1858話 酔っ払い達の狂宴

胎身籠はらみごもりって服用すると異種族間でも子を成せるんだよな。 古くからたまに聞く話だけどさ。つーか神業以外に入手する方法ってあるのか? そもそも本当にそんなことができるのかぁ? 人間と犬の間に子供ができるようなもんだろ? ウリエン兄上のところは大丈夫なんだろうな?


あぁ……でも、本当にそんなもんがあったらオディ兄にも渡してあげたいよなぁ……


「クロミさぁ、それドロガーに言ってやれよ。俺に言っても意味ないぞ。」


私の体はアレク以外には反応しないんだからさ。


「知ってるしー! だからウチが迷宮踏破したらニンちゃんの契約魔法を破ってやるしー!」


「うおぉいクロミぃ! そりゃあどういう意味だぁ! いいんかよ魔王ぉ!?」


私に言われても……


「さぁねー。悔しかったらウチより強くなればいいしー!」


「言ったなぁクロミぃぃーー! 見とけやぁ! タイショー獄寒洞を踏破する頃にゃあヒィヒィ言わせてやっからよぉ!」


こいつら平和だなぁ。いやー楽しい。やっぱ宴会はこうでないとね。


「クロミさん! それ最高です! ぜひカースの契約魔法をぶち破ってください! 本命一筋の男って本命以外には役立たずじゃないですか! カースは本当に立たないし!」


あーあ。アーニャまで酔いまくってるよ。まだ数杯しか飲んでないくせに。そんな可憐な美少女顔して立たないとか言うな。


「なーによぉー! カースはすごいんだから! 立たないなんてことないんだからぁー!」


あーあ。アレクまで参戦しちゃったよ。さすがにペース早くない?


「きゃー! 金ちゃん教えて教えてー! ニンちゃんってあっちの方はどうなのぉー!?」


「私も知りたい知りたーい! 今のカースってどうなのー!? アレクさんいいなぁー!」


女三人寄れば何とやら……ってやつか。しばらく放っておこっと……




「ドロガー、飲んでるか?」


「飲んでんに決まってんだろぉが! とんだ恥ぃ晒しちまってよぉ! 飲まんとやってらんねーんだよぉ!」


あらら。やっぱ気にしてたのね。


「おっ? こいつ何やらかしたんだよ。教えろよ魔王?」


「大したことじゃないさ。ドロガーが大げさに落ち込んでるだけだな。」


「大したことあるに決まってんだろぉが! 俺が! ジュダなんぞに! 操られて! 愛しのクロミを! ぶっ刺しちまったんだぜぇ!」


「大ごとじゃないか……クロミってあの子だろ? よく無事だったな……」


「あいつは凄腕の魔法使いだからな。治癒魔法だって楽勝なんだよ。だいたいクロミだってシューホーでドロガーを刺したんだならおあいこでいいだろ。いつまで気にしてんだか。」


「なんとまあ。いずれにしても手強い相手だったってことか。全員無事でよかったなぁ。改めてお前らの無事の帰還に乾杯だ。ほら、テンポも。」


「ああ……」


テンポのやつ元気ないなぁ。いつもなら酒が入って歌い出す頃じゃないのか?


「どうだぁダニィ、テンポの奴ぁ役に立ったかよぉ!?」


「悪くないな。シューホー大魔洞でならした赤兜だけあって基本に忠実な剣を使いやがるしよ。」


「だよなぁ! よかったぜなぁテンポぉ! あんなクソみてぇな赤兜を抜けといてよぉ! 危うく魔王に皆殺しにされるとこだったもんなぁ!」


「そう……だな……」


マジで元気ないな。


「なあ……ドロガー……」


「あ? どうしたぁ? いいからおめぇも飲めやぁ。」


「お前は天都の生まれだろう……ヒイズルの民だろう。思うところはないのか? 建国王アモロ・フルカワ公がヒイズルを統一なされておよそ二百年。独立独歩を貫いてきたヒイズルが……ローランドに征服されたんだぞ!? しかも……あんなにあっさりと! 正面から死力を尽くして戦うこともなく! 天王陛下が軍を率いて立ち向かうこともなく! まるで草を刈るように……! お前ら何とも思わないのかよ!」


あぁー。テンポのやつはそんなことを考えてたのね。面倒くさい奴だなぁ。全面戦争してたらヒイズルが更地の廃墟になってしまうだろうが。


「そりゃあよ? 思わねぇこともねぇぜ? でもよぉ……ジュダみてぇなんが天王やるよりマシなんじゃねぇんか? 魔王がいる国だぜ? おめぇ反乱してぇか?」


「いや……そのような気概も腕もない。だから……余計に悔しいのだ! そして……天王陛下は殺されても仕方ない方だったことも……」


なんだ。全部分かってんじゃん。分かってるだけに……怒りの持っていき場がないって感じかな。私からは何も言うことはないな。


「バカがぁ。そんな時ぁ飲みゃあいいんだよぉ! なあダニィ! おめぇもそう思うよなぁ!?」


「ああ。難しいこと考えても仕方ないだろ。今は飲め。だいたい天王家の血が絶えたわけじゃないんだ。アモロ・フルカワ公の血は健在だ。」


「そ、そうだな……飲むしかないか……アモロ・フルカワ公に……乾杯……」


「乾杯だぁ!」

「乾杯。」


やれやれ。ヒイズル三人組で話がまとまりやがった。そりゃあまあ、ある日いきなり自分の国が他国に征服されて、明日から国名が変わるって言われたら正気じゃいれない気もするわな。うちの国王がどこまでやる気なのかは分からんが……


「ああ、そうだ魔王……女神に見て欲しいものがある……」


「アレクに?」


汚いモノなんぞ出しやがったらぶち殺すけどね。

えーい、酔ってふらふらなクセに無理に立ち上がらなくてもいいだろうに。その場で見せろよ。


「これだ……女神、見てくれ……」


「あーテンポ。あなたも飲んでるのぉ? で、何を見ればいいのぉ?」


テンポの手の平の上には何も見えない。


「これだ……よく見てくれ……」


「どれよぉ? 見えないわ……っきゃっ!?」


あぁ?


「テンポ、そりゃあどういうつもりだ? 今なら冗談で済ませてやってもいいがな。今ならな……」


左腕でアレクの首を絞め、右手でナイフを首筋に突きつけている。何を考えてやがる……


「動いたらこの女ぁ殺すぜ?」


なっ!? い、今の口調は……

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