1831話 地下二十階

そして十九階もクリアして、とうとう二十階だ。この階層には二十一階から外に出ようとする奴らが集まっているはずだが……

そうすると、私達の速さからして一番遅い奴らに追いついてもおかしくはないよな。まずは安全地帯を探す。ここまでは全て岩山の洞窟だったから分かりやすいんだよな。初見だとボス部屋と区別がつかないけど。


おっ、さっそく発見。さすがカムイ。


「ガウガウ」


おおそうか。中には誰もいないのね。気が利くね。


「みんな。ここで少し休憩してからボスを探そう。」


風壁を張ってはいるけどかなり寒いしね。二十階でこの寒さなら、もっと下層に行くとどうなることやら。


おっ?


『火球』


洞窟前に着陸した途端、雪の中からガバっと魔物が現れた。私達を囲むように、待ってましたとばかりに。でも残念。私達に不意打ちが効くわけないだろう。誰一人として気を緩めてなんかいないからな。つーかカムイも分かってたんなら教えてくれよ。『中には』誰もいないって……

おっと、アーニャだけは「わあっ!」と驚いていたが。なんだか新鮮な気分だわ。


「へー。スノウゴーレムじゃーん? 魔石拾っていーい?」


「ああ、いいよ。」


スノウゴーレムって言うのか。私には玉が三つの雪だるまに見える。あ、全部蒸発させたと思ったら復活した。魔石が地面に落ちたからか。そこらの雪が肉体になったってわけね。


『葉斬』

『風球』


おっ、さすがクロミ。バラバラしておいて魔石にだけピンポイント浮身を使って手元に引き寄せてる。やるじゃん。私がゴーレム相手によくやる魔石のぶっこ抜きのスマートなバージョンだな。


「ほぉ。クロミさんと言ったかな。驚いたよ。わずかな魔力しか込めてないのに相手があそこまでバラバラになるなんて。しかも間髪入れずに、しかもあの狭い範囲に魔法をかけるなんて。見事だ。」


さすがに兄上もよく見てるな。


「まぁーねぇー。ウチはニンちゃんみたいに魔力の無駄遣いしないしー。つーかニンちゃんみたいに無駄遣いできるほど魔力ないしー。てかニーちゃんいい目してんね?」


うるせぇよ……

いや、それよりニーちゃんって兄上のことか?


「相手によって込める魔力を変えてるのかな。よく瞬時にそこまで判断できるものだ。やはり世の中は広い。」


それぐらい私にだって分かるんだからな。


「もちろんだしー。あいつら近寄ったらちょーウザいからさー。一気に全滅させないとねー。」


そしてクロミは魔石をゲットか。ゴーレムの魔石って自家製コンクリを作る時に重宝するんだよな。クロミは何に使うんだろ。


「おう。洞窟ん中ぁ安全だぜぇ。間違いなく安全地帯だぁ。」


ドロガーも無駄のない動きをしてくれるね。偉い。洞窟だからって安全地帯とは限らないもんな。罠部屋ってケースも普通にありそうだし。


よし。今度こそ休憩だ。




はぁぁ……やっぱりアレクのお茶は美味しいなぁ。心まで暖まるね。


「カース、少し思ったことがあるんだが。」


「おっ、何なに?」


「ここらで二手に分かれてはどうだ? この階のボス部屋前と、次の階の帰り道前とにだ。」


なるほど……


「それいいね。さすが兄上。そうなると……どう二組に分けようかな。」


単純計算で一組あたり赤兜を百二十人ちょいほど受け持つわけか。実際には三十一階から外に出ようとする奴らもいるはずだから、もっと少ないだろう。

正直戦力を分けることには抵抗がないでもないが。まあ、このメンバーなら余裕な気もするし……油断は禁物だな。


「まずコーちゃんとカムイは分かれてもらおうか。どちらも探索や警戒に必要だからね。それから魔力量からするとカースとクロミさんが分かれることになるか。そうすると近接戦闘的に僕とドロガーさんが分かれようか。」


うーん的確。やっぱ兄上は頼りになるぜ。


「そうなるとカース組にはカムイとお義兄さんね。奥に進む組の戦力を上げておかないと。それにドロガーはクロミと一緒にいたいでしょうし。問題は私とアーニャはどうするか……」


「ピュイピュイ」


コーちゃんがアーニャの首に巻きついた。


「コーちゃんがね。アーニャのことは任せてって。そうすると二十階のボス部屋前はほぼクロミ一人に任せることになるな。大丈夫?」


「ウチ? もちろんだしー。黒ちゃんだってウチが守ってもいいぐらいだしー。」


そうなるとアレクはこっちだな。いささか戦力が偏ったような気もするが……まあ二十一階の方が奥から強い奴らが戻ってくる可能性が高いしな。


「あ。でもアーニャが陰陽計を持ってたわね。ならアーニャが二十一階に行くといいわ。でないと合流に不便じゃないかしら。」


「なるほどな。さすがはアレックスちゃん。こちらから二十一階に合流するより二十一階からこちらに戻る方が簡単なんだったね。そこで半日か一日か時間を決めて合流するってわけだね。」


二人とも陰陽計だけを私には渡せばいいと分かってるくせに。あまりにもアーニャを置いてきぼりで話が進んだもんだから気を遣ってるな。そうなると決断するのは私だ。アーニャはこの手の話に口出ししないからな。


「じゃあ二十一階に行くメンバーだけど、僕と兄上、それからカムイとアーニャね。」


せっかく言ってくれたのにごめんねコーちゃん。


「ピュイピュイ」


これで戦力的には半々ってとこか。


「あ! 昼間になったよ。今が朝なんだね。だったら合流は十二時間後とか?」


アーニャの手元の陰陽計が白くなっている。これって魔道具だと言われなかったらただの装飾品に見えるな。磨かれたピンポン玉をブレスレットにしてるイメージかなぁ。


「それがいいね。さすがに一日中ぶっ通しで警戒するのはきついからね。じゃあ、そうと決まればみんな乗って。ボス部屋を探すよ。」


さて、上手くいくといいが。

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