1798話 メリケイン連合国とジュダ

「質問に答えろよ。焼け野原になった王都やバンダルゴウを支配して意味があるのか?」


「ははっ、転生者なら知ってるんじゃないの? 核ってのは持ってるだけで最強の武器なんだよ? ローランドの王都でなくともその周辺、えーっとアレクサンドル公爵領やアジャーニ公爵領だっけ? そこら辺を焼き尽くせば君んとこの国王だってビビりまくって僕に頭を下げにくるさ。」


無理だな。こいつに頭を下げるぐらいなら死ぬまで戦いそうな気がする。つーかうちの王族なら核でも耐えきれそうな気がするよな。その場合は王都壊滅か……いやいや、そもそも核だなんて私は信じてないし。


「百歩譲ってお前が核を持っているとしよう。なら原料は何だ? こんな島国でウランが産出するとは思えんな。」


地球だとどんな所で産出されてるのかは知らないが。


「あははっ! あはっ! 認めたね! やっぱり君も転生者だ! いやー嬉しいな。実は僕ってこんな感じで転生者がいないかちょくちょく探してるんだけどさ。全然見つからないの。ローランドには何人かいるんだよね?」


会話する気ねぇのかよ。


「知らんな。それより質問に答えろよ。答えないならこの遊びは終わりってことでいいんだな?」


「君はせっかちだなぁ。だからモテないんだろうね。で、核の原料だったか。もちろんウランなんか採れないよ。当たり前じゃん。原始人だらけのこの世界でウランもラジウムも見つかるわけないし。仮に見つかったとしてもどうやって濃縮できるってんだい? おまけにそこからプルトニウムを精製するだなんて無理に決まってんじゃん。原子炉もないのに。そのぐらい分かるだろう?」


分かるわけないだろ……ウランの濃縮? プルトニウムの精製には原子炉がいるのか? 知るかよそんなもん……


「じゃあ核なんぞ作ってないってことか?」


「そうだよ? 当たり前じゃん。最初から魔石爆弾だと言ってるよね。だから核なんかと違ってクリーンだよ? 王都を灰にしたって人が住むことぐらいできるね。おまけに持ち運びは自由ときたもんだ。いやー魔法って便利でいいよねぇ。」


「てめぇ……赤兜に運び屋やらせるつもりか。しかも使い捨ての鉄砲玉かよ……」


「おっ、せいかーい。赤兜とは限らないけどね? 一人一発さ。あ、そうそう。ついでだから言っておくよ。僕を殺すとヤバいよ? 魔力庫の中身が全部外に出る設定にしてるから。それも爆発寸前のやつがね?」


『狙撃』


「うおおおぉい! ヤバいって言ってんのに。よほど自分の魔力に自信があるんだね。でもね? 僕の魔力庫に入ってるやつは悪いけど最高品質だよ? 天都どころかその周辺の山々まで更地にしかねない威力さ。君は助かるかも知れないが君の仲間や天都の住人は全滅だろうね。それでもやるのかい?」


きっちり見切ってやがる……


『風斬』

『浮身』


「場所を変えようぜ。見晴らしのいいところにな?」


東屋の土台を切って、丸ごと浮かせた。


「うっはぁー。無茶するねぇ。こんな真夜中に上空に行ったって何も見えないじゃないか。つまらないなぁ。」


『光源』


「お互いが見えてりゃいいだろ。で、結局何がしたいんだ? 天都には王妃だけじゃなく子供だっているんだろうが。そいつらまで皆殺しにする気か?」


「子供かぁー。うんうん。子供はかわいいよねぇ。できれば死んで欲しくないなぁ。でもね? 人間って所詮は自分が一番大事なんだよね。僕だってそうさ。自分のためならテンリや子供達なんかどうなっても平気だし。君は違うの? まさか自分の命より大事なものがあるとか言うタイプ?」


「さあな。お前とは話が合わないってことが分かった。で、いつまで時間稼ぎする気だ?」


「時間稼ぎ? 何のこと? むしろ時間を稼ぎたいのは君だろ? 蛇ちゃんをギルド方面に行かせたんだよね。無駄だと思うけどなぁ。はい、ポチッと。」


なっ!? こいつ……押しやがった……


「誤解して欲しくないんだけど。僕はね。押そうと思えばいつでも押せるよ? ほら、あっちを見ててごらん?」


ジュダが指差したのは……天都の西。私が吹っ飛ばした山がある所だ。


およそ十秒後……真っ赤な光が夜空を駆け抜け……丸い雲が立ち昇った。そして数秒遅れて……爆風が私を揺らした。


「おっ、上手くいった。なかなかの威力みたいだね。さすが僕。」


「お前……まさか使ったのはこれが初めてか?」


「そうだよ? だってなかなか実験ができなくてさー。でも僕って天才だから計算だけでやってるんだよね。今回も計算通り。魔石爆弾なんて古代の遺物かと思えば僕が改良したらこの威力だもんね。どう? 恐れ入った?」


古代の遺物か。確かにその通りだな。 戦乱の時代か……

ん? それならなぜ?


「魔石爆弾はローランドがまだ戦乱の時代だった頃の遺物のはずだ。しかもローランド王国にはほぼ伝わってない。そんな技術をなぜお前は手に入れることができた?」


「さっきから一問一答じゃなくなってるよね。別にいいけど。」


そもそも魔石爆弾だけじゃなく聖女フランとか教団とか謎が多すぎるんだよな。こいつがバンダルゴウに何しに行ったのかも聞いてないし。


「いいんなら答えろよ。」


「僕ってメリケイン連合国から来たんだけど知ってる?」


「ああ。」


流れ者とは聞いたが、この場合の流れ者には二つの意味がある。漂流者か気ままな旅人かだ。もっともこの場合の旅人ってのは半分は犯罪者を意味するけどな。


「メリケインがどんな国か知ってる?」


「知るかよ。」


「メリケインって名前に聞き覚えないの?」


「あるわけないだろ。メリケイン連合国以外にあんのかよ?」


「君ローランド人なのに知らないんだ。『炎姫えんき剣奴けんど』も知らないの?」


炎姫と剣奴だと? それは演劇を見たことがある。


「知ってるが?」


「炎姫アイリーンは何て国の王女だっけ?」


あ……


「メリケイン王国か……」


「そうだよね。そしてここから遥か東にある大国の名前もメリケイン。これって偶然なのかな? ついでに言うとメリケイン出身の僕がこうしてローランド出身の君と普通に話せている時点で不思議に思わないのかなぁ?」


思うわけないだろ……ヒイズルとローランドは言葉がほぼ同じなんだからさ。


「いいから続けろ。」


「あはっ。仕方ないなぁ。話してあげるよ。メリケインでは常識なんだけどねぇ? あははは。」


くそが……いつまでこいつと会話しなきゃいけねぇんだよ……

だが、さっきの爆発はヤバすぎる……

私の『超圧縮業火球』ほどの威力を感じた……

あれをアレク達の近くで使われたら……いくらアレクでも……

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