1860話 偽勇者のあがき2

「もちろん嘘だよ。でも半分本当でもあるけどね。」


「え? 半分本当って……どういうこと?」


「あいつに体を渡したとして、本当に僕を乗っ取れると思う?」


「そ、そうね。言われてみれば……カースに限ってそんなこと不可能な気がするわ……」


私もそう思う。もちろんただの思い込みってだけじゃないぞ。根拠だってあるんだからな。


「だよね。いくら魔力が二分もないからって偽勇者なんかに易々と乗っ取られる僕じゃないよ。」


二分もないっては本当だ。それでもアレクの満タンよりよっぽど多いんだけどね。だからこいつを招き入れたところで何ほどのこともないのさ。せいぜい私の身の内で消化してやるぜ。

ほいほい乗ってくればいいものを。バカのくせに警戒しやがってさ。


「おおぅ魔王ぉー。そろそろ激痛が切れんぞぉ? もっと痛めつけてやんかぁー?」


「おお、頼むわ。でも壊れない程度でな?」


「この場合って頭ぁイカれるほど痛めつけたら壊れんのぁテンポなんかぁ?」


「知らねーよ。だから壊れないようにってことだ。あ、そうそうアーニャ。部屋の中だけどムラサキメタリック着ておいて。あいつがヤケクソでアーニャを狙うかも知れないから。」


「う、うん!」


あの鎧を装備しておけば防げるとは思うが……

でもタイショー獄寒洞では偽勇者の野郎ムラサキメタリックを装備して突っ立ってる奴に乗り移ってたよな。もしかして防げないのか?

うーん……じゃあさコーちゃん、アーニャの首に巻きついてあげて。


「ピュイピュイ」


何となくだけどコーちゃんと一緒なら安心できるんだよね。それにアーニャにはシューホーの神の祝福だってあるしね。


「あは、コーちゃん来たー! かんぱーい!」


「ピュンピュイ」


よし、これで大丈夫。たぶん。


「おー魔王ぉ! やっといたぜぇ! 見ての通りよぉ!」


「おうご苦労。」


うへぇ……偽勇者め。暴れまくりの上に顔中から液体垂らしまくりの飛ばしまくりかよ……風壁張っておいてよかったわぁ。さて、もうしばらく放置しておくか。テンポの命はどうしても無理なら諦めるが……なるべくなら助けてやりたいからな。


「げっへへへぇ! おら魔王も飲めやぁ! どうだぁ見たかよ俺の激痛魔法をよぉ!?」


「ああ見た。相変わらず効率のいい魔法だな。」


「おっ? さすがぁ魔王ぉ! やっぱ分かるかぁ!? 俺ぁ魔力が少ねぇからよぉ! この魔法にぁ助けられてんだぜぇ?」


私の衝撃貫通みたいなもんかな。あれもちょっとしか魔力を追加しない割に効果絶大なんだよな。ムラサキメタリックには効かないけど……


「あれ? カース。あいつ動かなくなったよ? なんかぐったりしてる。」


「あら、そう? 偽とは言え勇者のくせにだらしないね。」


見た感じ放心状態ってやつ? めちゃくちゃ憔悴しちゃってるね。息も絶え絶えか。まだ死んでないよな?


「ね、ねえカース……あいつ殺さない? 殺した方がいいわよ?」


「待てやぁ女神ぃ! おま、そりゃねぇぜ! なあ魔王ぉ! あいつぅ殺すってこたぁテンポぉ殺すってことだろぉが! 確かにあいつぁ元は赤兜だぜぇ!? だからってよぉ! そんなあっさり殺すんかよぉ! 俺らぁ仲間じゃねえんかよ!」


「えっ!? テンポさん殺すの!?」


「別に殺していいんじゃーん?」


どうすんだこれ……

キサダーニは我関せずとばかりにちびちびと飲んでやがるし。旨そうに飲みやがって……

仕方ないなーもー。


『風壁解除』

『消音解除』


「アレク、あいつ起こしてくれる?」


「分かったわ!」『覚醒』


「うあっ……ぐっ……」


やっぱアレクの覚醒は効き目抜群だね。


「よう偽勇者。気分はどうだ?」


「……魔王……? お、俺は一体……」


あれ?


「お前、テンポか?」


「当たり前だ……いぎっ……痛ぇ……どうなってんだ……」


「テンポぉ! おまっ! 大丈夫なんかぁ! しっかりしろやぁ! 待ってろや! 今出してやっからよぉ!」


ドロガーのテンションが理解不能だな。酔いすぎだろ。


「だめよドロガー。私まだ解かないわよ?」


足を拘束している氷壁はアレクの魔法だもんな。


「そんなぁ女神ぃ! こいつぁテンポだろぉが! もう解放してやってくれよぉ! なあクロミぃ! 早く治してやってくれよぉ!」


「はぁー? ウチ別にどっちでもいーしー。どーすんのニンちゃーん?」


これマジでどうなってんだ? くそ、バカのくせに小賢しい真似しやがって……


あ、そうだ。これでいこう。


「なあテンポ。約束だ。出してやるから正直に言えよ。分かったな?」


「…………」


「ど、どうしんだぁテンポ!? せっかく魔王がこぉ言ってんだぜぇ!? なんとか言えやぁ! なあテンポぉ!」


「…………」


やっぱりな。ドロガーは騙せても私やアレクは騙せないぜ?


「ドロガー。残念だったな。そいつは偽勇者みたいだな。お前も小賢しいことなんかしてないでさっさと諦めな。」


「くそがぁ……てめぇ魔王ぉぉ……ぜってぇ殺す……てめぇの舌ぁ引き抜いて女神に食わせてから殺してやっからよぉ……ぎゃがあっ!?」


おおっ!? アレク!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る