1792話 天道魔道士長の生き様

それからジジイと歩き回ったが宰相には出会えず仕舞いだった。私があちこちを荒らしたせいだから文句も言いにくいが……


「もういい。ジュダの自室に案内してもらおうか。いなきゃいないでいいからさ。」


「できぬ……貴殿の目に宿る剣呑な輝き……陛下を許すつもりなどないのであろう……」


このジジイ意外と見る目があるのか。それとも普通に私の表情が分かりやすいだけなのか。


「嘘は吐いてないぞ。ジュダが額を地面に擦り付けて謝罪すれば許してやる気ぐらいある。」


もちろん契約魔法でがちがちにするけどね。真摯に謝ればの話だが。


「陛下がそのようなことをなされるはずがない……貴殿もそのぐらい承知しておろう……」


「どうだかな。本人と直に話したわけじゃないんだから分かるわけないだろ。」


少なくともさっき話した感じだとこっちを舐め腐ってやがったしな。勝ち目があるとでも思ってんだろうか。


「いずれにしても……貴殿とはここで決着をつけるとしよう……『火線』ぐっ、たとえ勝ち目がなくとも……」


「バカが……効かないってのが分からんのかよ……」


私の前を歩いていたジジイ。こちらを振り返ることなく、自分の腹を貫いて魔法を使いやがった……発動を悟らせず、発射地点も見せないように……

自動防御を張ってる私に効くわけないのに。こいつほどの魔法使いの近くにいるんだから警戒してないわけないだろ……


「やはり……勝てぬか……だが……ただでは死なぬ……」


『火蝶乱舞陣』


「悪いな。隙だらけだ。」


『火球』


私の周囲を数万もの蝶で埋め尽くすのはいいが、魔力を込め過ぎて隙だらけだ。たぶん全魔力を使ったんだろう……隙ができることも承知で。


「先に……いっておるぞ……」


上半身がほぼ灰になってるのに、よく喋れたな。だが終わりだ。あっさりと倒れた。頭が消えたら再生もくそもないだろ。


なっ!? 蝶が消えてない!? 術者が死んでも魔法は残るタイプか!


『水壁』


ジジイが事切れると同時に蝶が猛然と襲いかかってきた。かなりの火力ってことは分かってるが、私の水壁を破れるほどではない。


真っ赤な蝶が水壁にぶつかるたびに小さな爆発が起こる。普通の水壁だったら三発もくらえばすぐに大穴が空くだろうな。だが、私にとっては火の粉が降り落ちてくる程度だ。何千何万と来ようが問題はない。

だが……問題があるとすれば、建物まで燃えていることか。これ以上赤兜どもの仕事を増やすとは、ジジイらしからぬことをするな。




おかしい……蝶が全然減らない。どうせ長くは続かないと思ったから素直に防御したのだが……これは予定外だ。ならば……


『水球』


それも全方位に乱れ撃ちだ。せっかく燃えてる建物を消火してしまうのは面白くないが。


よし。片付いたか。


うおっ!? レーザーのようなこの魔法は……


危なかった……自動防御が少し削れた……

ジジイの死体を火柱をで弔ってやろうと目を向けたら……


「させぬぅぅぅ…………」


灰にしたはずの上半身が再生してやがる……あれでも死んでないってのか……いや、違う。こいつもう死んでる……目がドス黒く濁っている。アンデッドの目だ……

つまりこのジジイは……死ぬ前にあの薬……『反死反命丹はんしはんめいたん』を飲んだってことか……勝ち目がないからって、死んでも私に立ち向かうために……


ちっ、火線とか言ったな……さっきより威力が上がってやがる……しかもめちゃくちゃに撃ってきやがる……


「いかせぬぅぅんぅんぅんんんぅぅぅ…………」


だが……私の自動防御は破れん。


『火球』

『業火球』


アンデッドならば容赦はしない。灰すら残さん。今度こそ、終わった。目の前には何もない。奴が放った無数の火線が周囲に火を着けまくってるだけだ。


はぁ……ジジイのバカ野郎……ジュダなんかに忠義を尽くす価値なんかないだろうが……

頑固者の考えは理解できないな。

おっと、天井が崩落してきた。とりあえず外に出るか……


『風球』


壁に穴を空けて……


これだけ燃えてるのに誰も来ない。あちこちで似たようなことが起こってるもんな。仕方ないか。それとも本当にもう赤兜も親衛騎士団も全滅したんだろうか? さすがにそれはないと思うが……


こうなったら……


『ジュダ! 出てこい! お前が逃げ隠れしてるからこんなことになってんだぞ! この臆病者が! そんなに俺が怖いかよ! 今なら許してやるからさっさと頭を下げに来い!』


魔力多めで拡声を使ってやった。天道宮どころか天都の街中にまで聞こえただろう。これでも無視するつもりか?


『騎士長も死んだ! 天道魔道士長も死んだ! 他に骨のある奴はいないのか! そんな様でよくローランド王国にケンカ売ってきたなぁ!』


半分は言いがかりだけどね。ジュダが言ったように証拠なんかない。だが、そんなもの今となっては何の必要もない。勝てば官軍、いや国軍だからな。

ところで、自分で言ってて気になったのだが騎士長の野郎は死んでないよな? 流されただけだし。今頃は生き残った騎士を再編してる最中なんじゃないの?




変だな……これだけ大声を出したのに誰も来ない。


『燎原の火』


ならばさらに火を追加だ。歴史的にはかなり価値がありそうだが、丸ごと灰になってもらおう。あんな野郎を天王に選んだ前王の責任でもあるな。おおかた洗脳されたんだろうけど。


それにしても不思議だよな……

天道魔道士は魔力が高いから洗脳できない。これは納得できる。当たり前の話だ。

ならば、前王アラシ・フルカワや妃や娘まで洗脳できたってことは王族なのに魔力が低かったということか? さすがに納得しがたいな。建国王アモロ・フルカワの逸話からしてフルカワ家には強力な魔力持ちが生まれやすくともおかしくはない。しかし仮にアラシ・フルカワの魔力が弱かったとするなら、その妃には魔力の高い女性を選ぶはずだ。

それともまさか……恋愛感情が優先で、魔力の多寡など気にせず結婚をしたとか?


うーむ……


そもそもジジイはジュダの洗脳魔法に気付いていた。それなのに解呪をしようとはしなかったのか? それともできなかったのか? 分からん……


あ、もしかして……その辺りにクロミが言ってた『魔力の流れがキモい状態』との関係があるのでは? あの状態だと私の解呪でもどうにもできなかったもんな……


やはりジュダは切り札を持っているってことだな……まだまだ用心しないと。

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