1710話 スラム街の尋問
「しゃ、喋る……ほんとぉにくれるんだろうなぁ?」
「お前次第だな。本当のことを言うと約束するなら俺も守るぞ?」
「わ、分かっ、しゃっべっべっええああっ……い、今のって……?」
「契約魔法だよ。お前はもう逃げられない。とりあえずハンダビラの何を知ってる? ボスの名前は?」
何も情報がなかったらすぐ殺そう。
「ぼ、ボスはナバーラって女だ! すこぶるつきのいーい女なんだぁ! 歳ぁ知らねえ! 顔を知ってる奴は昔から顔が変わってねえって言ってる!」
女ねぇ……
ズレナもだが、女ボスが多いのには何か理由でもあるんだろうか? あ、でもそれを言い出したらラグナもそうだしな。うーん男女平等か。実は私が知らないだけで天王ジュダも奥さんに操られてたりして……ないか。先代天王の娘って話だったもんな。きっと周りの見えない箱入り娘に違いない。国を荒らすジュダみたいな野郎と結婚するぐらいだから。まあどうせジュダに洗脳されてるんだろうけどさ。
おっと、そんなことは今どうでもいい。
「ハンダビラの者が集まる場所とかないのか? 事務所は見ての通りだしな。」
「し、知らねえ! お、おりゃあ何回かそこに入ってナバーラと話したことがあるぐらいで!」
それは知ってるうちに入らない。しかもそのナバーラが本当にボスかも怪しくなってきた。
「この建物の下には地下通路があったが、何本ある?」
「し、知らねえ! そんなもんがあることすら初耳だ!」
なんなのこいつ? 役立たずすぎる……
「おい! 他にいねーのかよ! 十万ナラーいらねーのか!?」
辺りを見渡してみるがどいつもこいつも私と目を合わせようとしない。用がないならどっか行けってんだ。
でもここまで来て収穫なしってのも面白くないしなぁ……
もう少し粘ってみようかな……
「十万ナラーじゃ足りないなら言え! エチゴヤに借金があるとか、エチゴヤに姉を売り飛ばされたとかな。俺が話をつけてやってもいいんだぞ?」
これ系のエピソードはスラムの奴なら全員心当たりがあるはずだ。身内を助けるために足掻いてみろってんだ。
「ほ、ほんとか! 姉ちゃんを助けてくれるのか!」
子供が一人か……でもどうせ情報なんか持ってないだろ……
「お前の情報次第だな。とりあえず話してみろ。」
「にいちゃん、耳貸してくれよ……」
小走りで近寄ってきた。身をかがめて耳を寄せる。
「ばーか!」
声と同時にナイフを突き立ててきたが……
「バカはお前だよ。」
子供の腕力で、錆びたナイフで、私のドラゴンウエストコートを貫けるものか。実際にはウエストコートどころか自動防御すら貫けてないけど。
『水壁』
これで二人目。実は最初の男よりはこのガキの方が情報持ってるような気もするね。
「とりあえずハンダビラについて知ってることを全部言え。」
「うるせぇ! 誰が言うか!」
「ここに集まってる奴の中にメンバーがいるぞ! このガキも確かメンバーだ!」
『水壁』
周囲一帯を全て囲った。見物人は誰一人逃さない。役立たずだと思った野郎も意外な情報を持ってるもんだな。私の質問の仕方が悪かったのか……
メンバーねぇ。ガキが本当にメンバーかは怪しいが、見えてるだけでも見物人は五十人を超えてる。面倒だが全員確認してくれよう。
思い出すなぁ。いつかの母上の見事なお手並を。どんな魔法を使ったのかは知らないが、片っ端から白状させてたんだよなぁ。尋問が終わった奴はたいてい精神が壊れてたけど。
あれは真似できないよなぁ。
『水鞭』
『水操』
老若男女、ことごとく捕縛してやった。
「よくやった。先にポーションを飲ませてやるよ。手が痛いだろ? 十万ナラーは後だな。で、どいつだ? お前が知ってるハンダビラのメンバーは。」
「んぐっんぐぅ……ぷはぁ……まじぃ……まずこのガキだ! 見覚えがある! それからあっちのジジイ! それからあの女だ!」
「おっと、危なかったな。」
ナイフが飛んできた。ペラペラ喋るこいつを殺そうってか。無理だな。私の水壁に囚われているんだ。逆に考えれば無敵の防御に守られてるってことさ。ナイフごときが効くわけないだろう。
ナイフを投げたのは……あいつか。
『水操』
近くに寄せてと。
「お前もハンダビラのメンバーか?」
「ふん……」
『水壁』
喋らないなら用はないんだよな。顔まで水中に封じ込めてやった。
「お前らみたいな闇ギルドの奴らってのはさ。しょっちゅう拷問してるんだろ? いや拷問だけじゃない。ちょくちょく殺してるだろ? 中でも溺死ってのは苦しい死に方の代表らしいんだけどさ。もうすぐこいつが溺死する。次は誰がいいと思う?」
「やっ! やめてくれぇぇぇぇーー! ワシは違う! 関係ないんどぁぁあーー!」
さっき指名されたのとは違うジジイがわめいている。関係ないなら大人しくしとけばいいのに。
いや、こいつだけじゃない。他の奴らもこぞって大声をあげてやがる。自分は無関係だ、見物に来ただけだと。
『消音』
ふう。静かになった。
さて、さっきあいつが言ったのは……
『水操』
このジジイと、あの顔面ブツブツねえちゃんか。近くに寄せた。
『消音一部解除』
「さて、お前ら二人とこのガキ。残念ながらもう助からない。だが、どうしても助かりたければ有益な情報を吐くことだな。さもないとそいつみたいに溺死することになる。」
さっきまでは水壁内で暴れていたが、可哀想に破ることはできなかったね。今はもうぐったりしてる。このまま蘇生措置をとらなければ死ぬね。
「ふん……殺せ。ハンダビラに受けた恩を仇で返すわけにはいかん……」
「このファベルでお前のような無法が許されると思うなよ!」
ジジイは潔く、ブツブツねえちゃんは元気だ。こんなスラムに法があるのか?
「分かった。殺そう。」
『水壁』
若い順にね。まずはガキから。
「まっ、待て! やめよ! 殺すならワシから殺せ!」
「お前は最後だ。次はそのねえちゃんだからな。ナイフを投げた奴はもう死んでるか。ハンダビラにどんな恩があるかは知らんが、あんな外道どもにそんな価値があるのかねぇ?」
「お、お前のような若造になにが分かる! ハンダビラは我らファベルに生きる者を守ってくれておる!」
「そうだ! ハンダビラがあるからこそ私らはエチゴヤの手から逃れられたんだからな!」
うわぁー。こいつら上手いこと騙されてるわぁー。そんなわけないじゃん。どう考えてもエチゴヤと共存してるに決まってるし。もしエチゴヤと敵対してるんなら、とっくに私に有益な情報持ってきてるだろ。そしたら簡単にエチゴヤを潰せるんだからさ。
よってハンダビラはエチゴヤと敵対してないと見なすことができるってわけだ。だいたい情報に特化した組織なら私のことだって知ってるだろ。なのに接触してこないってことは私の行動は都合が悪いってことだもんな。
「そろそろそのガキも死ぬんじゃないか?」
あーやだやだ。なんで子供まで殺さないといけないのやら。まあ、私を殺そうとしたしハンダビラのメンバーって話だから当たり前だけどさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます