1821話 集う役者
いやーよかったよかった。最高級魔力ポーション『
まだあまり眠くはないが、今夜はこれを飲んでもう休もう。そして明日の朝一からジュダの捜索を開始だ。だいたい北西の方にいるっぽい。これだけおおざっぱでも近寄ればきっとカムイが気付いてくれるはずだ。こりゃもう王手だな。
今度こそ兵力も残ってないだろうしな。懸念点としてはシューホー大魔洞から赤兜を呼び戻すことだが、仮に数日前の時点で指示を出していたとしても奴らの足ではここまで何日かかることやら。間に合うはずがない。
時間のことを気にするなら今すぐジュダ捜索に向かうべきだが、今の私の魔力では心配だからな。あいつがあんなヤバい爆弾を持ってる以上、こちらも万全を期すべきだよなぁ……
つーかジュダの野郎どうやって生き残ったんだ? ムラサキメタリックを纏ったまま浮いてやがったし……
まあいい。明日だ。明日から本気出す。
「と言うわけで明日は朝から北西方面にジュダを捜索に行く。メンバーだけど希望者は全員連れていくつもり。どうする?」
「私はもちろん行くわよ。」
アレクはもちろん来てくれるよね。
「ウチも行くしー。もういい加減終わらせたいしー。」
私もだよ。
「クロミが行くんなら俺も行くぜぇ。」
ドロガーらしいな。
「俺はイカルガの冒険者をまとめておく。ジュダにきっちりトドメをくれてやれよ?」
キサダーニが頼りになるなぁ。第四番頭も預けっぱなしだし。
「俺は残る……役に立てるとは思えないからな……」
テンポも治ってよかったな。確かにムラサキメタリックのないこいつはそこまで戦力にならないんだよな。
「私も、行っていいかな?」
「いいよ。もちろんあの鎧を着てもらうけど。」
「うん。面倒をかけてごめんね。もし、話せるならジュダと話してみたいと思って……」
アーニャ……
「それは構わないけど、たぶんそんな余裕ないと思うよ? 見つけ次第殺すつもりだからさ。」
もちろんその場合どうやって魔石爆弾を処理するかもきっちり考えてある。今度は爆発すらさせないぜ?
「うん。いいのいいの。大したことじゃないから。」
ジュダに質問か……大したことないわけないだろう……私は全然気にしてないのに。でもアーニャはきっと私にどう思われてるのか気にしているはずだ。なんせあれだけ悲惨な過去があったんだから。しかし、すでに経験すらしてない状態になったというのに……それでも気になるのが女心なんだろうか。
私はジュダに聞きたいこと……もうないかな。魔石爆弾の製造方法とかムラサキメタリックの製法や個人登録の仕方とか、気になる細かい事はいくつもあるが最早どうでもいい。そんなことはジュダをぶち殺してから生き残った職人でも探せばいいだろう。ジュダ一人で出来ることじゃないだろうし、第四番頭も職人の存在を語ってたもんな。
よし。話もまとまったことだし風呂に入って寝ようかな。
「ギャワワッギャワワッ!」
コーちゃんの警告!? なっ!? なんだこれ!? 外から……いや、上から感じる凄まじい魔力は……!? ふざけんなよ……私の比じゃない……一体何が……
窓から飛び出して空を見上げる。とっくに日は暮れているはずなのに……空が明るい……
そんな夜空を雄大に、悠々と飛んでいるのは……ドラゴン!? 百メイルをゆうに超える巨大……青紫に輝く鱗……こいつ、暴風龍、テンペスタドラゴンのヘルムートじゃないか……
と、いうことは……
『天王ジュダに告ぐ! 余はローランド王国国王クレナウッド・ヴァーミリン・ローランドである! 先の動乱に際して貴様の介入があったことは最早明白! 大人しく頭を下げに出てくるがいい! このまま五分だけ待つ! そうでなければ長き歴史を誇る天道宮とて尽く灰燼と化してくれよう! それから天都イカルガの民よ! 余はそなた達を害するのは本意ではない! 巻き添えをくいたくなければできるだけ天道宮から離れるがいい!』
天都中に響き渡る拡声……マジで国王が来やがった……あれだけ冗談で国王がドラゴンに乗って天都を丸焼きしに来るって言ってたのが。本気かよ……
