1709話 ハンダビラの置き土産

『徹甲弾』


よし開いた。まったく。どんな仕掛けかは知らないが私を閉じ込めようとは太ぇ奴らだ。無理に決まってんだろ。

それにしても地下通路に罠がなくて帰ろうとしたら蓋が開かないって、どんな罠だよ。まだ地下に水を引き入れた方が効果的だろうに。


「ピュイピュイ」


毒が充満してるって? ああ、私たちは自動防御の中にいるから気づかなかったのか。

帰ろうとして蓋に触れたら毒ガスかなんかが充満する仕掛けってところか? タチ悪いなぁ。確かに水没させるより効率よさそうだけど。後始末的にも。どうもハンダビラってのはただの弱小組織じゃないみたいだな。


『浮身』


さて……建物は一部壊れてしまったか。捜索どうしよ……

どうせ何もないとは思うが探すだけ探してみるか。そこまで広くもないし。


「ピュイピュイ」


コーちゃんも探してくれる? 頼りにしてるよ。私よりよっぽど。


さて、コーちゃんは行ってしまった。私も探そう。探し物が見つかる魔法とかないのかなー。探し物を具体的にイメージする必要とかありそうだな。


「ピュイピュイ」


おっ、コーちゃん早速かい? え? 罠があるから開けてって? もー、コーちゃんたら。でもそんな純真な目で見られると断れないな。ぜんぶ開けちゃう。


見た目はただの食器棚だけど……


金操きんくり


引き出しの取手を引っ張る。中から出てきたのは……蛇? 牙が鋭く凶悪そうだな。


「ピュイピュイ」


おっと、コーちゃんの一言で蛇はどこかへ逃げていった。よかったよかった。コーちゃんの前で蛇は殺せないからね。


「ピュイピュイ」


分かってるよ。全部開けるからね。


『金操』

『金操』

『金操』


「ピュイピュイ」


ことごとく現れる蛇。そのたびにコーちゃんは声をかけてどこかに逃している。この蛇がファベルの住人を噛んだら……私の知ったことではないな。こんな所に蛇を閉じ込めておくハンダビラが悪いに決まってる。


「ピュイピュイ」


もういない? それはよかったね。

それにしても結局何もなかったな。蛇がいなくなった後の引き出しは全部空っぽだったし。他に地下室もなさそうだし。

どうしよっかな。面倒だから放置でもいいんだけど、これ系の奴らって放置すればするほど面倒になりそうなんだよな。


コーちゃん、匂いで後を追えたりしない?


「ピュイピュイ」


無理か。すっかり消えてるのね。それならカムイでも無理だろうね。消えてると言うか、消したんだろうなぁ。なんとまあ念のいったことで。


仕方ない。帰ろうか。でも、ただでは帰らんぞ?


あれ? 入口が開かない。また何かの罠か?


「ギャワワッ!」


なっ!? この魔力は!?


『鉄壁』




ふぅ……どうなったかな?


『鉄壁解除』


あーあ。更地になってる。近隣まで巻き込んで大爆発ってとこか? すごい音がしたっぽいもんな。自動防御は轟音だって防ぐからな。

罠の発動前、かすかに感じたあの魔力。生意気に魔石爆弾を仕掛けてやがったのか。毒ガスでも来るのかと思わせて火力でごり押しかよ。普通に毒ばかり警戒してたら即死だろうな。私だってとっさに鉄壁を張らなかったら、吹っ飛ばされて酷く酔う程度のダメージは受けただろうさ。


ありがとねコーちゃん。助かったよ。


「ピュイピュイ」


これで完全に手がかりがなくなっちゃったね。建物ごと持って帰ろうと思ってたのに。


「あ……な……何が……」


ファベルの住人か。


「見ての通りだ。ハンダビラの奴らが卑怯にも罠を仕掛けていたみたいでな。まったく……卑劣な奴らだぜ。お前ら怪我はないか?」


「あっ、た、助けてくれぇよ……今ので大怪我しちまってぇんよぉ……」

「俺もぉ……にいさぁんよぉ……」

「痛え痛えよぉんおんおん……」


バカかこいつら? どう見ても怪我なんかしてないじゃないか。そのくせ目だけは血走ってるしさ。ハンダビラの置き土産ってとこか?


「傷を見せてみろ。その前に一歩でも動いたら殺すぞ?」


「あっ、こ、これ……」


『水壁』


「バカかお前。それは今自分で切った傷だろ。」


一瞬手を後ろに回したもんな。バカかよ。


「死ねぇぇえええん!」

「金ええぇええぇん!」


『風斬』


終わりだ。首を少し切っただけではない。きっちり飛ばしてある。すぐにアンデッドになる薬とかあるもんな。ただ殺しただけでは安心できない。


「さて、お前らはここの住人だな? ハンダビラの奴から金でも貰ったのか?」


「い、言うわけな……」


「だろうな。」


『水操』


「あぎゃあぎゃじゃじゃあー!」


両腕を折ってみた。


「たすっ、お前ら、たすっ! あんごゃぎぃ!」


折った腕をぶらぶら動かしてみた。


「助けは来ないみたいだな? もう少し待ってやるから大声出してみろよ。」


「ふぅ……うう……誰かぁーー! 助けてくれぇええーー! 殺されるぅううーー!」


建物がいくつか倒壊したせいか、よく声が通るね。少しずつ集まってきてはいるが、どいつもこいつも物陰から顔を覗かせる程度。こいつを助けようとする奴なんかいないようだ。


「お前らさ。 ハンダビラの情報持ってる奴いるか? 金出すぜ?」


見せびらかすのは十万ナラー小判。ここの奴らには大金だろう。


「知ってん!」

「おれ! おれしって!」

「ホンダブ! しっとぉ!」

「ハンダビ! 十万!」

「おれんだぁ! どけてめぇ!」


効果は抜群か。だが……


『水壁』


「そこよりこっちに近寄るな。右のお前から話せ。ハンダビラの何を知ってる?」


「え、えっと、その、ハンダは、そ、そうだ! 闇ギルドだ!」


「次、隣のお前。」


「闇ギルドだ! だからあぶない! きをつけろ!」


「次。」


「ホンダブ……闇ギルド……十万くれ!」


「次……」


「ハンダビ! とっておきの情報がある! こいつらには聞かせらんねぇ! 信じてくれ! ホントだ!」


「最後……お前は?」


「うるせんだよ! さっさとそれよこせや!」


『風斬』


はぁ……そりゃそうか。こんな奴らが知ってるわけないか。ご近所ならではの情報とかないか期待したんだけどなぁ。嫌になるほど時間の無駄だったな。


「一応聞いておくけど、お前何も知らないんだよな? 今なら高品質ポーションと十万ナラーくれてやるけど?」


最初の奴にも聞いてみるけど……

どうせこいつ何も知らないだろうしね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る