1791話 宰相ボガイト・アラカワ

「ジジイ、名前を教えてくれ。今度は覚える。」


覚える価値はあると思う。


「我は天道魔道士長ゼイモス・タガタキである……貴殿はローランドの魔王殿だったか……」


なんだ、知ってるのかよ。


「俺はカース・マーティン。まあ、好きに呼んでくれればいい。」


「底知れぬ魔力……精密な制御……そして発動の速度……どれをとっても一級品どころではない……貴殿ほどの魔法使いが攻めてくるとは……国王陛下はそれほどにローランド王国の怒りを買ったと言うのか……」


それはどうだろう……


「今回俺がここに来たのは個人的な理由だぞ。一言で言えばジュダにムカついたからだな。エチゴヤにもかなりムカついてるけど。エチゴヤとジュダの関わりについて何か知ってるか?」


「噂でしか知らぬ……国家の一大事業たるムラサキメタリックの錬成にエチゴヤが一枚噛んでおるなどとな……」


「一枚どころかエチゴヤが主導なんじゃないのか? 西の方の山が丸ごと拠点になってたぞ。ほら、二、三日前に吹き飛んだろ。あの山。」


「なっ……なんとイクォマ山が……? しかも貴殿の仕業だったのか……」


「あそこが本当にエチゴヤの本拠地なのかは分からんけどな。そういえばムラサキメタリックの溶鉱炉があったぞ。大番頭とやらもいたし。」


「エチゴヤの大番頭といえば……カンダツ・ユザか……ならば本拠地で間違いなかろう……あのような外道どもの手でムラサキメタリックが……」


このジジイ本当に何も知らないんだな……いや、ジジイに限らず天道魔道士全員が冷遇されてるもんだから何も知らされてないってことか。赤兜どもだって魔法は使えるが、天道魔道士と比べたら子供みたいなもんだろ。いくらでも使い道はあったろうになぁ……ジュダの野郎はそこまで洗脳できない奴は使いたくないってのか……


私とジジイは建物内を歩く。先ほど私が破壊してしまった所も通って。

女中だけでなく調理場担当っぽい男や執事っぽい男まで慌ただしく動き回っている所も。


「そこの女中よ……丞相殿はどこにおられるか……」


「知りません。執務室じゃないんですか」


「そうか……」


なんだかムカついた……


『風斬』


野暮ったいスカートを一センチだけ短くしてやった。


「天道魔道士長が聞いてんだろ。その口の利き方はどういうことだ? 礼儀も知らないってんならそんな口はいらんだろ。斬り裂いてやろうか。」


「ひっ、ひいぃ! ほ、本当に知らないんです! だって今夜はあちこちを動かれてるって……」


「ちっ、行け……」


知らないなら知らないでそれなりの言い方があるだろうが。どんだけ天道魔道士は冷遇されてんだよ。そりゃあ国を捨ててローランドに行きたくなるのも分かるわな。ちゃんと紹介状書いてやろっと。


「とりあえず執務室に向かうとする……」


「ああ、任せる。」


さっき暴れまわったから分かるけど、ここも広いんだよなぁ。王宮ってのはどこもそんなもんだよな。つーか少し眠くなってきた。攻め込んだのが日没後だから、そろそろ真夜中なんじゃないの? こんな時間までご苦労なことだな。女中も、丞相も。

一番ご苦労なのはもちろん私だけど。


「ところで丞相には息子がいるよな?」


「三人ほどな……」


「キヨバルって奴と会ったことがある。ここでの評判はどんなもんだ?」


「放蕩息子だ……いつも女やペットと遊んでばかりでアラカワ家の鼻つまみ者と呼ばれている……」


「ふーん。ペットって紅蓮獅子だよな。他にもいるのか?」


紅蓮獅子のライオネル君とか言ったよな。


「うむ……丞相殿は魔物愛好家でな……方々から様々な魔物を集めてペットにしておる……ローランド王国の黒い狼もいたと記憶しておる……」


黒い狼と言えばノワール狼か。ペットにしてるってことは召喚魔法じゃないよな。よくもまあノワールフォレストの森からヒイズルまで連れてこれたもんだな。


「そんな丞相だけに……貴殿の首を見たら……目の色を変えるのではないか……」


「ピュイ?」


「この子はフォーチュンスネイクのコーネリアス。むしろ大地の精霊と言った方が分かりやすいか。誰にも渡さないぞ?」


「大地の精霊とな……どうりで不思議な魔力を感じるはずだ……シューホー大魔洞を踏破し……大地の精霊殿に愛される貴殿は……」


貴殿は……何だよ。最後まで言えよ。

あ、着いた。ここが執務室か。居るのか?


「宰相殿……おられるか……」


「おや、タガタキ様? 宰相閣下は現在ご多忙ですが。む? そちらの方は?」


「天道宮をこのようにした張本人……ローランドの魔王殿だ……天王陛下に会いたいと言うので連れてきた……」


「タガタキ様……あなたはどこまで耄碌されているのですか! 正気ですか!? 天道宮がここまで破壊されているのですよ!? まさか……天王陛下を裏切ったのですか! いいでしょう……それなら私が! 宰相閣下の副官たる私が……閣下に代わって成敗して『狙撃』くれっ」


「悪いな。話が長かったもんでな。お前ほど忠義にあつい男を耄碌呼ばわりしたのもムカついたもんでな。そもそも俺は宰相には用なんかないぞ。ジュダのいる所に連れてってもらおうか。」


まあ、それが分からないから宰相の所に案内してくれたんだろうけどさ。


「うむ……探してみる……」


こんなジジイは嫌いじゃないんだけどなぁ……

でも役立たずじゃん……そりゃあ冷遇されるってもんだろうか。うーむ……

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