1793話 ムラサキメテオストライク

やはり妙だな……これだけ燃やしてるのに誰も現れない。場所を移動してみるか?

王族の私的エリアへ行くか……いや、先に女達の救出か……それともムラサキメタリックの建物か……


この火の勢いからすると……女達を逃がさないとまずいな……いや、そのためには結局ムラサキメタリックの建物をどうにかしないといけないか。ジュダを探してる場合じゃなかった。


よし。ジジイがいなくなったことだし、もう邪魔する奴は現れないだろう。ならば、もう一度そこら辺に転がってるムラサキメタリックを上空まで持っていこう。ムラサキメテオといこうではないか。

どーれどれ……どーこに落ーちてるムラサキメタリーック。


発見。たぶんさっきクロミの水魔法にやられた奴だな。外見は無傷だけど溺れたらそりゃあ死ぬわな。


こいつをそこらの板っきれに寝かせて……『浮身』

先ほどの立方体の建造物まで戻ろうではないか。




うわぁ。改めて見てもめちゃくちゃ地面がえぐれてるな。しかし建造物は無傷か。かなり深くまでムラサキメタリックで覆われているようだ。ひたすら掘ってやろうかとも思ったが、まずはムラサキメテオをぶち当ててからだな。


『魔力探査』


周囲に魔力反応なし。強いて言うなら地下から建造物に流れ込んでいる魔力ぐらいか。この作戦がだめなら流れをぶった切ってやるのもいいかもな。

では行こう。


『浮身』

『風操』


赤く塗った建造物の天井を見下ろしながら上昇していく。

百……二百……あんまり上がると目標が見えなくなるからな。真夜中だし。


ざっと五百メイルってとこか。この高さから二百キロムの金属が落下する。


『遠見』


目標確認。いくぜ。


『浮身解除』


ムラサキメタリックの騎士の両足首を掴み、私の両足は騎士の両脇を踏む。頭が下を向くよう固定して半自由落下。着弾まで十秒ってとこかな。


五……四……三……


ここだ!『浮身』

そして『水球』


巨大な水球が一瞬遅れて後を追う。威力を集約しつつ被害の拡大を防ぐ。


轟音を立てて大爆発でも起こすかと思いきや、意外とドブォゴォンといったやや大きく鈍い音しか聴こえてこなかった。水球が効いたかな?


『烈風』


さほど派手な土煙が立っているわけではないが、一応きれいに吹き飛ばしてと……降りてみよう。


おおー。天井にばっちり大穴が空いてるじゃん。ど真ん中ストライクだったからか。


コーちゃん。さっきの魔力はまだこの中に流れてるかな?


「ピュイピュイ」


おっ。止まったんだね。よし。ならばこの中の探索は後回しにして、女達を助けに行こう。あの体勢は辛いもんね。早く解放してやらねば。




「終わったぞ。もう魔力は流れてないだろ。」


私の感覚からしても流れていない。これなら悪影響はないだろう。


「えれぇ遅かったじゃねぇか。魔王のこったから五分とかかんねぇかと思ったぜ? まあいいや。そんじゃ抜くとするか。」


「少し待て。いきなり抜くと痛いだろうから。」


『麻痺』


全員にかけておいた。無痛狂心でもいいが、さすがにそれは魔力の無駄遣いだからな。麻痺で充分だ。


「よし。抜こうか。丁寧にな?」


「言われるまでもねぇ。ったく騎士長だか天王だか知らねぇがよぉ。こんな外道な真似しやがって……許しちゃおけねぇぜ……」


ドロガーにしては珍しく怒り心頭じゃないか。まあ私もムカついてるけど。手と手を重ね合わせて杭を打つとか……悪鬼の所業だよな。




よし。全員終わりだ。


「で、どうすんだ魔王? ギルドにでも連れていくんか?」


「ああ。ここにいる全員でギルドに行ってくれるか? そうすればクロミとも合流できるだろ。」


「おう。しゃあねぇな。おう、おめぇら歩けるかぁ? あんな目にあったばっかだがよ! ギルドまで行けゃあ隣にゃ治療院があっからよ! 全員きっちり治してもらえるぜぇ! ちぃと遠いが気張って歩くからよぉ!」


「あ、あの! ローランドの魔王様ですよね……二度もお助けいただきありがとうございます……」


「ん? 二度?」


そうなの? 記憶にないが……


「はい! 私はエチゴヤの山に囚われているところを魔王様が解き放ってくださいました! そしてギルドに行け、ギルドに行けばドロガーがいるからきっと助けてもらえる、と暖かいお言葉をかけてくださいました!」


思い出した。ローランドの女達を助けるために長い階段を降りる前に会った女達か。


「その分だとせっかくギルドにたどり着いたのに、赤兜に捕まったわけか。ついてなかったな。だが今度こそ大丈夫だ。ドロガーが一緒に行ってくれるからな。」


「おう。任せとけぇ。そんじゃダニィ。後ろを頼むぜぇ。」


「ああ。じゃあな魔王。お前は来ないんだろ?」


「ああ。まだジュダの野郎を仕留めてないからな。もう少し探してみるつもりさ。キサダーニも悪いな。この件が片付いたらボーナス出すわ。」


「なら二十億ナラーでいい。」


この野郎。冗談なのかマジなのか分からんこと言いやがって。そんな金ねぇよ。神に取られたからな。


「考えとくわ。」


「魔王様……ありがとうございました。このご恩は忘れません……」


「おう。元気でな。」


女達の足取りは重い。それでも私の前を通り過ぎる時は頭を下げたりお礼を言ったり。助かってよかったよ……

結局目的が見えないままだが、謎の建造物はぶち壊したことだし今度こそジュダを見つけて終わりにしたいところだな。建造物の調査もしたいところだが、私が調べても分かるわけないしな。後回し後回し。


どこから探そう……


やっぱ私的エリアからだな。アレク達とお茶をしたところまで戻ろう。そこから上に向かう階段とかあったもんな。

ジュダ本人はいなくても奥さんや子供はいるかも知れないし。容赦なく人質にとらせてもらうぜ?


でも、あんな外道に人質なんて効くか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る