1712話 ハンダビラの拠点探索

それにしてもこのジジイ。やけに物分かりがいいよな。たいてい歳をとれば新しいことが信じられなくなるものだが。

まあ今回の場合は子供が死にかけて命拾いしたってこともあるしインパクトは大きいよな。今までの人生は殺すばかりだったんだろうし。


「た、頼む! 助けてくれええ! ワシはいい、どうなっても! だが、この二人だけは! どうか! 何としても!」


「条件次第だな。助かりそうな選択肢を与えることはできる。それを選ぶも選ばないもお前次第だ。」


「い、言え! 何でもやってみせる!」


「簡単さ。ジノガミの下につけ。そしてマダラに従え。簡単だろ?」


「き、貴様はジノガミの者だったのか……!?」


こいつまだ分かってないのか? マジで役立たずじゃん……だからその歳まで生き残ってこれたんだろうなぁ……


「違う。それにそんなことはどうでもいいだろ。お前らが生き残るにはジノガミに守ってもらうしかない。今のジノガミはエチゴヤを吸収してるからな。まあまあ手強いぜ?」


青紫烈隊バイオレッタ深紫ディパープルが出てきたら即アウトだろうけどさ。


「貴様に何の得がある……」


「言う必要はないが、せっかくだから話してやるよ。」


そういえば、私名乗ってなかったっけ?

まあいいや。軽く説明しておこう。




「……という訳だ。お前らはただローランド人奴隷を集めるだけでいい。簡単だろ?」


「な、なんと……貴様がつい先日、傷裂ドロガーと迷宮を踏破したローランドの魔王とやらだったとは……」


「オワダのエチゴヤも潰したしな。だからどうせあっちも俺のことを狙ってるだろうよ。ハンダビラも一緒になってな。」


いや、ハンダビラは単に手先として使われてるだけか?


「わ、分かった……ワシらはみんなエチゴヤには恨みがある……あの腐れ外道どもを潰してくれるならこれ以上の望みはない……」


こんなとこかな。結局収穫なしかよ……

ジノガミを太らせただけ? つーかハンダビラか……こうやって徹底的に逃げられたらどうにもならないんだよなぁ。魔蠍まかつを思い出すな。あいつらって忘れた頃に後ろから刺してくるんだもんなぁ。はぁ、やだやだ。


さて、ジジイと女、そしてガキに契約魔法をかけて終わりっと。一応天都内のハンダビラの拠点も地図に描かせた。後で行ってみるかなぁ。


おっと、こいつのことを忘れてた。


「ほれ、十万ナラーな。お前もこいつらと一緒にジノガミに協力した方が助かりそうだぞ?」


「あ、ど、ども……あの、シューホー大魔洞を踏破したってのは本当で……?」


「ああ。神から聞いただろ? 俺一人の力じゃないけどな。それよりお前、もう少し付き合えよ。今から天都内に行くからさ。」


「あ、でもおれ、身分証がないから……」


「適当に門番に金を握らせたらいいだろ。いいから来い。ついでにギルドで登録しとけば今後の役にも立つだろ。」


「お、おお……」


ジジイの地図はあっても道案内がいた方が楽だからね。




「ところでさ、ナイフを投げてきた奴がいるよな? あいつはどの程度の奴なんだ?」


「あのじいさんよりは内部情報を知ってたんじゃないか? 何度か事務所で見た覚えがある」


「お前はボスの顔も知ってるんだったな。」


「ああ……あいつらはそんな人数多くないから」


あー、事務所も狭かったもんな。実は少数精鋭なのか?




天都の城門。知った騎士がいたので上手く通れた。たった一万ナラーで。名目はこいつが冒険者ギルドに登録しに行くってことで。


「なっ。通れただろ。つーかお前は闇ギルドとは関係ないのか? ただのファベルの住人じゃないよな?」


「お、おれはファベルの細かい情報をハンダビラに売ってるから……」


「細かい情報とは?」


「た、例えばジノガミのモンを西の四区で見たとか、エチゴヤの下っ端が酔ってケンカしてたとか……」


そんな情報が売れるんだ……


「金になるのか?」


「だいたい百ナラーで買ってくれる……たまに千のときもある……」


「ふーん……」


そうこう話していると最初の目的地に着いた。


これはどう見ても民家だな……住宅街にあるごく普通の一軒家。新しくはないが隙間風が入り込むほどボロくはなさそうだ。つまり、平民だけどそこそこいい暮らしをしてるんだろうな。玄関に呼び鈴の魔道具なし。当たり前か。