あ、いかん。今天道宮にはジュダどころか丞相すらいないんだ。もちろん国王がそんなこと知るはずがない。つーかやるなら朝やればいいのに。こんな夜にやんなくても。
「アレク、ちょっと行ってくる。」
「え、ええ……気をつけて……」
アレクが怯えている……無理もない……信じられないほどの魔力だもんな……
行くよコーちゃん。
「ピュイピュイ」
『浮身』
『風操』
ん? よく見ればヘルムートの周囲を魔法使いが囲んでるじゃないか。かなり離れてはいるが。
私に気付くと素早く近寄ってきた。
「何奴!?」
「こんばんは。カース・マーティンです。宮廷魔導士さんですか? 妙なところで会いますね。」
「まさか……魔王殿か? 貴殿こそ一体なぜヒイズルに……」
「物見遊山のはずだったんですけどね。それはそうと少々陛下にお知らせがあります。ジュダのことで。」
「よかろう。だがヘルムートがかなり気が立っておるようでな。くれぐれも刺激せぬようご注意されませい」
「どうも。」
さすがにクラウディライトネリアドラゴンほどではないけどさ、どんだけヤバい魔力なんだよ……くっそぉ、悔しいな……こいつには勝てるつもりだったんだけどなぁ。いや、魔力が大きければ強いってわけじゃないし。
「陛下!」
「ん? その声はもしや……」
「ご無沙汰しております。カース・マーティンでございます。」
国王はドラゴンの背中に立っていた。鞍も何もない。身一つでドラゴンの背に。
「妙なところで会うではないか。旅に出ているとは聞いておったがな。して、何用だ?」
「ジュダのことで。今の天道宮は空っぽです。私が皆殺しにしたもので。」
正確には違うけどさ。
「なんだと? 詳しく話せ。」
私はヘルムートの背中に降り、片膝を突く。
「グオオオオオォォォォ……」
唸るんじゃねぇよ。話の邪魔すんな。
「ヘルムートはお前の靴が気になるそうだ。まあそれはよい。」
「はい。実はですね………………」
「ほう? そこまで掴んでおったか。天晴れである。こちらも似たようなものだ。それでいつぞやの報復に動いたというわけだ。」
「もしかしてここまでヘルムートに乗ってきたんですか?」
「いや、違う。さすがにそれでは魔力が持たぬからな。普通に船よ。お前が献上してくれたドラゴンゾンビの骨で作った最高の船『ゴッデス・アレクサンドリーネ・マーティン』でな。」
へぇー。船でねぇ……
あっ! もしかしてちょっと前にヨーコちゃんが沖を通る大きい船を見たって……これのこと!? テンモカ沖を二、三週間前に通過したとすると……遅すぎない?
「もしかしてここに来るまでに寄り道されました?」
「おお。知っておったか。南の大陸に少々立ち寄ったな。少しばかり戦力の補充のためにな。」
「そうでしたか……」
よく分からん。分からんからスルーでいいや。
「そうなると天道宮を灰にする必要はないか。ならばせっかくだ。今宵はあそこに泊まるとするか。そして明日の朝にでも触れを出そうではないか。ヒイズルの国は今日からローランド王国の属国だとな。」
「頑張ってください。私は明日の朝一でジュダを追い詰めますので。」
「それには及ばぬ、と言いたいところだがカースよ。お前の行動を掣肘することなど余にはできぬ。よって好きにするがいい。」
「ええ。好きに動きます。ではジュダの件が片付きましたらご報告にあがります。あ、それから撃つ的がなくなってつまらないんでしたら西のあの山なら人間がいませんよ。」
まだ半分ぐらいは山が残ってるし。
「ふっ、よく分かっておるではないか。これからヒイズルを征服するにあたって示威行為は重要だからな。」
『ヘルムート。やってくれ』
『グオオオオオォォォォオオオオオーーーー!!!!』
眩しくて目を開けていられないほどの光量がイカルガを覆い尽くした……
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