1711話 ボスの名はナバーラ・ロクロ

ナイフを投げた男は完全に死んだかな。ガキもそろそろだろうな。


「ガキが死んだら次はそのブツブツねえちゃんな。今ならまだ間に合うけど、話さなくていいのか?」


子供とか女とかさぁ……私に殺させるんじゃないよ。ん? この考えは差別か? 子供だから、女だからと差別するのはよくない。よくないのは分かるんだけど……うーむ。


「このぉぉおお外道がぁぁぁ! 命を何と心得ておるか! このような不遇な地で! 必死に今日まで生き抜いてきた幼い子を! 貴様ごときよそから来た外道が弄ぶなどと! 許せぬ! どのような手を使ってでも! 報いをくれてやるぞおおおお!」


ジジイが何か言ってる。私が国外から来たってことをちゃんと知ってるのか。それとも単にイカルガの者じゃないって意味だろうか。どうでもいいけど。


「じゃあそんなガキが俺の命を狙うのは許されるのか? えらく都合がいいな。」


「生きるためには仕方なかろうが!」


「そうだな。生きるためには仕方ないな。俺も辛いが仕方ない。で、もう動いてないぞ。次はそっちの女の番だな。」


『水壁』


「やめっごぼぼっ」


「おぉのれぇえええ!」


「いやいや、それなら情報吐けよ。さっきの口ぶりだとお前らってエチゴヤが嫌いみたいだし。俺だってエチゴヤを潰すために動いてるんだぞ? そんなことも分からないのか? ハンダビラから何を聞いてんだか。」


エチゴヤを潰すってのはさっき言わなかったよな? だからって言わなければ分からないとは言わせんぞ。昨日私がファベルで何をしたか知らないのは怠慢以外の何物でもないんだからな。


「そ、そのようなことが信じられるものか! この殺人鬼め!」


「いやいや、信じる信じないの話じゃなくて、その程度の情報もハンダビラから聞いてないのか? まさか昨日エチゴヤの生き残りが全員ジノガミの配下に入ったのも知らないのか?」


「そ、そのぐらい知っておる! ジノガミのマダラが雌豚ズレナを籠絡したのであろうが!」


うわー……かわいそ。ズレナってそんな風に思われてんだ。別に太ってないのに。あれはグラマーって言うんだぞ。


「で、その話をハンダビラから聞かされたわけね。これでよく分かった。やっぱハンダビラはエチゴヤと繋がってるわ。理由を説明する気はない。そしてお前らにもう用はない。喋る気ないんだろ?」


「ま、待て! ほ、本当にエチゴヤを潰す気なのか!?」


「知らんな。自分で判断しろよ。今分かるのはもう時間がないってことだ。話したければ話せ。」


「話す! 話すから! こやつらを助けてやってくれえええ!」


『水壁解除』

『落雷』で心臓にショックを与え、

『風操』で気道確保。

『水操』で水を吐かせて 、

『風操』で人工呼吸。

同時に『水鞭』で心臓マッサージ。


さて……救命措置はとったが、三人のうち息を吹き返すのは何人だろうね。


「さて、では約束だ。見ての通りこいつらを解放した。お前の知る限りのハンダビラの情報を話してもらおうか。正直にな?」


「ふざけるなぁ! 死者に鞭打つような真似をしおって! やはり貴様は外道かあああ!」


「ごふっ……おふっううっ……ぶおっぅ……」


「おおハスナ! 生き返ったのか! よくぞ無事でえええ!」


このジジイ……私が助けてやったことすら理解してないのか……無知は罪だな。


「話さないならその女には死んでもらうが?」


せっかく息を吹き返したのに。


「がはっ! ふうっふっううぅ……おごっうぐ……」


「ハスマ! お前まで! よくぞ、よくぞ生き返ってくれた……」


女がハスナで? ガキがハスマ? なんて紛らわしい……


「で、話すのか? 話さないのか? いい加減にしろよな。」


時間稼ぎしてんじゃないかと疑いたくなるぐらいだ。


「話す……っあぐおおおおおおお!」


いちいち大袈裟なジジイだな。そこまで魔力込めてないぞ。でもやっとかかったか。いつもここまでが長いんだよなぁ。


「一応忠告しておくが、次は俺にナイフを向けただけで殺すからな。溺死なんてヌルいことはしないぞ?」


水風呂だけにヌルい。うーん、あんまり面白くないな。


「わ、分かっておる……」


「ではハンダビラのボスの名前は?」


「ナバーラ・ロクロ……」


「そいつとお前の関係は?」


「ワシは先代ハンダビラのボスの側近だった……ナバーラに代替わりをする際にワシも身を引いた……」


これは大当たり、と思わせて違うな。こいつが自分で側近だと思い込んでるだけだな。闇ギルドに関わった者が穏便に引退なんてできるわけないだろ。つまりこいつはロクな情報も持ってない役立たずだから追い出されたってのが真実なんじゃないの? あれだけ恩義があると言いながら孫でもない子供を見捨てられないぐらいだしさ。

まあいいや。一応聞くだけ聞いてみよう。


「どこに行けば会える?」


「分からぬ……いつもは向こうから連絡が来る……」


「俺のことを何か聞いたか?」


「エチゴヤの手先がファベルを荒らしに来ると……」


なるほどねぇ……


「おかしいと思わなかったのか? ファベルのエチゴヤは潰れたんだぞ?」


「内輪揉めの結果だと聞いた……」


「地下通路は何本ある?」


「一本、だがあれは通路などという代物ではない……裏切り者を苦しめて殺すための場所だ……」


だろうね……


「天都内にハンダビラの拠点はいくつある?」


「ワシの知る限りで三つ……だがもう二十年以上も昔のことで……」


だろうね……

何なのこのジジイ? ロクな情報持ってないくせにさぁ。さも詳しいですって空気出してさぁ。子供たちより自分を殺せとか言っておきながらよ? 何も知らねーでやんの! こんなのアリか!?


「ところでお前らさ。もう命がヤバいって分かってるか?」


「き、貴様ぁ! 自ら課した契約を破る気かぁ!」


そりゃあ破れるよ。破れるけど今のはそんな意味じゃない。


「誤解するなよ。お前らはもうハンダビラにとって役立たずどころか弱点になってしまったんだよ。特にお前みたいなガキの命惜しさに情報を吐く奴がいるとな。」


実際のところは生きてても死んでてもどっちでもよかったんだろうな。だから何かの保険程度に餌を与え続けてたって感じかな。


「わ、ワシらが弱点……!?」


「間違いなくな。だからお前もガキらも消されるな。そのあたりはお前の方が詳しいんじゃないか? それが闇ギルドのやり口だろ?」


「そ、その通りだ……」


「どうする? せっかく拾った命なんだ。また捨てるのはもったいなくないか?」


がんばって蘇生させてやったんだぞ? ちなみに最初の一人、ナイフを投げた奴は息を吹き返さなかったみたい。可哀想に。やっぱ救命ってのは時間との戦いだよな。

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