ノックしてもしもし。


「はい?」


「こんにちは奥様! 僕はギルドの方から来たカースって言います! まだ駆け出しの十等星です! 今ですね! この辺りのお宅を対象にきれいきれいキャンペーンをやってまして。ネズミ退治や床掃除を無料でやってるんです! もうすぐ暖かくなりますし、隙間からネズミが出てくることもあると思うんです! 僕にお任せください!」


「え……ま、まあタダでやってくれるんなら……」


「ピュイピュイ」


「この子は相棒のコーちゃんって言います! つぶらな瞳がかわいいでしょ?」


「ま、まあ、そ、そうね……」


ふふふ。


「先輩はここで待っててくださいね! ここは僕にお任せください!」


「あ、ああ……」


こいつみたいな汚くて怪しい奴を立ち入らせるわけにはいかんからな。


「じゃあ失礼しますね! うわぁきれいにされてますね! これならネズミなんか出ないんじゃないですかぁ?」


「まあねー。ここ数年見てないわよ?」


おっ、いきなり態度が変わったな。


「じゃあまずは床からいきますね!」


『浄化』


「え……ちょ、今、な、何を……?」


土足だもんなぁ。汚れが溜まってたぜ? そりゃあ一発できれいになるってもんだ。そしてコーちゃん、どうだい? 地下はありそうかい?


「ピュイピュイ」


ないのね。残念。よし、次行こう。


『浄化』


壁もきれいにしておいてやった。


「これでもう大丈夫ですね! もしネズミが出るようでしたらぜひ! ギルドでご依頼くださいね!」


依頼されても誰も受けないと思うけどね。


「あ、う、うん……十等星なのにすごいのに……あ、お茶どうぞ」


ぬるい。そしてまずい。


「ありがとうございます。奥様も腕に覚えがあるようで。」


だから見知らぬ私でも気軽に家に入れたんだろうな。普通入れないよな。


「これでも七等星だったからね。今じゃただの主婦ってとこね。で、本当の目的は何だったの?」


あらら。さすがにバレるか。


「この建物が昔、ハンダビラのものだったことは知ってるかい?」


もう演技はいいだろ。


「知るわけないよ。どんだけ前の話? そもそも闇ギルドとかって面倒な話を持ってこないでよ……」


「二十年ぐらい前かな。知らないならいいさ。何か奴らの痕跡でもないかなーと思って探してんだよ。あいつら逃げるのだけは上手いみたいだからさ。」


「ふぅーん? たかが十等星のくせに大きな口叩くんだね。何が目的?」


「話してもいいけどロクなことがないと思うぞ?」


闇ギルドの奴らって『秘密を知ってそう』ってだけで殺すもんな。


「いいからいいから。平凡な主婦なんてやってるとね、たまにそんな話だって聞きたくなるもんなの」


「平凡ねぇ。じゃあなんでハンダビラが闇ギルドって知ってんだ?」


「さあてなぜかな? おっと、それより気分はどう? 特製のお茶、そろそろ危ないんじゃないかなぁ?」


「なっ!? ま、まさか毒を!? ぐっ……ぐおお……」


「無駄無駄。吐いたってもう遅いよ。なんでハンダビラなんてもんを探ってんのか知らないけどね。あいつらを探る者は私が殺すことになってんだよ。それがここを譲り受けた条件でね。あいつらって毒まで用意してくれてさ。気前がいい奴らだよ」


「お、お前はハンダビラの……モンじゃないのか……」


「違うよ。ただの元冒険者。まさかこんな日が来るなんてね。まあ契約魔法かかってるし、やるしかないんだけどね」


ふーん。契約魔法ね。


『解呪』


「え……」


「契約魔法は解けたな。では落とし前の時間といこうか。よくも毒を盛ってくれたな。まずかったぜ?」


「あ、あんたどうして……」


あの程度の毒が効くわけないだろ。今や神殺しの猛毒でさえ解毒できるってのに。


「さてと。あれこれ話してもらおうか。」


もう少し演技を続けてもよかった気もするが、まあいいか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る