1861話 偽勇者のあがき3
あーあ。偽勇者ったら余計なこと言うから。アレクに腹を刺されちゃったよ。でもあんまり深く刺さってないな? 切れ味抜群サウザンドミヅチのナイフなのにどうしたことだ?
「カースに向かってよくも殺すだなんて言ったわねぇ……もういいわ。テンポには悪いけど殺すわ。最期に言い残すことはあるかしら?」
「な……」
「何? はっきり言いなさい。」
あらら、全員集まってきちゃったよ。こんな奴でも最期の言葉には興味があるのか?
「なめんじゃねぇ!」
『凍結』
「舐めてるのはどっちよ? この距離なら私に触れるとでも思ったのかしら? そんな汚い手で!」
アレク……それ、テンポの手だよ……あーあ、右の前腕が凍ってる。
だが、問題はそんなことじゃない。
「偽勇者、お前今何をしようとした?」
「私に触れようとしたわね! 偽勇者のくせに汚らわしい!」
「ってーか妙な魔力を感じたしー。しょぼくてキモいやつー。」
そう。クロミの言う通りだ。偽勇者が伸ばした指先から何か微細だが嫌な魔力を感じた。
「へっへっへ……バレちゃあしょうがねぇなぁ……何だと思う?」
知るかよ。聞いてるのはこっちだっての。
「金ちゃんを乗っ取ろうとしたっぽいしー。こいつマジキモいしー。」
「へっ……分かってんじゃねぇか……こんな弱そうな女の体なんぞ欲しくもねぇけどよぉ? 苦肉の策ってやつかぁ?」
この野郎……アレクを乗っ取ろうとしやがったのか……
もう殺す……
『
「どけドロガー! こいつに近付くな!」
こいつ酔い過ぎてやがる……
「もう遅ぇんだよ!」
「あ、あ、まお……」
偽勇者の左手がドロガーの首を鷲掴みに『風斬』その左手、テンポの左手を斬り落とした、が……
ぐらりと上半身が倒れ込んだテンポ。その前にテンポの腹からナイフを抜いたドロガー。いや、きっと元ドロガー。
「おらよぉ!」
「いったーい! もードロガのバカぁー! どんだけバカなん! どんだけ酔って油断してんのよー!」
クロミの腕が少し切れた。
『拘禁束縛』
「がっ……あがっ……」
一瞬焦ったけど、どうってことなかったな。
「お、おい魔王!? こいつは一体……」
ようやくキサダーニも話に参加してきやがったか。
「見ての通りだ。俺らが偽勇者と呼んでる狂人がいてな。そいつがどうやらドロガーの体を乗っ取ったらしい。」
「見ての通りじゃねえし意味分かんねえよ……」
「説明は後でいいだろ。それよりクロミ、テンポを治してやってくれよ。今なら腕だって余裕で繋がるだろ。」
「繋がるけどー。これもードロガはお仕置きするっかないしー。んっとにもー!」
「で、カースどうするの? 今度こそドロガーごと殺していいわよね?」
アレクの言うことが一番正しいよな。つーかさっきだってドロガーが邪魔しなければテンポの首を刎ねて終わりだったんだけどなぁ……
「あぁ!? ドロガーを殺すだと!? そりゃあどういうことだ!?」
改めてキサダーニに説明しなきゃいけないのかよ……
「あなたは黙ってなさい。今のドロガーは誇り高き五等星、傷裂ドロガーなんかじゃないわ。ただの狂った紛い物よ。だから死なせてやるのが一番なの。分かるわね?」
「分かるわけねえだろ! こいつは俺の相棒だ! 殺させるわけないだろうが!」
面倒な話になってきたなぁ。どうすんだこれ?
「ねえカース。ドロガーさんはこのままにしておいて大丈夫なの?」
アーニャも心配だよな。本来ならアーニャが一番乗っ取られやすいんだから。
「今のところね。拘禁束縛って体が動かないだけでなく魔法も使えなくなる魔法だから。実力で無理矢理破るかスマートに技で破らない限りこいつは何もできないよ。」
よって偽勇者が他者の体を乗っ取るのが個人魔法とすれば今は完全に無力ってことになる。今思えば下手に殺してしまうと、今後いつどこでどうなるか分かったもんじゃないってのが怖いかな。
ローランドの王宮でこいつを殺した後は何事もなかったけどさ。思えばあの時も実は危なかったのかも知れないな。
まあ済んだことはもういい。これからのことを考えよう。
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