1824話 第三の迷宮

私は上から狙撃。兄上は正面玄関、ドロガーは裏口でそれぞれ出てくる赤兜を待ち構える。避難訓練なんかしてないんだろう。どいつもこいつも慌てて外に出るばかり。瞬く間に兄上の剣の餌食となった。うわぁ……さすが兄上。めちゃくちゃ強くなってる……


ドロガーの方は軽く傷を付けるだけで制圧が終わっている。あいつの激痛ってこんな時も便利だよなぁ。赤兜は痛みでのたうち回り何もできない。なら私がトドメ刺しておこうか。ついでだからね。


それ以外の場所から脱出した奴にも上からライフル弾が飛ぶって寸法だ。今のところ民間人は一人もいない。料理番とかいると思ったんだけどな。それとも食事は街の方でするからいないのか?


あらかたの赤兜を制圧した頃、街の方から数人が走り寄ってきた。これだけ燃やせばそりゃあ目立つわな。


「貴っ様らぁ! 何やっぐぁぅ!?」

「やめっ? 何をっ!?」

「たすっ! けっとぉ!?」


兄上容赦ないな。話ぐらい聞いてやればいいのに。あ、でも一人だけ斬ってない。


「カース、彼は平民のようだ。話を聞いてやってくれ。」


すげっ。全員私服なせいで全然区別つかないってのに。瞬時に判断して騎士だけ斬ったのか……


「お前は街の住人だな?」


「そ、そそ、そうです!」


うんうん。素直なのはいいことだよ。


「ちょっと話をしようか。」


「は、はは、はいぃい!」


ふむふむ。こいつは街の自警団のリーダー的な存在なのね。こっちで煙が上がってるから非番だった赤兜と一緒に確認に来たと。

聖女フランや、さっきの赤兜が言い残した『ゆうしゃ』について思い当たることは無しか。使えねぇ……


仕方ないからヒイズルはもう終わりだと話しておいた。天都イカルガはもうすでにローランドの国王が直々に支配したと。赤兜みたいに死にたくなければいち早く挨拶に行け。そう教えてやった。私はこれでもローランドに愛国心があるからな。国王がそう動いたなら協力ぐらいしてやるさ。

リーダーの男は呆然として、よろよろと街へ帰っていった。


「よし。じゃあこの辺りの赤兜はだいたい片付けたと思うから、迷宮の入口前でベクトリーキナーさんを待ってようか。」


「ああ。少し休憩といこうか。」


「何なんだお前ら兄弟はよぉ……」


ドロガーが驚いてるな。ふふふ。自慢の兄上だからな。


「どうよ。うちの兄上は凄いだろ。ローランド王国一の剣士の弟子だからな。しかも国王陛下付きの近衛でな。その名も高き模範騎士だぜ?」


「いや知らねぇよ……」


「そんなことよりカースはフェルナンド先生の行方を知ってるのかい?」


兄上め、話題を変えやがったな?


「うーん、知ってるけど正確には分からないよ? だって山岳地帯だもん。」


ノワールフォレストの森ですらローランド王国より広いんだからな。それより広い山岳地帯ってもう意味分からんよな。


「そうか……山岳地帯にいらしたのか。さて、見張りをしつつ休憩しようか。」


迷宮入口前でアレクが淹れてくれたお茶を飲みながら輪になって休憩。今から迷宮に突入するとなると、一つ問題があるんだよな。どうしたものか……正直に言うしかないな。


「アーニャ、ごめん。ここの迷宮には連れていけない。」


「うん……分かった……どこで待ってたらいい?」


物分かりの良さが少し辛いぜ……無理して笑顔を作りやがって……


「ベクトリーキナーさんが戻ってきたら一緒にイカルガまで戻って「待ってカース!」


アレク?


「アーニャ。本当にいいの? カースはこう言ったけどあなた一人ぐらい守れないカースじゃないのよ? あなたが大事だからこう言ったけど……本当は一緒に来たいんでしょ!? 足を引っ張ることになっても、邪魔をすることになっても!」


「アレクさん……行きたいに決まってるよ! でも私には何の力もない。邪魔をして足を引っ張るだけしか……」


「分かってるのよ? あなたがジュダと話してみたい理由。事実を明らかにした上で過去を乗り越えるため、なんでしょ?」


え? そうなの? 過去って言っても今のアーニャには関係ないのに。ジュダの手垢なんぞ付いてないきれいな身体なんだけどなぁ……でもアーニャが気にしてるんなら……


「やっぱりアレクさんには分かるんだね。カースは本当に何も気にしてないみたいだけど……それが私にはすごく嬉しくて、ちょっとだけ悲しいよ……」


えーい……難しい話をするんじゃないよ……


「だったらアーニャも一緒に来るべきね。もうジュダの命は長くない。過去を乗り越える機会は今しかないみたいだものね。」


「アレクさん……カース、いいの? 私も一緒に行って……」


「よくはないんだけどね……仕方ないね。行こうか。でもジュダと話せるかどうかは分からないからね?」


見つけ次第殺す気満々だからね。


「うん。ごめんねカース。大人しく座ってるから……」


「余計な口出ししてごめんなさいね。でもアーニャにも苦悩があるみたいで……」


アレクは優しいよなぁ。そりゃアーニャはムラサキメタリックを着用するわけだからたぶん無傷だろうけどさ。それでも心配なのは心配だからな。だって迷宮なんだぞ? シューホー大魔洞はどうにか無事に出ることができたけどさ……


「いいよ。ジュダをぶち殺してすっきりしようよ。いや、半殺しで済ませておこうかな。殺すのはあれこれ吐かせた後ってことで。」


「うん……カースありがと……」


さて、ベクトリーキナーさんはまだかかりそうだな。となると……ちょっとオワダへ行ってこようかな。ドラゴン装備の回収にさ。私なら一時間とかからないしね。




戻った。完璧とは言えないものの、前の状態よりはずいぶんと治っていた。これで安心して迷宮にも潜れるってもんだ。




おっ、来た。遠くの空に影が見える。何人だ……?


「待たせたな魔王殿。さすがに陛下はお越しになれないが宮廷魔導士と近衞騎士をこれだけ遣わせてくださった。」


ざっと十人ずつか。一騎当千の宮廷魔導士に兄上並みの腕を持つ近衞騎士。これなら安心だな。


「お務めご苦労様。あっちの街の方に自警団が残ってるから。挨拶に来たら適当に相手してやってもらえるかな。もうヒイズルは陛下の支配下だと話してあるので。」


「さすがの手回しだな。見たところすでに制圧は終わっているようだし。ならばもう行かれるのか?」


「ああ。突入する。くれぐれもここを頼むよ。それからジュダの魔石爆弾は超危険だから。気をつけてね。」


「心得た。魔王殿も気をつけて。」


さあて。これで行き違いになっても大丈夫だろう。

それにしてもこんなタイミングで三つ目の迷宮に入ることになるとはな……


この、タイショー獄寒洞に……

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