むっ……ドロガーから反応が……私の拘禁束縛に抵抗を始めたか。つまり意識が戻りつつあるってことだな。しかしクロミは……

仕方ないな。意味があるかは分からんが……『永眠ながのねぶり

とりあえずドロガーにはもうしばらく深く眠っていてもらおう。クロミが目覚めるまで。


さて、クロミだけど……


魔力が空っぽになってやがる。ドロガーの中で何やったんだろうね。このままじゃあ目覚めるもんも目覚めないだろ。


『水操』


魔力ポーションを無理矢理飲ませた。これで起きなかったら次はアレクに『覚醒』を使ってもらおう。


「クロミ……大丈夫なのかしら……」


「今ちょっと危なかったよ。ドロガーが少しだけ意識を取り戻しかけてた。もう少し待ってだめなら覚醒を頼むね。」


「分かったわ。全力でやるわね。」


「クロミさんすごいよね。ドロガーさんの夢の中に入ってるようなもんなんだよね? 私もちょっと興味あるな……」


アーニャもか。実は私もなんだよね。アレクの夢の中とか入ってみたいよな。


「夢で思い出したけど、最近のカースはうなされることがなくなった気がするわ。結局原因は分からなかったけど。案外アーニャが関係してたりするのかも知れないわね?」


「私!? てゆーかカースうなされてたの!? 初耳なんだけど。」


「そうらしい。自分じゃ何も覚えてないんだけどね。」


そんなこともあったなぁ。


「じゃあクロミさんに見てもらうわけにはいかなかったの?」


「うーん、クロミが言うには僕の中に入ると絶対出られなくなるって言ってたかな。まあ人の心は大迷宮ってことかな。」


「やっぱり危険なんだね……それなのにクロミさんはドロガーさんのために……すごいなぁ……」


うーん……しんみりとしちゃったな。それもこれもクロミがさっさと帰ってこないのが悪い。さて、そろそろさっき飲ませた魔力ポーションがしっかり吸収された頃かな?


「アレク。そろそろお願い。」


「分かったわ。」


『覚醒』


おお、アレクの残り魔力がほぼ全部込められてる。これは強烈だ。死んでなければ絶対起きるだろ。


「ど、どう……? クロミさん目ぇ覚ましそう?」


「動きはあるわね。この分なら……あっ!」


おお、クロミの目が開いた。


「クロミ、大丈夫か?」


「……ニンちゃん……」


「ああ。問題なさそうだな。ドロガーは大丈夫だったのか?」


「ウチの心配してよ……」


「無事でよかったよ。大変だったな。」


どのぐらい大変なのかさっぱり分からないけど。


「……マジ大変だったし……やっぱ人の心なんか入るもんじゃないし……」


「それよりも! ドロガーだ! ドロガーの奴ぁ大丈夫なんかよ!」


さっきまで静かに飲んでたキサダーニが突然の大声。お前はドロガーラブなのか。


「あー……大丈夫だし……偽勇者はきっちり殺しておいたし……」


マジかよ。一体どうやって?


「ほんとかぁ! ほんとだなぁ! ドロガーは大丈夫なんだなぁ!」


「知らないし……そのうち目ぇ覚ますんじゃん?」


「クロミ、後で話を聞かせろよ? どうやって偽勇者を仕留めたのかさ。」


「……あー後でね……それよりニンちゃん魔力ポーション飲ませて……」


『水操』


「ケチー……口移しで飲ませるぐらいしてくれてもよくなーい……」


さっきすでに一本飲ませただろ。


それにしてもこれで万事解決かな。偽勇者は仕留めたしジュダはぶち殺したし。エチゴヤの残党がまだまだいるだろうけど、私が心配することでもないだろう。国王がどうにかするだろ。蔓喰の奴らだっているしね。


よし。『永眠解除』これでドロガーもそのうち起きるだろう。




「……っううぅ……」


おっ、解除してから五分。ようやくお目覚めかよ。


「ドロガー……」


あれ? クロミってドロガーのことをそんな呼び方してたっけ?


「ねぇドロガー……ウチのこと分かる?」


「おおっ、きれーな顔したねぇちゃんじゃねぇか。その肌の色からしたら南の大陸のモンか?」


は? こいつ何言ってんの?


「おいドロガー。こいつはクロミだぞ? 何言ってんだ? ボケてんのか?」


「あぁ? 誰だてめぇこのガキぃ……俺を誰だと思ってやがる? あんま舐めた口ぃきいてっとぶち殺すぞ?」


え? マジでやばくない? どうしたドロガー?


「ロガ、落ち着け。俺が分かるか?」


「あぁ? てめぇ……キサダーニじゃねぇか……なぁに仲良しこよしに呼んでくれてんだぁコラ? 俺ぁあのこと忘れたわけじゃねぇぞ? お?」


えぇ……何これ……マジでどうなってんの?


「ニンちゃん……これウチのせい……」


「え、どういうこと?」


「偽勇者を仕留めるために魔法を使い過ぎたの……ドロガーの心の中が傷付くぐらい……」


「え……」


「しかも偽勇者の奴……ドロガーの魂源こんげんまで吸ってたし……あれがなくなると生きてても意味なくなるし……」


こんげん? 初耳だ……


「おめぇらさっきから気安く人の名前呼び捨てにしてくれてんなぁ? まじ殺してやんかぁ? こっちの美女はいいけどよぉ。」


夢遊酩酊むゆうめいてい


おっ、知らない魔法だ。


「ちょっとドロガーには黙っててもらうし。でね、偽勇者がそのせいで強くなってしまっちゃったから……ウチもやるしかなかったの……」


ふむふむ。よく理解できないが、こんげんとやらを吸うと強くなるんだな。だからクロミもそれに対抗するために本気出したと。で、そのせいでドロガーの心の中に傷が付き、こんな風になってしまったわけか。


なんというか……本当に心の問題ってのはデリケートなんだなぁ。入り込んだ異物を取り除くためだってのに本人まで傷付けてしまうとは……それって手術と同じか。


「キサダーニ。今の話からするとドロガーは俺らのことを覚えてないようだった。と言うより知り合う前っぽいな。で、お前が話してみた感じだとどれぐらい昔っぽかった?」


「四、五年だろうな。俺らブラッディロワイヤルが迷宮で全滅くらって……俺とあいつだけが辛うじて逃げ帰って……ケンカ別れした頃か。」


つまりドロガーは四、五年分もの記憶がごっそり消えてるってことか……

キツいな……偽勇者に体を乗っ取られながらも命があっただけ幸いと言えば幸いだが。なんせ私もアレクも殺したって構わないぐらいの気持ちだったんだからな。


うーん、どうしたもんかな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る