1799話 メリケイン連合国の歴史

メリケイン連合国。

ジュダの話によると戦争に負けて国を追われたメリケイン王国の貴族がどういうわけか落ち延びた先がかの大陸だったと。正確には流れ流されてたどり着いた先か。

それが今からおよそ五百五十年前。ローランド王国の歴史が三百五十年で、そこから二百年前といえば戦乱の時代のど真ん中か……計算は合ってるな。


その手の話ってローランドに全然伝わってないんだよなぁ……私が知らないだけかも知れないけど。そんな歴史があるとはね……そもそもヒイズルとすらそこまで付き合いがないんだから分からなくて当然と言えば当然か。


で、流れ着いたのはメリケインの西岸。当時そこには先住民族がいたそうだが暖かく迎え入れてもらったと。代わりというわけではないんだろうが、その貴族は魔法の力を使い先住民の生活に尽力した。対立部族が襲ってくれば撃退し、巨大な魔物が現れれば狩り、厳しい寒暖差にも耐えられるよう服に魔法を付与したり。


そしていつしか貴族は最初の部族だけではなく、そこら一帯全ての部族を統一した王となり小さいながらもメリケイン王国を名乗った。それが連合国の第一歩ってわけだな。


それから大陸各地で戦争が勃発。発端はメリケイン王国の力を恐れた国が攻め込んだということになっている。実際はどうなのかは最早分からないだろうけどね。

そうしてローランド王国の数倍は広い国土が戦火にまみれた。侵略、統合、滅亡、分割……そんな三百年を経て、生き残った国が大きく分けて四つ。


大陸西岸から中部までを支配したメリケイン王国。

大陸北部を堅持するビーリンガ皇国。

中央山脈より東側を支配するヌオールズ聖国。

そして最も広大な南部を領有するボーモントタイラー武王国。


どの国も自国こそが大陸を統一するに相応しいとの考えを譲らず、そこからまた百年近く争いを続けていた。


そんな時、メリケイン王国にローランド王国やヒイズルの事情を知った者が現れた。どちらの国も統一されているため、もしこのまま同じ大陸で争いを続けていたら……攻め込まれる可能性がある。そして攻め込まれた時に背後を気にしていては勝てる戦いにも勝てなくなるということにも。

そしてそれは東側のヌオールズ聖国でも同じはずだ。ローランドから攻めて来なくても、より東、海を隔てた他国から攻め込まれる可能性もあるのだから。


それでもまだ上手くまとまることはなく、紆余曲折を経て合議制とすることで一応は決着がついた。大陸の代表としては各国が十年任期の回り持ちで代表を務めることになった。その名称は『総領』。


そして国名をメリケイン連合国と改めて、どうにか統一することができたと。それがわずか百五十年前なのね。ヒイズルより遅いじゃん。でもまあジュダの知る限り、現在までどうにか戦争は起きておらずまあまあ平和にやっているらしい。

代表的な四つの国以外にも様々な理由で生き残った小さい国が十ばかりあるそうだが、それはまあどうでもいいだろう。


ちなみに、できたばかりの新メリケイン王国の初代国王はゼルグレット・ド・メリケインと言うらしい。それが本当なら旧メリケイン王国の貴族ではなく王族ってことになる。『炎姫と剣奴』によると旧メリケイン王国の王族は全滅したってことになってるし……つまり偽名か? 国王や自国を愛するあまり、国王の名前を拝借したってことか?

公文書には偉大なる王の名を永遠のものとするため……的なことが書いてあったとか。色んな奴がいるもんだ。


「とまあそんなわけでさ。メリケインにはそっちの大陸の魔法技術が伝わってるってわけ。で、僕はそれを改良してさっきのような威力の魔石爆弾を作ったってわけさ。天才だからね。」


「爆発の威力を上げたことは分かった。じゃあどうやって制御してんだ? 当時は僅かな魔力を流しただけで爆発するような味方殺しの兵器だったはずだ。それをリモコンで爆発できるまでに仕上げたってことか?」


呼び鈴の魔道具があるんだから出来てもおかしくはないが……


「うーん。無理。鳥が咥えて飛ぶようなしょぼい威力のやつならまあどうにでもなるんだけどさ。さっきほども威力があるやつだとねー。どうにもならないね。完成した瞬間から爆発しそうで怖いねー。」


「だから人間を鉄砲玉にしてるってわけか……性能のいい魔力庫に入れてさえおけば、ひとまずは爆発しないからな……」


腐れ外道が……


「せいかーい。つまりさっき僕が押したのは、奴隷くんに『魔力庫から出せ』の合図だったのさ。爆発寸前の魔石爆弾を魔力庫に収納しておけば、そいつが死んだとしても爆発するしね。だから僕を殺すと危ないよ? いくら君でもこの距離で助かるのかなぁ?」


「試してみるか? 俺が死ぬかどうかは分からんが、お前が確実に死ぬってことは分かった。ところでお前、寒くないのか?」


すでにかなりの上空まで来ている。天都イカルガが私の人差し指と親指で作った輪の中に余裕でおさまるほどに。暗くてよく見えないけど……


「顔が少し寒いかな。いやー熱燗が沁みるねぇ。君ももっと飲みなよ。」


ふん。さすがにいい服着てやがるな。


「それなら安心だ。このまま行くぞ。天空の精霊の領域までな。」


「ふーん。そんなところまで行ってどうするの? あいにくだけど、このリモコン魔道具はヒイズルの国中ならどこでもカバーできるぐらいは届くよ。だから例え成層圏を越えても大丈夫さ。」


「さあな。おっと、一問一答だったか。それなら答えよう。ただの我慢比べさ。真冬のくそ寒い真夜中にこの高度。酸素はどんどん薄くなるし、どんどん寒くなる。もしかしたら俺の魔力が切れるかも知れん。その時は自前で勝手に飛べよ?」


「へー。意味ないけど面白いことするね。それに君のその着流し、お洒落だけど寒そうだね。ていうか白シャツに着流しって。すごいセンスしてるね。あはは。」


せいぜい余裕こいてやがれ……罠はこれだけじゃないんだからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る