1859話 偽勇者のあがき
「いよぉ魔王ぉ。言ったよなぁ? 七回生まれ変わってお前を殺すってよぉ。」
「てめぇ……偽勇者かよ……」
「いーや勇者ムラサキだ。こぉんなしょぼい肉体しかねぇなんて最低だけどよぉ? お前をぶち殺してぇと思やぁもう我慢できなくてよぉ……こいつで我慢してやんぜ?」
クソが……だが無駄だな。
『狙撃』
右上腕と右肩を撃ち抜いた。私ならアレクに当たらないように撃つこもなど造作もないさ。体格の差を考えろよな。ほぉら、もうナイフ落としやがった。
「くそがぁ……てめぇの女が人質にとられてんのに撃ちやがるとぁよぉ……お前それでも男かよ! 男として恥ずかしくねぇんかよ! 自分さえ無事なら女なんざ死んでも構わねぇってのか! てめぇは心まで魔王なんかぁ! 見損なったぜこの外道魔王ぉ!」
バカが、勝手なこと言ってんなぁ……
『凍結』
「あひっ! 冷やっあがががぁ!」
「いつまで汚い手で触ってるつもりよ。偽勇者の分際で。私に触れていい男はカースのみ。テンポは可哀想だけど死んでもらうわ。」
あーあ。左手が指先から肩まで凍ってるよ。つーかテンポは災難すぎない? ある日突然知らない奴に身体を奪われたんだぞ? しかもそのまま殺されるって。可哀想すぎて泣けるね。
だからって私もアレクも容赦しないけど。
『狙撃』
左肩も撃ち抜いた。
『氷壁』
両脚がアレクによって氷漬けにされた。
「お前弱すぎんぞ……」
命を一回無駄に使っちゃったね。
「ぐうっ!? て、てめぇ! こいつぁ仲間じゃねえんかよ! そんな簡単に見殺しにする気かぁ! この腐れ外道がぁ!」
言いたい放題だな。バカ丸出しの妄言を。
「お前さぁ。そんな弱い肉体なんか乗っ取っても意味ないだろ。どうだ、よかったら俺の体を使ってみるか?」
テンポは赤兜の中ではかなり強い方とは思うけどね。
「カース!?」
「はぁ!? その手なんぞに乗るかぁ! どうせこいつを助けてぇだけなんだろがぁ! 分かってんだぜぇ? てめぇは仲間を見捨てられねぇ! 甘ちゃんなんだよ!」
「そう思うか? それならそれでいい。じゃあ死ね。」
『
「うるせぇな。外れたじゃねえか。」
本当は外したんだけどね。この距離で私が外すはずがない。左耳が吹っ飛んだか。テンポ可哀想に。切れただけなら簡単に治るのにさ。あれはもう治らない。テンポ、お前の仇は私が討つからな。
「てめっ! いまぁマジで殺そうとしやがっただろぉが! どこまで魔王なんだぁ! 仲間なんぞ屁とも思ってねぇんかよ! この薄情モンがぁ!」
「お前さぁ。あと二回なんだってな。いや、すでに一回使っちまったから残り一回か。つまり、今お前を殺せば次で終わりってことだな。だから選ばせてやるぜ?」
「な、何をだぁ……」
ふふ、こいつが手強いのは大きく強靭な肉体にムラサキメタリックのフルプレート、そして大剣があったからだ。そうでないこいつなど赤子の手をひねるようなもんだ。だからとことんやってやるぜ。
「一つ目、このまま死ぬ。こっちにしてみればこれが一番楽でいいんだけどな。」
「ちっ……やってみろやぁ……」
「二つ目、契約魔法をがちがちにかけて死ぬまで働く。その場合はお前の意識なんか関係ないから辛くもなんともないだろうぜ? ただアンデッドのように無心で働き続けるだけだ。よかったな。お前みたいなクズが世の中の役に立てるぜ?」
「このドくそ外道魔王がぁ……!」
「三つ目、俺に乗り移る。まあお前みたいな臆病者には無理だろうけどな。分かってんだぜ? 最初からできるもんなら俺じゃなくてもクロミやアレクみたいな強者を乗っ取れば良かっただろうにな。できるもんならな?」
「うるせぇんだよ……殺すぞてめぇ!」
さすがにアレクを乗っ取られたら白旗をあげるしかない。クタナツの誇りや伝統など全て投げ打つだろう。靴の裏を舐めてでも助けようとするだろうな。
だが、そこは魔力という壁があるもんな。ジュダが私やクロミに洗脳魔法をかけられないように。偽勇者も魔力が高い者の体は乗っ取れないのだろう。当たり前と言えば当たり前だけどね。
「お前には分からないだろうけどな。今って俺の魔力がほぼ空っぽなんだわ。たぶん
「え? ウチ? まーそうなんじゃん? こぉーんな弱っちい奴だしー。殺す価値もなさそー。せいぜい働かせてやればぁー?」
「ぐっ!? 女ぁ……! てめぇちっとキレーな顔してっからって調子ん乗ってんじゃねぇぞ……その黒ぇツラぁズタズタに斬り裂いてやんかぁおら!?」
『激痛』
「いぎゃいいいいぎぎがぎぎぎぎはひひぃぃぃぃいいいあいいーーーー!」
「てめぇ……誰んツラぁ斬り裂くっつったぁ! おおコラぁ! テンポのくせに舐めたこと言ってんなぁおおコラぁ! 何とか言ってみろやぁ! おおテンポコラぁ!」
あらあら。酔っ払いドロガーまで参戦かよ。さっきまで酒から手を離さなかったくせに。
ちなみにここは一番高い部屋だから防音もバッチリ。こいつがいくら大声を出しても誰も来ないのさ。
『麻痺』
「さて、どうするか決めたか? ああそうだ。四つ目としては今の激痛を味わい続けるってのもいいぜ。迷って決められないならそれもいいな。」
「あがっ……ごぉ……てめ、まおおおお……」
「なんだ。まだ迷ってんのか。ならもうしばらく待ってやるよ。」
「まっ……『麻痺解除』であええええええべべべぇぇぇごげげええぇぇぇええええーーーー!」
うるさいな。
『消音』
こいつの周囲だけね。
『風壁』
上半身を振り乱して暴れまくるもんだから血が飛んできやがる。酒に入ったらどうしてくれるんだ。まったく……
「さあ、こいつのことは放っておいて宴会の続きをしようか。」
「え、ええ。で、でも、その、カース……本気なの? 本気であんな奴に体を……」
おっ、アレクまで信じかけてるのか? 私の演技もなかなかのものだな。
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