1832話 二十一階の番人たち
およそ二時間後、ボス部屋らしき洞窟を発見した。木が生い茂っていたせいで上からだと少々発見しにくかったんだよな。
「じゃあアレク。後でね。コーちゃんはアレクを頼むね。」
「ええ。カースも気をつけてね?」
「ピュイピュイ」
するするとアレクの首に巻きつくコーちゃん。ありがとね。
「ニンちゃんがんばー。」
「クロミも気をつけてな。」
さて、行くか。
二十階のボスは氷のゴーレムだった。全身刃って感じでまともに戦えばかなり強いのだろうが、容赦ない火球一発で終わりだ。鉄をも溶かす私の火球でなぜ氷が蒸発しないことがあろうか。
「相変わらず恐ろしいまでに濃密な魔力だな。何気なく放った火球だが通常の数千倍もの魔力が込められている。」
「いやー照れるなぁ。じゃあ出ようか。」
ちなみにボスが落としたのは、やや大きめの魔石。クロミが欲しいなら後で渡してやろうかな。
二十一階は吹雪いてなかった。なのにさっきより寒い。一体氷点下何度なんだよ……
周囲には大小様々なそそり立つ
『水球』
ははっ。一瞬で凍っちゃったよ。直径一メイルはあるのに。
『風壁』
「とりあえずこの中に居ようか。歩き回る必要もないからね。」
ついでに温度も上げておこう。
「そうだな。こんな寒さは経験したことがない。いくら近衞騎士団の正式コートでも限界があるからな。」
「ううっ……寒かったよう……」
私もだよ。体は平気だけど顔が凍えそうだったんだから。風壁を張るまでほんの十秒ぐらいだったのに。
これだけ寒ければ魔物だって……「ガウガウ」
襲ってくるのね。何あれ? 雪球? 直径三メイル程度の球がごろごろ転がってくる。
『火球』
私の火球は寒さなんかに負けないぜ。くらって蒸発しやがれ。
よし終わり。おっ、魔石が落ちてる。やっぱ一撃だよな。拾いに行くのは後でいいや。どうせまだまだ襲ってくるだろうし。
「ガウガウ」
おう。今度はあっちか。
『火球』
別にこの程度の相手は敵にもならないのだが、このペースで現れられると少し面倒だな。微妙に休憩しずらい間隔だもんな。
おっと、上から鳥の魔物まで。さっきの階層もそうだったけど、これだけくそ寒いのによく飛べるよな。魔物にそんな心配しても意味ないんだろうけどさ。
だっる……
あれから三時間ぐらい経ったかな。赤兜は全然来ないくせに魔物ばっかりやって来るんだよなぁ……もしかして迷宮って一ヶ所にじっとしてたら魔物がガンガン来るとか? そんな昔のゲームみたいなシステムなのか? 同じ階層に一ヶ月留まったらヤバい魔物『悪食』みたいなのが現れるのは覚えてるけどさぁ。あいつの本当の名前って何だったっけ?
まあいいや。ちょっと動いてみようかな。
「兄上、ちょっとここを頼める? 少し出歩いてみようと思ってさ。」
「ああ分かった。ここは任せてくれ。」
「ガウガウ」
カムイも頼むぜ。なんせアーニャがいるからな。
「一時間もすれば戻ると思うから。」
「カース! 気をつけてよね!」
「うん。行ってくるね。」
この迷宮では飛びっぱなしだったからな。少し歩いてみたくなったんだよね。うわぁ、地面は完全に氷じゃん。分かってたけど。
私のドラゴンブーツならば、それでも滑ることはない。うん優秀。
うーん寒い。こりゃ自動防御は二重だな。いつもの範囲型と体表密着型で。うん。これなら寒くない。それに、こんな趣味の悪いコートでも着ておいてよかったな。いくら温度調節機能の付いたドラゴン装備でも限界はありそうだもんな。でも、もしここにドラゴンがいたとしても寒さに負けるイメージはないんだよな。どうなんだろ?
てくてく歩いてるが全然魔物が現れない。これはこれで退屈だな。周囲に魔力反応もなし。今私は完全に一人だ。昔、一人でノワールフォレストの森を歩いた時を思い出すな。あの時は武者修行気取りだったっけ。
結局一時間近く歩いたのに何とも出会わなかった。何だそれ……
帰り道は飛ぶ。空にも魔物は出てこない。
戻ってみると地面に落ちた魔石が目に見えて増えていた。置いてたら何か起こるか気になったのであえて放置してたのだが、今のところ何もなしか。ゴーレムのように再生するかと思えばさ。
「ただいま。やっぱ魔物はたくさん来たの?」
兄上ったら風壁の外で戦ってるじゃん。寒いだろうに。
「おかえり。どうだった?」
「収穫なしだね。それより中に入ろうよ。」
「そうしよう。寒かっただろ? 何か飲むか? さすがにコーヒーはないけどな。」
「甘くて暖かいのがいいな。」
さすか兄上。自分こそ寒かっただろうに。しかもあれこれ用意してるのね。はぁー。風壁の中は暖かいなぁ。さすが私の風壁。
「カース! おかえり!」
「ただいま。いい子にしてたかい?」
「もー! 子供じゃないよぉー!」
ははは。
「アーニャさんも飲むだろう? 兜を外してあげるから少し待っててくれ。」
「あ、は、はい! ありがとうございます!」
「ああ、僕が外すよ。」
兄上はお茶の用意があるからな。
「お待たせ。ありふれた物で悪いがな。」
「ありがとね。いただきます。」
「いただきます!」
「ガウガウ」
おお……ミルクティーか。ハチミツも入ってる。こりゃあ沁みるなぁ。美味しい。
「兄上おいしいよ。近衞騎士団ではみんなこんなお茶を淹れるの?」
「必須ではないがな。こんなものでもあると過酷な訓練の癒しとなるからな。」
「はぁー。すごいね。近衞騎士団の訓練はかなりキツいって話だったもんね。」
その分給料もいいって聞いたが、あまり羨ましくはないな。
「ウリエン様おいしいです!」
「はは、それはよかった。」
「ガウガウ」
ん? 気配だって? 左から?
魔力探査に反応はない。魔物ではない……?
もしかして……
『遠見』
赤兜か!
二十……いや違う。三十近くいるか? しかも全員ムラサキメタリックのフル装備かよ!
こいつらがこれだけまとまってるってことは……ここにいる私達が狙いか、それともただの帰り道か……
いずれにせよ……ここを通るなら皆殺しだ。
一人も通さねぇよ……
「やるぞカース!」
「うん兄上!」
「ガウガウ」
「が、がんばって!」
さあ、かかって来やがれ!
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