1768話 着流しカース
よし。オワダに到着。女達もオワダ商会へ引き渡した。夜分にごめんね。でもこれでひと安心だ。
食料もたっぷり融通してもらったし、これでもう用は済んだか……あ、そうだ。仕立て屋に寄ってみよう。完全に直すのは無理でも応急処置ぐらいしてくれるだろ。
えーと、店の場所は確か……
おっ、あったあった。仕立て屋ジョナタ。
「よーう。いるかい?」
「あー? こんな時間に誰……おお魔王さんかよ。相変わらずお洒落、ん? それ、一体どうしたんだ?」
こんな時間まで仕事してるとは。職人は大変だね。
「悪いな。エチゴヤの大番頭にやられてちまってな。困ってるんだよ。可能な限りでいいから直してくれないか? さすがに穴も傷も大きすぎるからさ。」
「はあ!? 大番頭だぁ!? それにしても……こりゃまたザックリいって……」
「悪いが時間がない。預けていいか?」
「そりゃあまあ構わないけどさぁ……元通りなんて無理だぞ? こりゃあドラゴンなんだろ?」
「分かってるさ。見た目だけでも直してくれたらいい。いくら払えばいい?」
「うーん……とりあえず百万ナラーでいい。もしいい素材が手に入ってバッチリ直せそうならまた請求するってことでいいか?」
「ああ構わん。それから何か代わりの服ないか? 間に合わせでいいから。」
シャツもパンツも靴下も、今履いてるやつしかないんだよ。だからウエストコートとトラウザーズを預けたら服がない。まあ黒の着流しはあるけどさ。白シャツの上に着流しってのもなぁ……意外とカッコ良さそうだけど季節感ないし。
「うーん、魔王さんのサイズに合うやつだと……」
奥に引っ込んじゃったよ。頼んでおいて何だが早く帰りたいんだよな。いつ赤兜どもが大軍で攻めてくるかと思うと気が気じゃない。腹だってめちゃくちゃ減ってるし。戻ったらアーニャが準備してくれ……無理か。
あいつのカレー……食べたいな……
「お待たせ。これなんかどうだい?」
「おっ、いいじゃん。」
黒いズボンだ。ウエストも裾の長さもちょうど良さそう。少し履きにくいな。裾が細いからか。ん? これボンタンじゃん。いつだったか王都の冒険者でこんなの履いてる奴らがいたよな。私も持ってたけどさ。それがなぜヒイズルに?
「これ、どこで手に入れた?」
「さあ? 中古の服ってのは箱ごと仕入れるからさ。その中に入ってたんだよ。へぇー、よく見りゃ面白いシルエットだな。裾はやけに細いのに上に行くほど太くなるのか。貴婦人のドレスと逆だな。そのブーツによく似合ってる。」
「ああ、ありがと。じゃあ近いうちにまた来る。夜分に悪かったな。」
「なぁに、いいってことよ。待ってるさ。」
よし。これで用は済んだ。防御力がかなりスカスカになってしまったから気をつけないとな。
うっ、さすがに真冬に白シャツ一枚だと少し寒いな。いくら温度調整が付いてる高級シャツでも。やっぱ着流し着てみるか……
うん、これはこれでお洒落だな。季節感なんてどうでもいいや。
さて、夜空を飛んで洞窟まで戻ってきたぞ。一時間とかかっていない。見たところ赤兜も来てないな。ふぅ、ひと安心。
「ただいま。」
「あっ、カースおかえり! 心配したんだよ! あれ? 服が違うね。」
「穴だらけなもんでね。修繕に出してきた。それから食べ物買ってきたよ。とりあえず料理しなくて済むものから食べようよ。」
弁当系も用意してもらったからね。それより気になるのが……
「クロミ。アレクの具合はどう?」
「バッチリ治ってるよー。でもちょーっと無茶しすぎてるしー。明日の朝か昼まで起きないっぽいかなー。」
「そっか。ありがとな。クロミも食べようぜ。」
「食べるー。マジ疲れたしー。ニンちゃんも金ちゃんも怪我しすぎ!」
「はは、悪かったよ。あ、こいつらから何か情報って手に入った?」
天道魔道士の野郎が二人。どちらも縛り上げてあるしきっちり眠らせてある。
「まだだしー。そんないっぺんに出来るわけないしー! 明日でいいじゃん?」
「そうだな。クロミだって疲れてるもんな。悪い悪い。また頼むわ。」
アレクもドロガーもクロミの水の魔法に包まれて眠っている。あれって気持ちいいんだよな。
ふぅー美味しかった。普通の弁当なのにやけに沁みたね。
「クロミもアーニャも寝ていいよ。見張りは心配いらないからさ。」
「そーするー。ウチもう眠いしー!」
「見張りなら私やるよ? カースこそ寝た方がいいんじゃ……」
「いや、夜の見張りって危険だからさ。それに外は寒いし。だからアーニャは気にせず寝てくれよ。」
洞窟の中はクロミの魔法のおかげで暖かいんだよな。クロミ様々。
「あっ、じゃあさ。私もカースと一緒に見張りする! それならカースだって退屈じゃないよね?」
「うーん、明日のことがあるから休んで欲しかったけど。まあいいか。じゃあ一時間だけな?」
「うん!」
二人で洞窟の入り口辺りへ。ここら辺はもう寒いんだよな。
『風壁』
だから外気をシャットアウト。これで暖ったか。
『水壁』
座るのはお湯のクッションの上。
「カースってやっぱりすごいんだね。」
「ん? この魔法が?」
「ううん。カースは寝てたけどさ、みんなカースのことをすごく信頼してたの。カースさえ起きたら大丈夫だって。」
「はは、照れるな。コーちゃんが牙を打ち込んでくれなかったら、起きても役立たずだったけどね。」
五年の寿命と引き換えに全回復か……割に合わないが今に限れば効果は絶大だよな。コーちゃんはそんなことまでできるとは。精霊ってすごいんだな。
「そんなことないと思う。たぶん起きてそこにいるだけでみんな元気が出るんだと思うよ。もちろん私も……」
「はは、そうかな。それならいいけど。」
それなりに暖かな時間。こいつとも積もる話もあるもんなぁ……
アレクとドロガーが起きたら……もういきなり天道宮に行ってみるのもいいな。今の私は無敵だしな。たぶん……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます