1796話 天王妃テンリの愛

地面に散乱するムラサキメタリックの装備。全部没収するつもりで外したのだが、さすがに今すぐ収納するのはきついな。これだけ全部収納するのって今日一日で使った分より魔力を消費するんだからさ。ちなみに残り魔力は八割を切ったぐらい。まだまだ余裕だ。


「結構なお点前です。さすがはローランドの魔王と呼ばれるだけあります。あの騎士長が手も足も出ませんでした。」


なんだ。やっぱ私のこと知ってたのかよ。それともさっき名乗ったから気付いたのか?


「見てたのか。なぜ助けに入らなかった?」


「男の戦いに女が手を出すのは無粋というものです。」


その結果が見殺しかよ。騎士長も王妃を見殺しどころか巻き添えで殺そうとしてたし、おあいこだな。


「そうかい。で、どうするつもりだ? ジュダなんかのために俺と戦う気か? とてもじゃないが愛されているとは思えないのにな。」


王妃はコートを脱ぎ杖を取り出している。


「愛とはそのような瑣末なことに左右されるものではありません。愛されようが愛されまいが、自分の愛を貫くことこそが本当の愛。ですから、あなたが陛下に仇なすのであれば私も立ち向かう他ありません。」


騎士長もおかしかったが王妃もおかしい。ジュダの野郎いったいどんな手を使ったらこんなことができるんだ? 洗脳魔法や契約魔法なしに……カリスマとか人間的魅力とかでは断じてない。私の目が曇っているだけなのかも知れないがエチゴヤと手を組むような外道に……そんなものあるわけがない。


「あんたと戦う気はない。子供だって三人いるんだろ? 子供をおいて先に死ぬ気かよ。」


子供が何歳かは知らんが、そもそもジュダ以外には用なんかないんだから。


「そうですか。あなたに戦う気がなくても私が攻撃したらどうするつもりなのですか?」


「一度は見逃す。」


「ずいぶんとお優しいのですね。それでよく魔王などと呼ばれてますね。」


私らしくもないが、なぜか王妃を見てると哀れになってきてしまったんだよな……

それにこいつって多分……


「なあ。クワナ・フクナガを知ってるよな? あんたの弟じゃないのか?」


あいつは前天王の末子だと聞いた。つまり王妃の弟ってことになる。


「クワ……ナ?」


「あんたの弟だろ? あいつは今ローランド王国で元気にしてるぞ。本当は手紙も預かってたんだけどな。」


本当に元気かどうかは知らないが。


「手紙……ローランド……にクワナが……あ、ああ……クワナ……クワナ……クワナクワナクワナ……クワナ!」


な、なんだなんだ? 一体どうした?


「お、おい。大丈夫か?」


「クワナクワナクワナクワナクワナクワナクワナぁああああぁ!」


「おい! しっかりしろよ! クワナは元気だぞ!」


気味が悪すぎる……頭を抱え、髪を振り乱し……


「クワっなぁ……クワナぁ……クワナクワナクワナクワナクワナクワナっ!」


やべえよ……イカれちまったのか? なぜあんな一言で……


「あーあ。壊れちゃった。君のせいだよ?」


こいつ……いつ後ろに……


「てめぇジュダぁ……こいつに何しやがった……」


「何もしてないけど、別にどうでもよくない? だって僕の妻だよ? しかも僕は王だよ? 何したっていいじゃん。君に関係なくない?」


「関係あるなしの問題じゃねぇ! 俺が気に入らねぇから言ってんだ! てめぇマジで何様だ!」


「王様に決まってるし。バカなの?」


「もういい。色々と聞きたいことはあったが……死ね!」


『狙撃』


「おーっと危ない。待ちなよ。なぜ僕が今まで現れなかったと思ってるのさ。そしてなぜ今現れたと思ってるんだい?」


ちっ、ムラサキメタリックの籠手か。その大きさでよく私の狙撃を弾けたな……生意気に見切りやがったか……つまり、今度こそ本物か!


「知るかよ。」


「これなーんだ?」


「呼び鈴の魔道具か。そんなもんで親衛騎士団でも呼ぼうってのか? 呼ぶならさっさと呼べよ。」


「せいかーい。じゃあ何のためだと思う?」


「知るか! 赤兜でも深紫でもさっさと呼んでみろや!」


「ざんねーん。これは単に合図を出すためさ。で、どんな合図かと言うと……魔石爆弾さ。」


魔石爆弾の合図? リモコンで起爆か?


「そんなもん俺には効かんぞ?」


「そう? 君には効かなくても女の子達には効くんじゃない? もちろんただの魔石爆弾じゃないし。おおーっと。これを奪っても無駄だよ。ただ押せば爆発するって単純な話じゃないからね。押さなかったり壊れたりすると爆発する場合だってあるからね。」


ちっ、だから余裕こいてやがるのか。


「で、そんな話をした理由は? 女を人質にでもとったつもりか? その割にはダラダラとお喋りするだけかよ。奥さんを放っておいてよぉ……」


コーちゃん、王妃をどうにかできる? それからアレク達のところに警告に行ってくれる? うまく伝わるかは分からないけど。


「そうだよ? だって君ってめちゃくちゃじゃん。ずっとお喋りしてみたかったんだよね。せっかく招待したのに来てくれないしさ。かと思えばこんな時間に来て暴れるし。いやーやるね君。あ、ヘビちゃんが何かやってるね。」


王妃の首をひと噛み。そして姿を消した。


「やれよ。やってみろ。どの程度の爆発かは知らんがうちの女達に魔石爆弾なんか効くわけねえだろ。」


よっぽど至近距離で直撃でもしない限りな……


「うーん、だからさー。ただの魔石爆弾じゃないって。信じてないねー。証明してもいいんだけどあんまり数がないからね。」


「乗せられてやるよ。どの程度の威力なんだよ……」


「はは、やっと会話ができそうだね。核……って言っても分かんないよね。天都が丸ごと灰になるぐらいかな。」


あ?


……今こいつ……核って言ったか……?

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