1822話 集う役者2

視界を埋め尽くす真っ白な光。その後に襲ってきたのは轟音。ジュダの魔石爆弾より、私の超圧縮業火球よりも激しい爆音。山が消し飛ぶどころか、破壊の痕跡が山の向こうまでずっと……


「ではなカース。健闘を祈っておるぞ?」


「押忍。陛下もお疲れ様でございました。」


「グオオオオオォォォォ……」


「ピュイピュイ」


コーちゃんがヘルムートに何か言ってる。何て言ったの?


「ピュイピュイ」


肩の力を抜けって? あはは、コーちゃんたらやるねぇ。ヘルムートったら他国に来たもんで張り切ったのかな? それとも久々に全力を出せてご機嫌とか?


「ピュイピュイ」


あ、別に全力じゃないのね……あの野郎……

まあいいや。宿に戻ろうか。差し当たっては客室係にことのあらましを教えてやろう。




「と、いうわけだ。この情報は広めて構わんよ。むしろ今のうちに陛下に挨拶に行っとくと後々有利かもね。カースから聞いたって言えば少しは優遇してくれるかも知れないしね。」


保証はしないけど。


「な、なんと……あの閃光と轟音はそのような……ドラゴンが……」


「ジュダがどこに逃げてるのかは知らないけどさ、うちの国王が動いた以上イカルガはもう終わりだ。略奪とか粛清とかはおそらくないと思うから挨拶に行ったもん勝ちだろうよ。」


だいたいほとんどの赤兜は私達が駆逐しちゃったんだからさ。後は楽なもんだろうなぁ。全身をムラサキメタリックで固めた場合って近衞騎士でもいい勝負なぐらいなんだからさ。宮廷魔導士だと手も足も出せないわな。

シューホー大魔洞に戦力が残ってることは伝えたし、そのぐらいは国王がどうにでもするだろ。そこまで面倒見切れないからな。

つーかさぁ、いいタイミングで来たもんだよなぁ。もう二、三日早ければ私もそこまで苦労しなかったのになぁ。


いや、違うな。やはり私の甘さが原因か……

わざわざ攻め込まなくても、いきなり魔法をぶちかまして天道宮を灰にしてやればよかったんだよ。国王がやろうとしたみたいにさぁ。そんでジュダが生き残ったら生き残ったで次の動きを考えればいいだけの話だよ。まったく……


さらに言うなら、天都に着いた時点でのんびり面会の日なんか待たなくてさ。いきなり要求でも突きつけてやればよかったんだよ。断るなら天道宮を更地にするとか言ってさ。はぁーあ……やっぱ私って甘いんだなぁ……


だからって今さら生き方を変えようとも思わないけどさ……私はこれでいいんだよ。ヤマトゥオ村では普通に魔法ぶちかましたしね。まあ、あれはアレクだったけど。

そもそも私達は生き残っているんだから。生き残れば勝ちなんだ。だから気にしない。うん。それでいい。


「じゃあカース、明日は予定通り?」


「うん。ジュダを探すよ。あいつのヤバさは陛下にも伝えておいたから、もし天都周辺に姿を見せようものならすぐ捕まるだろうしね。僕らは僕らで遠くを探してみよう。」


遠くの方がいそうってこともあるしね。コーちゃんの直感に期待だね。


「てゆーかぁー、あのドラゴン様ってガチヤバだねー。絶対敵対したくないしー。」


「同感だぁ……なんだぁあのバケモンはよぉ……ローランドの国王はあんなもん使役してんのかよ……」


「使役っつーか召喚獣だな。うちのカムイとまあ似たようなもんだ。」


召喚のタイプは違うけどさ。


「意味分かんねぇよ……どんだけ魔力がありゃあ……あんなもん喚べんだよ……」


「魔力は知らんが特別な儀式はやってたな。ドラゴンと一対一で戦ってたぞ。ドロガーも挑戦してみるか?」


「バカ言うな……一瞬で殺されるに決まってんだろが……ローランドの王族ぁバケモンかよ……」


なんせ勇者の末裔だからな。それに勇者だけじゃなく四英雄の血まで混ざってるし。やっぱ才能って大事なんだろうなぁ……


「もう寝ようぜ。さすがに今夜はこれ以上何も起こらんだろ。」


たいして疲れてないけど、今夜はもうゆっくりしたい気分だもんな。


「つーかうちの天王陛下はあんなもんがいる国にケンカ売ってたんかよ……」

「知っててやったのか、知らずにやったのか。まあ天王ともあろう方が知らないはずはないだろ。ローランド王国か……」


ドロガーもキサダーニも神妙な顔してんな。いいからもう寝ようぜ。

あ、ギルドに集めたローランド人。全部国王に任せていいよな。でっかい船で来たんだからさ。乗せて帰ってやってくれよな。




さて、風呂。なぜかアレクだけでなくアーニャまで。二人で私の両サイドをかためている。


そして寝る時も私の両サイドには二人がいた。二人に腕枕するのってなんとなく落ち着かないな……手が塞がるからだろうか。

まあ夜中に喉が渇いても手を使うことなく水ぐらい飲めるからいいけどさ……




さて、朝が来た。先に起きたのはアーニャ。次にアレク。最後が私だったらしい。私が起きた時、すでに朝食の用意が終わっていた。塩おにぎりに味噌汁。そして焼き魚に香の物だ。やっぱヒイズルの朝食っていいよなぁ。最高すぎる。しかも味噌を塗った焼きおにぎりまであるじゃん。これは朝から飲みたくなるわ。景気付けに飲んでもいいけど、そしたら外に出たくなくなりそうだしな。次に酒を飲むのはジュダをぶち殺してからだな。それまで我慢だね。ね、コーちゃん?


「ピュイー」


張り切って探すから今夜飲みたいって? 私もだ。すっきりと終わらせて勝利の美酒に酔うとしようね。




そして宿の玄関に出てみると……


「カース、久しぶりだな。元気そうで何よりだよ。」


「兄上!? どうしてここに!?」


ウリエン兄上じゃないか。かれこれ一年ぶり、いやもっとか。かなり久々な気がするぞ。


「おいおい。僕は国王陛下が王太子だった頃からの近衞だよ。一緒に来ているに決まってるじゃないか。」


「いや、それは分かるけど。それがどうしてここに? 陛下の側を離れていいの?」


「陛下のご命令なのさ。カースを助けてやれとね。」


「あー、なるほど。実は今から天王ジュダを追い詰めに行くんだよね。正直兄上がいてくれると心強いんだけど、あいつはヤバいよ? ヘルムートのブレスほどもある魔石爆弾を持ってるからね。大丈夫?」


「はは、大丈夫じゃないけどね。かわいい弟がそんな危険なことをしようとしてると聞いたからには、ますます行かずにはおれないよ。」


兄上もオディ兄も弟愛が嬉しいね。


「分かった。ありがとね。で、そっちの人は宮廷魔導士さん?」


「ああ、同じく陛下より同行を命じられたベクトリーキナーさんだ。」


ベクトリーキナー? 聞き覚えがある家名だな。


「お初にお目にかかる。カリキュール・ド・ベクトリーキナーと申す。普段は南の大陸での任務が主なのだが、今回はこの地で動くことになった。何なりと言ってくれ。」


「どうも。カース・マーティンです。では後ほど遠慮なく頼むとしますね。じゃあ行きますよ。乗ってください。」


机ボードだとこれだけの人数は乗り切れないな。こっそりと大きめの鉄ボードを作っておいてよかった。


さて、目標は北西。

ジュダはどこに隠れてやがるか……首を洗って待ってやがれ。

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