1857話 酔っ払い達の挽歌

宿に入り、馴染みの部屋へ。

カムイを洗い、アレクとアーニャに両側を固められ四人でのんびり湯船。はぁー冬に入る暖かい風呂の沁みること。迷宮が寒かっただけに温もりもひとしおだね。やっぱ湯船は魔力庫に常備しておかないとだめだよな。




はぁあ……いかんな。このままでは眠ってしまう。もう上がろう。アレクが濡れた瞳でこっちを見てくるが、ここは耐える……アーニャだって隣にいるんだから。




「げへへへへぇ! クロミぃー愛してんぜぇ!」


「もぉードロガ酔いすぎぃー!」


「ピュイピュイ」


上がってみればドロガーがご機嫌になってた。さっきまで落ち込んでたのが酒で回復したのかな? ちなみにコーちゃんは私が来たからご機嫌なのだ。


「おおーう魔王ぉー! 飲め飲めぇー!」


「飲むけどさ。さあ、アレクもアーニャも乾杯。」


「いただくわ。乾杯。」


「これ、お酒だよね……いいや飲んじゃえ。乾杯!」


ほぉお……旨いっ! アラキ島の酒に何かのハーブを漬け込んだのかな。それを冷たい水で割って、さながらキリッとしたモヒートだな。冬に飲む酒じゃない気もするが風呂上がりの私達にはぴったりだよ。最高。


「失礼いたします。追加のお料理をお持ちしました」


おっ、いいタイミング。腹へってんだよね。


「刺身の盛り合わせ、迷宮肉の串焼き盛り合わせでございます」


おおーいいねいいね。生と焼き、冷たいのと熱いの。対照的な組み合わせで攻めてきたねー。おいしそ!


「魔王様。長らくご逗留いただいているにもかかわらず、ご挨拶が遅くなったことお詫び申し上げます」


「ん?」


よく見れば見知った客室係ではないぞ?


「当宿の主人、イデシ・ミカサノでございます。この度は貴重な助言をいただきましてありがとうございました」


助言? 何だったっけ……


「いや、大したことは言ってないと思うが……」


「いえいえ、とんでもございません。おかげでいち早くローランドの国王陛下にご挨拶に伺うことができました。そして今後も変わらぬ経営を許されたのです」


ああ……客室係に早く国王に挨拶に行っておけって言ったあれか。きちんと実行したのね。偉いじゃん。つまり自分とこの天王をさっさと見限ってうちの国王に尻尾を振ったと。やるねぇ。それでこそ高級宿の主人なのかな?


「それはよかったな。どうせもうヒイズルはローランドの属国みたいなもんだし。そういうのって早いほど有利なんだよな。上手くやったね。」


「ありがとうございます。過日、そちらの狼さんに無礼を働いた料理人はすでにローランド側に突き出しております。その節は本当に申し訳ありませんでした!」


「ああ、その件ならもう終わったことだ。確か調理場の人間でエチゴヤに脅された奴がやったんだったか。気にしなくていい。」


「なっ! なんと寛大なお言葉! 本当にありがとうございます! 今宵はせめてものお詫びに精一杯のおもてなしをさせていただきました! これからもイカルガに逗留される際は当宿をご利用くださいませ!」


「ああ。そうさせてもらうよ。では早速だけど酒のおかわりを頼むよ。飲み方はこっちで好きにするから樽ごと持ってきてくれたらいいよ。」


「ははぁ! かしこまりました! 少々お待ちくださいませ!」


ここには魔法使いだらけなんだからさ。温度も濃さも自由自在なのさ。おまけにアレクの魔力庫にはオワダのオラカンやカツラハ村のリモンなんかが入ってるもんね。色々割って楽しめるってもんさ。


「失礼いたします。魔王様、お客様がいらっしゃってございます」


あら、今度は客室係だ。


「客? 誰だい?」


「五等星キサダーニ・ロブ様とお連れの方々です」


おお、キサダーニか。


「分かった。通していい。料理も追加で頼むよ。そいつらの分をね。」


「かしこまりました」


「よかったなドロガー。キサダーニが来たってよ。」


「あぁ? ダニィがぁ? へへへぇ魔王飲んでっかぁ!?」


なんだよドロガーの奴。どんだけ酔ってんだよ。


「邪魔するぞ。おお魔王。帰ってきたって聞いたものでな。ん? もう始まってるのか。」


「おう。まあお前も飲めよ。ドロガーはあの様だしな。」


テンポも一緒か。こいつも色々あったよなぁ。でも、今はそんなことなんか忘れて全員で楽しく飲もうじゃないか。


「おおぉ!? ダニィ来たんかぁ! 俺ぁやる! やるからなぁ! ぜってぇクロミと一緒にタイショー獄寒洞を踏破してやっからよぉ! おめぇも来るよなぁ!? なっダニィ!」


「お、おお……」


ドロガーったら壊れかけてんな。キサダーニが少々引き気味か。


「おい魔王……ドロガーの奴どうなってんだよ……」


「知らねぇよ。俺が風呂から上がったらもうああなってたんだからよ……それよりギルドの様子はどうだ? ローランド人が集まっただろ?」


「ああ。それならローランドの騎士に連れられてどっか行ったそうだぜ。それから先は知らねぇな。」


ローランドの近衛騎士が保護したってことだろうな。おそらく行き先は国王の船か。あれなら全員まとめて連れて帰れるだろうしね。やはり私の肩の荷は降りたな。ついでだから金を支払う約束も全部国王に丸投げしよう。別に払えなくはないけどさ。ここまでやったんだから後始末ぐらい任せてもいいだろう。オワダや他の街に関しても。


そうすれば私は何も気にせず物見遊山ができるって寸法さ。テンモカからここまでの街をすっ飛ばしてしまったけど、ここからオワダまでは今度こそゆっくり歩いて周りたいからな。そもそも天都イカルガでショッピングすらしてないんだからさぁ。楽しまないとね。


「ねぇカースぅ! 明日は何するのぉ?」


おおっと。早くもアレクは酔ってるようだな。


「明日より今夜のことを考えようよ。アレクは何がしたい?」


まだ日は暮れてないけどね。夜はこれからさ。


「うふふふふふぅー。カースを襲うのぉ。そんでぇーめちゃくちゃにするのぉー!」


おお……酔い過ぎだぜアレク。でもそんなアレクも可愛くて仕方ないぜ。


「ダメぇ! カースは私が襲うんだから! そんでもってアレをこうしてそんでアレがアレなんだから!」


アーニャもか。弾けすぎだぜ……

今夜はどこまで行ってしまうんだ……


「ニンちゃん!」


「ん? どうしたクロミ。」


胎身籠はらみごもりなんてもんがあったらさぁ! ウチだってニンちゃんの子供ぉ産めるんだけどぉ!」


……クロミまで何を言ってるんだ……?

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