1825話 タイショー獄寒洞
なんだ……この迷宮は……
カゲキョーやシューホーと全然違うじゃん。迷宮らしい通路がない。中に入ったらただ草原が広がっているだけ。いや、草原にしては寒いか……外は冬なのに、それより寒い。
いやいや、気候はどうでもいいんだよ。問題はこんな風にフィールドが広がっていると……いくらでも隠れることができるじゃん……くっそ、マジかよ……
「おいドロガー、ここはどうなってんだ?」
「あぁ? 見た通りだぜ? タイショー獄寒洞はこんなもんだぁ。言わなかったっけ?」
「聞いてねーよ。てっきりカゲキョーやシューホーと同じもんかと思ってたわ。これでも安全地帯とかあんのか?」
「おお、あるぜぇ。どうする? まずぁそこいってみるか?」
「ああ、頼む。もしかしたらジュダの痕跡ぐらい残ってるかも知れないからな。」
まあ、二十四時間経ったら消えてるんだろうけどさ。ほんと迷宮って証拠隠滅に便利だよなぁ。
「よし。全員乗って。さっさと行こう。」
こんなだだっ広いところを呑気に歩いていられるか。飛ぶに限るね。
『風壁』
風を遮るだけで体感温度はかなり違うからね。残念ながら暖房までは無理だ。暖気がアーニャのムラサキメタリックに触れると、かき消されてしまうからな。
おっと、空を飛んでても魔物が現れるのか。こんな寒い中ご苦労なことだな。
『氷弾』
アレクがあっさりと仕留めてくれた。私の風壁をぶち抜いて……
ちなみ少し大きめのカラスの魔物、ブラッククロウだった。あんなのでも突撃されると結構ダメージ大きいからな。
「魔石は必要ないわよね?」
「うん。別に大物でもないしね。放置でいいよね。」
地上にも狼っぽい魔物が何匹か見えるが、そっちはカムイが飛び降りると腹を見せて服従の姿勢を見せた。その後、カムイがひと吠えするとすぐに逃げていったが。
「おう魔王。あれだ。あそこに見えんだろ? あの洞窟が安全地帯だぜぇ。」
「おお。分かった。」
よくある岩壁にある洞窟だな。鉄ボードごと突入。あ、意外と暖かい。
「さて、入ったばかりだけどまずは休憩しようか。少し暖まりたいところだしね。」
このメンバーだとみんないい装備してるから少々の寒さなんか関係ないとは思うが……
一人例外が……
「か、カース……ごめん……死ぬほど寒い……」
アーニャ。無理もないよな。ムラサキメタリックの鎧に身を包んでるんだから。この鎧ってたぶん持ち主なら温度調節が効くはずなんだよなぁ。とりあえず装備解除しようか。このままだと凍死しかねない。
「あー……寒かったよぉ。ごめんね……手間ばかりかけて……」
「このぐらい何てことないよ。」
でも困ったな。内側にアレクのコートを着ていてもその寒さとは……
「はあぁ……カースの中あったかぁい……」
風壁の中ね。洞窟の中は外より多少は暖かいけど、それでも寒いからみんなを大きめの風壁で囲っている。さっきと違って暖房付きで。
元々アーニャ以外のみんなは平気そうにしてたけど。みんな装備がいいもんなぁ。兄上は鎧こそ装備してないものの近衞騎士団の制服だしね。クロミはゆったりとしたローブを着てる。どちらも温度調節ぐらい付いてるよな。
アレクは私とお揃いのドラゴンウエストコートだしね。コートがなくても胴体は寒くはない。
しかし困ったな……どうしよう。
「なあドロガー。ここって奥に行ってもこの寒さなのか?」
「俺ぁ五階までしか知らねぇけどよぉ……だんだん寒くなんぞ?」
だんだん寒くか……まずいな。
「アレク、アーニャを頼んでいいかな。暖かさを保ってくれる? それから護衛も。」
なんせアーニャはもうムラサキメタリックを装備できないからな……
「いいわよ。元々私が言い出したことだもの。任せて。」
「アレクさん……ありがとう……」
「とりあえずアーニャは鎧なしでアレクの傍にいるってことで。いいかな?」
「ええ。大丈夫よ。」
まさかここまで寒いとはな……私ですら何も魔法使わなかったら手や顔が凍えてしまいそうだ。ましてや金属鎧の中でじっと座っているだけのアーニャはどれほど寒かったことか。
なまじムラサキメタリックなせいで風壁内に暖房をかけようとしても、鎧の周辺は全ての魔法効果が打ち消されてしまうもんな。そのくせ外気の寒さはそのままスルーだなんて。完全魔法防御も考えものだな。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
そっか、この安全地帯にジュダの痕跡はないんだね。ありがと。よし。じゃあ次行こうか。
「ドロガー、ここはボスっているのか?」
「おういるぜ。もうボスんとこ行くんか?」
「いや、聞いただけ。あと、五階からいきなり外に出れたりするか?」
迷宮は十階ごとなら外に出られるはずだからな。
「いや、俺の知る限りそれはない。ただ十階まで踏破すりゃあどうなんかは知らねぇがよ?」
「そうなるとジュダ達が十階まで行ってる可能性も無視できんな……」
参ったな。取り逃す可能性が出てきた……
まあいい。外は王都の近衞騎士と宮廷魔導士が囲んでるんだ。そこは任せればいいだろう。そうなると……
「よし。各階の安全地帯を調べてみよう。迷宮内で逃げ込む先なんてそこぐらいのもんだろ。」
「おうよ。そんなら俺に任せとけやぁ。五階までなら知ってっからよぉ!」
そもそもジュダは私が追跡してることなんて知らないはずだからな。このくそ寒い迷宮内でわざわざ安全地帯以外の場所に隠れるとも思えん。このまま十階までの安全地帯を調べてみて、いなければ入れ違いで外に出たと考えていいだろう。
あーもー……ジュダが小賢しくてムカつくわぁ……絶対追い詰めてやるからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます