1802話 水入り
くそ……頭が痛い……
起こすんじゃねぇよ……
もう少し寝かせろよ……眠いんだからよ……
うるせぇなぁ……私を起こしていいのはアレクだけ……
なんか息苦しい……
あれ? ここどこ……
真っ暗……水中?
思い出した! あっぶね!
あの野郎……目の前でクソやばい爆弾を爆発させやがったんだ! 私じゃなければ死んでたぞ!? 一瞬ピカッと光ったかと思ったらもう意識が飛んでたし。分厚い鉄壁を張ってたのに眩しいって意味分からん。たぶん一瞬でぶっ壊れたんだろうなぁ……てことは水壁もあっさり蒸発したのか。自動防御を全開で張ってなければ死んでたな。残る魔力は二割ってとこか。めちゃくちゃ消費してしまった……至近距離での核爆発に耐えたと考えたら上等すぎるけど。すごいぞ私。
『水中気』
『暗視』
『
足裏からの水流で水面に出よう。どんだけ深く沈んだんだよ……
『落雷』
ふん……魔物なんかに構ってられるかよ……死んどけ。
つーか……ジュダの奴死んだんじゃない? あれだけの爆発だぞ? いくら全身ムラサキメタリックでも無理だろ? それに万が一生きてたってどこまで吹き飛んだか分かったもんじゃない。私でさえこれほどぶっ飛ばされたんだからな。おまけにあの鎧のまま海に落ちたら終わりだしな。やったぜ。
……んなわけないだろ……
あれだけ余裕こいてやがったんだ。きっと自分だけは助かるカラクリがあるに違いない。例えば転移するとかさ。でもあのタイミングでの転移は母上でも無理だろうしなぁ。空中に魔法陣を描けるとも思えないし。
それより私がじわじわと送り込んでた『乾燥』と『微毒』の魔法が気になるな。ジュダが違和感を覚えないようにかなり微細にかけてやったからな。乾燥は直接身体へ、微毒は酒と刺身へと。私の目の前で余裕こいて飲み食いするからだ。やっぱあいつもう死んでんじゃないの?
『落雷』
魔物が鬱陶しいな。おっ、ようやく水面だ。
ふぅー。うはぁ……めっちゃきれいな星空じゃん。何も遮るものがない。今にも降ってきそうってこういう状態かな。満天の星だね。
アレクと見たいな。
あ……やばい……
やってしまった……
小さい頃に夜のグリードグラス草原でやらかしたあれを……
帰りの方向が分からない!
マジかよ……こんな時に……
こんな時のために初等学校では星の読み方を教えてるのに……そして私だってきっちり覚えたのに! なのに! 羅針盤ばかり使ってたせいで……全部忘れてしまった……
なんてこった……たぶんローランドとヒイズルは緯度が同じぐらいだってのに!
東に百キロル以上は来たからなぁ……魔力探査したってイカルガまで届くはずがない。とりあえず上空まで浮かんで周囲を見てみるが……
やっぱだめか。海しか見えない。
いや……今の私ならいけるんじゃないか?
さらに上空に昇り……
再び『暗視』
それから『遠見』
これでじっくりと観察すれば……
くっそ!
見えるのに!
見えるのに霧がかかってやがる! 嫌がらせかよ! 真冬の海上だってのに!
あれ?
もしかして……霧が出てる方が陸じゃない?
そうだ! 冬なんだから海上より陸の方が寒い。で、陸から海へ冷たい風が吹いて発生するんだっけ? 沿岸部とかでさ。
と、するなら……三百六十度の視界のうち、霧が立ち込めているのは約九十度。あれがヒイズルの東側沿岸部とするなら……帰れる!
遠見も暗視も使えなかったあの頃とは違うのさ。
『風操』
帰ろう。ジュダがどうなってるのか気になるが探しようがない。せめて魔力探査を使いながら帰るぐらいだな。
あとは……あっちに陸地があることを信じて……
『風操』
速度アップ。スーパーマンの姿勢でかっ飛ぶぜ! これなら例えジュダが生きていたとしても私の方が先に帰り着けるな。方向が合っていればの話だが……
十五分ぐらい経ったかな。陸地が見えた。私は賭けに勝ったのだ。ジュダっぽい反応を見つけることはできなかったけど。
問題は……地形に全然見覚えがないことなんだよな。ここはイカルガより北なのか南なのか……
南の大陸だったら笑うが、距離的にあり得ない。東のメリケインだったら弱ってしまうが、それこそ距離的にあり得ないもんな。
地元民に話を聞きたいが、そもそも街がない。街があっても全員寝てるだろうけどさ。私だってかなり眠い。さすがに今日は大暴れしすぎたもんな。だが、それだけの収穫はあった。教団に聖女、そしてヒイズルとの関わり。この話を国王にしてやったらびっくりするだろうねぇ。エルフの村には報復をしてないが、ヒイズルが相手ならやりかねないな。
さあ困った……北と南、どっちへ行こうか。
よし、南にしよう。私が海中で目覚めるまでに流されてる可能性があるからな。流されたとするなら海流的には北だ。よって南に向かってみる。
おお!
正解!
いつだったか夜中に弾丸を作るのに利用した海岸ではないか。やっと帰ってきたぜ。こんな真夜中過ぎだってのに街中が騒がしい。ジュダの野郎が西で魔石爆弾を使いやがったからな。私があの山を吹っ飛ばした時はそこまで騒ぎになってなかったが、今回は夜の大爆発だもんな。起きてる奴がいたら絶対見えただろう。この世の終わりと勘違いしたっておかしくない。
だがそんなのは無視して私はギルドへ向かう。おっ、大勢集まってんな。周囲に赤兜はいないようだが……
さて、私が着陸するのはギルドの隣。治療院だ。アレク達もここにいるはずだからな。
ここで態勢を整えて、ジュダをきっちり迎え撃ってやるぜ。
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