1833話 二十一階の攻防

「はぁ? 魔王? 何だそれ?」

「知らねぇよ。オワダから逃げてきた奴がそう言ってたんだってよ?」

「あー、オワダのエチゴヤを潰したとかって奴?」

「マジで? 薬のやりすぎでボケてんだけだろ?」


「かもな? んで、その魔王って奴が天王陛下を狙ってこのタイショー獄寒洞に来てるってよ」

「はあ? バカだろそいつ」

「なんでそんなこと分かんだよ?」

「さっきドドネキが見たってよ。二十一階の帰還口の前で待ち構えてんだとよ」


「そのドドネキはどこ行ったんだよ?」

「下層に行ったぜ? 陛下にお知らせするんだとよ」

「いいんかよ? 俺らが受けた命令は一斉に迷宮から出ることだぜ?」

「知らねぇよ。あいつが陛下にお知らせするってきかねぇんだからよ」


「まあよぉーせっかくこのクソ寒ぃとこから出られるんだからよ。魔王だか何だから知んねぇけどさっさとぶち殺そうぜ?」

「おっと。陛下がおっしゃるには魔力がとんでもないから油断するなとのことだ」

「油断も何も俺ら全員ムラサキメタリック装備してんだぜ? 迷宮の魔物だろうが魔法使いだろうが敵じゃねぇぜ」

「お前……陛下のお言葉に逆らう気か?」


「ば、バカ! ちげぇよ! ただの事実確認だっつーの! 油断しなきゃいいんだろうが! 当たり前だっつーの!」

「ふん。魔物ごときは敵でなくても、この環境は大敵だ。俺達なら身に染みて分かってるはずだな?」

「そうとも! 我ら誇り高き赤兜騎士団に油断という文字などない! きっちり作戦を立てるぞ! そして抵抗する間すら与えずに殺す! いいな?」

「意義なし。では部隊を三つに分ける。一番隊は俺が率いる。人数は三十だ」


「おいおい待てよ。半分近く引き連れてどうするってんだよ?」

「いいんだよ。陽動だろ?」

「そうなると俺も三十だな。残りはトドメ用だ。もっとも、ギザン隊の三十人で終わるかも知れんがな?」

「もちろん初手で終わらせるつもりでやるさ。ドドネキによると二、三人しかいないって話だからな」


「いいだろう。ならば頃合いを見計らって残りで突っ込むとしよう。空中に逃げられる可能性もあるからムラサキメタリックは解除して待機しておく」

「いい手だな。俺らも何割かは通常装備に換えておいた方がいいな。そうすりゃ味方ごと大きい魔法をぶち込む手も使えるしな」

「それは構わんがタイミングには気をつけろよ? いくら我らに魔法が効かないからって目が眩むこともあるからな」

「よし。じゃあ行くぞ。そこから右の三十人は俺に付いてこい。魔力が高いのは……ソネルヒコだな。お前らの小隊は赤備えに換装しておけ」


「ええぇー……もぉー仕方ねぇなぁ。さっさと終わらせようぜ? こんな場所でムラサキメタリック脱いじまったら五分で凍っちまうからよ。おう、お前らもだ」

「おう……」

「ちっ……」

「やれやれだよなぁ……」


「よし。ではなるべく遮蔽物に身を隠しながら近寄るんだ。お前達の戦闘が始まったら即、次が飛び込むからな!」

「おう! その前に終わらせてやるけどな!」

「俺らの分ぐらい残しとけよ?」

「おお……寒っ……」


そして赤兜たちは動き始めた。







どいつもこいつもムラサキメタリックのフル装備かよ。そりゃそうだ。こんだけ寒いんだからな。ほう。もうすでに剣を抜いてやがる。会話する気ゼロかよ。

ならば、まだ距離はあるが……


『津波』


大量の水が片っ端から凍っていく。構うもんか。このままあいつらも巻き込んで凍ってしまえ。


ん? 上から火の魔法?


『狙撃』


へー。空中からも攻めてくるとは赤兜にしてはやるじゃん。でも惜しかったね。下手に味方を救おうなどとせず、いきなり最強の魔法でも撃ってくれば少しは効いただろうに。

なんせ魔力探査を切ってたからな。全員ムラサキメタリックだから必要ないだろうと思えば。なかなか意表を突いてくるじゃん。


さて全滅だな。普段なら凍らせることなど不可能なムラサキメタリックだろうが、ここでは魔力で凍ってるわけじゃないからな。あくまで自然に凍ってるだけだ。つまり、もう脱出できまい? 可哀想だがそのまま窒息死だな。魔法でも使えれば無理無理どうにかできたのかも知れないがね。ムラサキメタリックを纏っていればそれも不可能か。


「カース、次はあっちだ。」


右からか。しかも今の奴らと違ってバラけてるな。だが、関係ないね。


『津波』


やることは変わらない。これだけクソ寒い環境を生かさない手はないからな。

上空に赤兜の姿なし。今回は地上だけか。やっぱ容赦なく津波を使ったのは正解だな。


さて、仕留めた人数はだいたい五十ってとこか? 今のところ他に魔力反応なし。接近戦にならなくてよかったよ。いくらこっちに兄上がいるからってこれだけの人数とまともに斬り合ったら命が危ない。やはり近寄らせないことが重要だな。


「見事なお手並みだったな。僕の出番が全然ないじゃないか。それにしても、どうやらここで待ち構える作戦は正解だったようだな。」


「そうみたいだね。ここなら見通しもいいしね。」


なんせ背後には迷宮の建造物があるもんな。前と左右だけ警戒してればいい。二十階をクリアした奴らが現れる可能性はあるが、今はそっちも封鎖してるもんな。この調子で現れる赤兜を皆殺しにしていけば、どんどんジュダを追い込めるってもんだ。


赤兜の中にはまともな奴もいるんだろうけどな……








「おい! どうなってんだよ! 全滅じゃねえか!」

「あれが魔王か……」

「どうすんだよ! あんなんどうやってぶち殺すんだよ!」

「一瞬であれだけもの水が……」


「まだこっちぁ十五人いんだよ! 囲んでぶっ殺せばいいだろ!」

「無理だ……」

「あぁ!? てめぇ臆病風に吹かれてんじゃねぇぞ!」

「同じ目に遭うだけだ……」


「ここで騒いでいても意味がない。安全地帯まで退くぞ」

「ああ!? 俺ぁ行くぞ! ソネルヒコの仇ぃとるからよぉ!」

「俺もだ! 赤兜が舐められてたまるか!」

「さっきあんだけやべぇ魔法使ったんだ! もうほとんど魔力なんぞ残ってねぇだろ! 今が好機だ!」


「勝手にしろ。俺は退く。お前らは好きに判断すればいいさ」

「けっ! 臆病者が! それでも赤兜かよ!」

「まったくだぜ! おう行くぜ! ギザン達の仇討ちだぁ!」

「今度は一人ずつバラけて行くぞ。地べたに這いつくばって、ギリギリまで見つからないようにな!」

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