1795話 騎士長ライコウ・ロクジョウという男

『風斬』

『浮身』

『風操』


東屋の天井を壊して飛び上がる。

弓を持っているのは……五人!


『連弾』


盾を構えていたようだが、矢を射る隙間があるんなら私の弾丸だって当たるさ。

よし、五人とも仕留めた。


「ジュダ! いるんだろ! 出てこい!」


「陛下が貴様ごときの前にお出になるものか! 身の程を知れ!」


「お前は……騎士長か。これはお前の独断か? それともジュダの指示か? 明らかに王妃ごと俺を殺そうとしたなぁ!」


もし私が範囲警戒を張ってなかったら、二人仲良く腹でも貫かれていただろう。腹とは限らないけどさ。


「ふん。陛下のご命令は貴様を生け捕りにすることだ。どのような手を使ってでもな! そして死んだら死んだで構わぬともおっしゃられた! 陛下のご命令は絶対なのだ! さあ降りてこい! 一騎討ちで決着をつけようぞ!」


『徹甲弾』


「ぐふぅっ!」


誰が降りるかバカが。そして王妃のことは無視かよ。都合のいいこと言いやがって……


「効いてないんだろ。立てよ。一対一で相手してやるよ。」


「くっ……卑怯な真似をしおって……かあっ!」


私に向かって勢いよく右の手の平を突き出した、が……


「今、何かしたか?」


おそらく初対面の時にテンポをふっ飛ばした技、いや魔法だろう。魔力を伴わない単純な技術であれば私に効くのだから。


「おぉのぉれぇ……小賢しいガキがぁ……けええぇぇい!」


今度は切り掛かってきた。なかなかの豪剣を使うじゃないか。偽勇者の大剣を思い出すな。


『身体強化』


不動を大きく一振り。ムラサキメタリックの剣と真っ向勝負。当然ながら結果は……


「ば……ばかな……私の太田黒おおたぐろが……」


弾き飛ばしてやった。身体強化を使ってなかったら打ち負けてたけどね。

隙あり。振り切った不動を切り返す。


「ぐぉがっ!」


脇腹を直撃。ムラサキメタリックの鎧がべっこりとへこむ。


『徹甲弾』


それでも豪剣を拾おうとせず、遮二無二素手で私の首を狙ってきやがったもんだからもう一度ふっ飛ばしてやった。私は体勢を崩していても、どこからでも魔法が撃てるからね。


「答えろよ。お前から見て王妃はその程度の存在なのか? 俺を捕らえるために巻き込んでもお咎めなしと言えるほどによ?」


「陛下のご命令は絶対だ!」


だめだこいつ……


『螺旋貫通峰』

『拘禁束縛』


『身体強化解除』


ふう……終わりだ。腹に空けた穴から身動きできないよう魔法をかけてやった。魔力すら練れないだろう。では、装備解除、いや装備没収といこうか。


兜を外し、鎧を脱がせる。右の籠手は初めから着けてなかったな。


これでよし。あー疲れた。


『氷壁』

『鉄塊』


『拘禁束縛一部解除』


よし、できた。氷のギロチン台だ。もっとも騎士長を固定しているわけではないが。


「ほれ。これ持ってろ。」


シューホー大魔洞でカムイが手に入れた修蛇渕しゅだぶちのロープだ。きっとかなり頑丈なんだろうね。

だが今はそこまで丈夫さは必要ない。


「さて、見えるな? お前がその手を離せばあの剣が落ちてくる。何も喋らず死にたいんならさっさと離せ。一撃で死ねるかどうかは知らんがな。」


「な、何を知りたい……」


「ジュダの野郎は本当に王妃のことを何とも思ってないのか? 殺しても構わん存在なのか?」


私が気にすることじゃないけどさ……何なら私が殺さなければならないぐらいの相手なのに。


「知らぬ……私が忠誠を誓っているのは陛下のみ……それ以外の存在など……どうでもいい……」


なんだそれ? 意味が分からん……


『解呪』


やっぱりだめか。こいつに洗脳魔法はかかってない……おっと。


『麻痺』


今のでうっかり拘禁束縛が切れちゃったからな。生意気に反撃に出ようとしやがった。


「なぜジュダはローランド王国を狙う? 本気で獲れるとでも思ってんのか?」


「知らぬ……陛下の崇高なお考えが……私などにぐっ……分かるものか……」


契約魔法をかけてないから嘘はいくらでも吐けるんだが、どうもこいつは本当っぽいな。だとしたらますますおかしい。国の中枢にいるような騎士長が知らないって……

つまり本気で攻める気がないのか、それとも目的を知らされなくても兵が従う……のか?

アラカワ家という例外はあるにせよ、ジュダがヒイズルをきっちりと支配しているのは間違いない。余計な野心さえ出さなければこのまま平和に天王として波風立たずに暮らしていけたはずだ。それなのにエチゴヤなんぞと組んでローランド王国にちょっかいを出した……あの腐れ教団とも関わってそうだし……


あ! 金髪の聖女……


「何年か前に聖女がいたんだろ? 金髪の。そいつは今どうしてる?」


「知らぬ……タイショー獄寒洞に行ったと聞いたことはある……」


聖女が迷宮に? 意味が分からん。


「そいつの名前は?」


「陛下はフランと呼ばれておった……」


間違いない。聖白絶神教団の十賢者、最後の一人だ。ヒイズルまで逃げてやがったか……ここで会ったが百年目だな。会ってないけど。

どちらにせよ、これで教団とヒイズルの関わりも見えた。王都の動乱、あれにヒイズルが関わったと見て間違いないだろう。当時は証拠どころか噂すら一切無かったってのに……

まあいい。今は騎士長だ。こいつはまだ情報を持ってそうな気がする。


「さて、約束だ。命は助けてやるから俺に従え。」


「できぬ……私の忠誠は陛下にのみある……」


「死んでもか?」


「死んでもだ……」


顔と手しか動かず、目の前には死が迫っているのにこれか。

ヒイズルの奴らはどいつもこいつも……

ただ……天道魔道士長のジジイは自分の信念に殉じたって気がするが、こいつの場合はジュダに何やら妙なことをされてる疑いが拭えないんだよな。


「天王陛下万歳!」


あ、手を離しやがっ『散弾』


「なっ……びゅぼっごふ……」


ヒイズルの奴らはどいつもこいつも……

手を離してフリーになった瞬間、魔力庫からナイフを取り出して投げてきやがった。地面に横たわった姿勢からよくもまあ……


普通のナイフが私に当たるはずもない。ナイフを撃ち落としついでに散弾を撃ち込んだ。その直後……奴は自らの豪剣に腹を貫かれた。

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