1797話 転生者ジュダ・フルカワ

核……だと……?

こいつ……まさか……


「天都が灰になるだと? ずいぶん大きく出たな。そりゃつまり自殺したいって言ってんのか?」


「はは、僕が死ぬわけないじゃん。もちろんその気になればバンダルゴウだってローランドの王都だって灰にできるよ? あ、でも両方は無理かな。」


「いいだろう。信じてやるよ。で、お喋りするんだったか。場所を変えようぜ。酒と食い物ぐらい用意しろよな。」


何が灰だ……核だなんて信じるわけないだろうが。だが、コーちゃんがアレク達のところに行くまでの時間ぐらい稼がないとね。魔石爆弾がどこにあるかも分からないんじゃあ防ぎようがないからな。


「はぁーはっはっは! 君いいねぇ。僕これでもこの国で一番偉い天王だよ? よくもまあそんな口がきけるよね。いやーすごい。じゃ、そこの東屋にでも腰かけて一献酌み交わすとしようか。」


余裕かましすぎだろ……魔石爆弾の話はただの囮、本命は別にあると見た。それは何だ? 何のために時間を稼ごうとしている?


「いいだろう。せいぜい旨い酒を頼むぜ。」


「当然さ。少し待っててくれるかい?」


ジュダは中庭から歩いて出ていった。これで逃げたら笑ってやるんだがな……


一分もしないうちに戻ってきた。


「やあお待たせ。もうすぐ届くよ。じゃあ酒と料理が来るまで一問一答といこうか。お互い一つずつ質問をする。質問された方はなるべく本当のことを答える。どうだい?」


「じゃあ約束だ。この茶番に付き合ってやるから正直に答えろよ?」


「だめだめ。その手はくわないよ? 何もかも本当のことを喋ったら面白くないじゃないか。だから『なるべく本当』ぐらいがちょうどいいのさ。じゃ、君からどうぞ。」


ちっ、ペースに乗せられてるな……腐っても一国の王か……やたらギラギラと目を見てくるし……キモいな。


「お前……洗脳魔法が使えるな。だが騎士長や王妃、それ以外にも何人か洗脳魔法を使っていないのにお前に心酔している奴らがいた。何をした?」


「へー。さすがにバカじゃないんだね。洗脳魔法は使えるよ。君には全然効いてないみたいだけど。やっぱ魔力高いんだね。さっすが魔王くん。」


「で? 洗脳魔法以外に何をした? 奥の手があるんだろ。」


「うーんもちろんあるよ。あんまり使えないけどね。でも切り札をいきなり話せって風情がなくない? というわけで次は僕の番だね。君の経験人数は何人?」


あぁ?


「イカれてんのか……こんな時にする質問じゃねぇだろ……」


私はアレクしか知らない。それ以外の女など知る必要も興味もない。アーニャのことが少々悩ましいが……


「男同士が仲良くなるのに一番手っ取り早いのは女の話と決まってるじゃないか。君のとこには三人いたよね。正統派ローランド美人と色黒デーハー美女、それから羽化前の純朴美少女がさ。全員手をつけたの?」


「俺の伴侶は一人だけだ。ハーレムなんぞに興味はない。」


「だろうね。君ってモテそうにないもんね。背は低いし顔だって平凡だし。魔力以外に取り柄がなさそうだし。あははははぁ!」


なんだこいつ? もしかして私を怒らせたいのか? そんな的外れの言葉で私の感情を乱してるつもりか?


「お前に人を見る目がないことは分かった。だからことごとく洗脳してんだな。そうでないと安心して眠ることもできないんだろう? 自分の魅力で女を惚れさせることもできないもんだから妙な手段で婿の座を手に入れたわけか。小せぇ野郎だな。」


「ははっ、妙な手段とは言いがかりだね。みんな僕のためなら命すら惜しまずに仕えてくれるだけだよ。それこそが僕の魅力ってものさ。いやぁモテる男は辛いよ。君には分からないだろうけどね。」


