1856話 懐かしき天都イカルガ

外に出てみてびっくり。

入った時は平坦だった入口前が……大穴は空いてるわ壁で囲まれてるわで大きく様変わりしていた。


「魔王殿。見事ジュダを仕留めたそうで。さすがのお点前、感服仕った。」


「やあ、ベクトリーキナーさん。待たせちゃったかな。これでもうヒイズルの制圧は終わりかな?」


「さほど待ってはいないさ。制圧か、どうだろうな。それよりも、現時点をもってここの包囲は終了ということでよいだろうか?」


「いいよ。ご苦労様。赤兜はどんだけ出てきたの?」


「ざっと二百といったところか。全て捕縛し洗脳魔法も解呪できる者はしておいた。一部できない者もいたが、瑣末なことだろう。」


おお……やっぱすごいね。それだけの人数がムラサキメタリックをフル装備で襲ってきたらかなり手強いはずなのに。やっぱ国王直属の精鋭部隊はすげぇぜ。ちょっと前は近衞騎士ですら一対一で互角だったのに。


「じゃあ後のことは任せるよ。ヒイズルをどう支配するのか属国にするのか、陛下の思惑次第とは思うけど。」


「ああ。魔王殿のおかげでかなりスムーズに進んでいる。まさかここまで一人の犠牲も出ないとは思わなかったさ。イカルガに戻るのかな?」


「そのつもり。色々あってみんなかなり疲れたもんでね。じゃあお先。」


「そうか。この度はご苦労だったな。貴殿の働きに我ら一同感謝している。ありがとう。」


おおっ、全員が敬礼を。これは嬉しいな。兄上は敬礼で返してるけど私は騎士じゃないしな。普通に手を振っておこう。


「そんじゃ行っくよー。ウチも疲れたからー。さっさと帰って休みたいしー。」


「頼む。」


鉄ボードを飛ばすのはクロミにお任せだ。

ふぅ……外の空気はうまい、気がする。ここって上層階はあんまり迷宮っぽくなかったよな。だから閉塞感もなかったし空気がまずいなんてこともなかったけどさ。

それでもやっぱ外はいいもんだ。冬だけど中より暖かいし。


「ニンちゃん並みにぶっ飛ばして帰るしー。」


『浮身』

『烈風』


どわっ、そんな急に加速するなよ。落ちたらどうするんだ。まあ、アレクが風壁で周囲を覆ってるから落ちるわけないけどさ。


「お、おお、飛んでんぞ……」

「なんてぇ速さだぁ……」

「すげぇ……」


職人三兄弟もびっくりだね。お、ドロガーが説明を始めたか。ブラッディロワイヤルの解散から今日に至るまでの出来事を淡々と。ドロガーにも色々あったんだよなぁ。何にしても生きててよかったよな。




「そんなことが……」

「おいらぁの店ぁどうなってんだ……」

「立て直すしかないだろ……くそっ!」


五年余りも洗脳されてただ働きさせられてたんだもんな。アーニャほどじゃないけどあんまりだよな。


「少し助言をしてやろう。お前ら三人はムラサキメタリックを扱う技量があるらしい。たぶんジュダ以外にはお前らしかいないはずだ。ジュダ亡き今、その技術はお前らしか持ってない。上手くやればヒイズルどころかローランドを合わせても随一の魔道具職人になれるぞ。がんばれ。」


その記憶はもう消えてるだろうし体でも覚えてないだろうけど、こいつらができたのは間違いないだろうからね。


「そもそもムラサキなんちゃらって何かぁ!?」

「ジュダって……天王陛下のことかあ!?」

「おまっ、呼び捨て……ん? 亡きって言ったか?」


「その通り。ジュダは死んだしこの国はもうローランド王国に支配されたぞ。今後どうなるかは知らんが国民全員が奴隷なんてことにはならんだろうさ。たぶん普通に暮らせると思うぞ。」


ならないよな? 普通は敗戦国の扱いなんて惨めなもんだがそこまで無茶なことはしない気がするんだよな。

いや……でも天都の戦力はほぼ壊滅だけど、地方の貴族の戦力は普通に残ってるもんな。シューホー大魔洞に行ってる赤兜だっているし。もしかして本格的な戦いってこれからだったりするんだろうか?


「むぐぅ……」

「どうなってんだぁ……」

「ローランドが……」


それにしてもうちの国王も大胆だよな。百や二百の兵力で他国を攻めるって。攻め落とすことはできても、その後はどうやって支配するつもりなのやら。私が心配することじゃないからいいんだけどね。


おっ、そろそろか。


「クロミさん。少しゆっくり飛んでもらえるかな。宮廷魔導士の方々が警戒をしているようなのでね。」


「ゆっくりー? 別にいーけどー。」


どこだ? 姿は見えないが……

あ、来た。


「大人数で何事かと思えば、マーティン殿のご一行か」


「任務ご苦労様です。ついでですから僕を陛下のところにお連れくださいますか? 重要な報告がありますので。」


「よかろう。では掴まるがよい」


「失礼します。じゃあカース。また後で宿を訪ねるから。アレックスちゃんもアーニャさんもお疲れだったね。」


「お義兄さんもありがとうございました。おかげでカースが無事でした。」


「う、ウリエン様! ありがとうございました!」


そして宮廷魔導士と兄上は天道宮の方に飛んでいった。私達は定宿、若草雲荘へ戻る。疲れたし眠いし腹もへったし。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


分かってるって。コーちゃんは酒だよね。帰ったらたっぷり飲むって約束だったもんね。そんでカムイは手洗いだろ? 迷宮では風呂に入れなかったもんな。


「着いたらみんなは先に始めててよ。僕はカムイと風呂に入るからさ。」


「それなら私も行くわ。一緒に洗いましょ。」


「わ、私も!」


「ウチは食べるしー。もーぺこぺこだしー。」


「俺ぁ飲むぜ。飲まんとやってらんねーからなぁ。」


「ピュイピュイ」


こんな状況だし、いつも通りの品揃えだといいなぁ。




職人三兄弟は着地と同時に走っていってしまった。そりゃあ気になるよな。


さて、懐かしき宿に入るとしようか。だいたい一週間ぶりぐらいかな。いやー、ハードな一週間だったなぁ。あー疲れた。もう何も心配いらないよな。後は国王がうまいことやるだろ。拐われたローランド人の保護とかもさ。いやぁ一気に気が楽になった。ほんといいタイミングで来てくれたもんだわ。もっと早く来いってのは言わずにおいてやろう。

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