話がちっとも進まないじゃないか……


「次いくぞ。お前の目的は何だ? ローランド王国にまで手を出して何がしたい?」


「おっ、いい質問だねえ。これは本腰入れて答えてあげようかな。ちょうど酒肴も来たようだし。」


女中が数人。がたがたになった中庭を辿々しく料理を運んできた。


「ありがとう。いきなり頼んで悪かったね。」


ジュダの一声で女中達はたちまち顔を蕩けさせている。

ほう、これは……刺身の盛り合わせかよ。


「好きにとって食べてよ。ローランドには生で魚を食べる習慣はないそうだけど。酒はこれ、アキツホニシキの特等純米生原酒。それも中取り無濾過さ。僕でさえ毎日は飲めない最高の酒なんだ。しっかり味わって飲んでおくれよ?」


「ヒイズルの発展に乾杯だ。」


お前がいなけりゃもっと発展するだろうからな。


「おっ、嬉しいことを言ってくれるね。じゃあ乾杯。」


しかし杯と杯を合わせることはない。当然だな。うおっ……めちゃくちゃ旨い……

爽やかでフルーティー……しかし、しっかりと日本酒らしい味わいもきっちり残して……すっと体内に染み込んでくるかのようだ……


「どう? 旨いよね? これだけの名酒だよ。ローランドにはある? んん?」


さっきから何だこいつ? 何がしたいんだ?


「あるに決まってんだろ。飲みたきゃローランドまで来い。」


スペチアーレ男爵のディノ・スペチアーレ二十年。あれは最高だよな。父上曰く金剛石を溶かして飲んだかのような味わいだし。この酒とどっちが飲みたいかと言われたら……やっぱディノ・スペチアーレだな。少し迷うけど。


「へえ。ローランドかー。行ってみたいなぁ。」


「来たことあんだろ。とぼけてんなよ?」


「……なんのことかな?」


ようやく少し、少しだけだが顔色が変わった。確信はあったが言ってみるもんだな。


「ネタは割れてんだよ。お前が即位した時だ。ローランドの王都に使節を送っただろ。お前その中に紛れ込んでたんだってな。」


全然割れてないけどね。証拠なんかない。言ったもん勝ちってやつだ。


「ほら、どうした? 言ってみろよ。何しに来たんだ? 想像はつくけどな。王都まで行ったのかどうかは知らんが、バンダルゴウには立ち寄ったそうだな。」


「……誰から聞いた……?」


誰からも聞いてねぇよ。バンダルゴウを含むローランド王国南東部で勢力を誇っていたのがヤコビニだ。そのヤコビニがあれこれやらかした中で私の最古の記憶が三歳の頃、クタナツに起きた大襲撃だ。魔境の危険な寄生キノコ『パラシティウムダケ』を利用しようとして失敗。その結果クタナツの街は魔物の大群に襲われたんだったな。だいたい十四年前か。


そして私とスパラッシュさんがヤコビニを捕まえたのが十歳の頃、七年前だな。その頃のヤコビニはもうすっかり妄執に取り憑かれてたって話だからな。ダイヤモンドクリーク帝国の再興などという痴人の夢にな。アジャーニ家という名門の分家にあって、なぜそこまでイカれたかと思えば。ジュダの差し金があったと考えれば腑に落ちるんだよ。


「言う必要あるか? とっくにバレバレなんだよ。で、話を戻すぞ。そんな風にローランドに手を出してどうする気だ? まさか本気でローランドと戦争する気か?」


「……だとしたら……どうする? 今は量産できなくとも、僕の魔石爆弾は最強だ。誰にも防ぐことはできないさ。」


「そうやって灰にしてどうする気だ? そんな土地を支配して意味があるのか? いや、そもそも人が住める場所じゃなくなるだろうが。お前マジで何がしたいんだ?」


「はは、ははは、あははははっ! そうか! 君もか! やっと口を滑らせてくれたね! 転生者とはね! 二枚目や核、デーハーって言葉に反応してくれないから違うのかと思えば! ははっ、とんだ三味線弾きってわけか!」


ちっ、必死に隠す気はなかったにしても、つい踏み込み過ぎてしまったか……『人が住める場所じゃなくなる』は失敗だったな……

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