1696話 三階のデキゴト

さてと地下室は……


ちっ、やっぱこの匂いか……


澱んだ埃とえた体液、そしてまだ乾いてない血……


小部屋も多いな。


「なんだぁ? ん? 天井がおかしくねぇ?」


誰か出てきた。


「お前もエチゴヤの者か?」


「おっとぉ、やめてくれよー。俺はエチゴヤなんぞとは……」


おっと。いきなりナイフかよ。脅す前にいきなり刺してくるところはそこらのチンピラとは大違いだね。でも……


「なっ!?」


刺さるかよ。


『風斬』


「かっひゅっ……」


攻撃はいいが防御のことは考えてないだろ。首が無防備すぎる。つーか上半身裸だし。

それに普通のナイフでは私の自動防御は抜けまい。

ちなみに男が出てきた部屋には全裸でぐったりしている女がいた。帰りに起こせばいいか。さて、他の部屋は……


うーん予想通り。女が閉じ込められている部屋、血の跡が残りまくりの部屋、そして武器などが置いてある倉庫か。意外にもエチゴヤの人間はさっきの男だけしかいない。

品物を吟味するのは後でいい。とりあえず全部いただく。収納収納っと。


よし。乱雑な倉庫がすっきりしたぞ。ムラサキメタリックどころかアイリックフェルムの装備すら一つもないのは残念だったな。


「あ、あの……どなたなんですか……?」


おや、閉じ込められてた女だな。扉をぶち壊しておいたからな。


「正義の味方かな。お前ら逃げていいぞ。あ、それから知り合いにローランド王国から拐われた奴がいたら教えてくれ。もしくは若草雲荘まで来たら助けてやると伝えてくれ。」


「性技の……味方? す、すごい方なんですね……えっと、ここにはローランドの人はいないと思います……みんな天都の高級店で働かされてるって……聞いてます……」


あ、そりゃそうか。美人ばかり拐うって話だったもんな。わざわざスラムなんかで使い潰すのはもったいないもんな。クソが……


「そっか。ありがとよ。じゃ、元気でな。」


「あ、あの!」


「ん? 何だ?」


「助けていただき、ありがとうございます……でも、私たち全員……行き場がないんです……」


そう言われてもな……

よし、後で考えよう。


「しばらく待ってな。ちょっと金目の物を探してくるから。なんならお前らも好きに探していいぞ。生きるために金は必要だからな。」


「い、いえ……お待ちしております……先ほどの部屋で……」


「ああ。」


先ほど見た女達は比較的身ぎれいだった。まだ買われて間もないってことだろうか。そしてこれから売るために最低限は汚れを落とした感じか?


まあいい。後で考えよう。次は一階から上だ。生意気にこの建物って三、四階あるもんな。私の自宅は二階までしかないってのに。まあその分広いけどさ。


一階、二階とも何もなし。いや、正確には家具とか机とかゴミのようなものはいくらでもあるんだけどさ。気絶している男もいたのでトドメを刺しておいた。まさかこんな所にいる奴が善良な一般人であるはずがないしね。エチゴヤの関係者は皆殺しだ。


三階。少しだけ高級感のある作りだ。壁だって薄汚れたりしてない。おっ、これまた生意気にごっつい扉発見。風球ドーン。


おっ、中に人間は二人。男女一人ずつか。おやおや、昼間っから情事の最中だったのね。いやー悪いことしたね。

男の方は……もしかしてこいつがボス? さっき外で殺した奴は違ったのか? あいつはただの幹部とか? まあいいや。今度こそ殺さないようにしっかり尋問しよう。


『水壁』


もちろん顔は出してある。で、そこらに落ちてた棒っきれで顔をビシバシ。ほら、さっさと起きろ。こっちはてめぇの汚い裸なんぞ見たくないんだからよ。さっさと終わらせたいんだよ。


「うっうう……な、なにが……」


おっ、起きた起きた。


「おはよう。お前がここのボスか?」


「がっ、なっ、てめぇ……何モンだぁあがっ!」


質問に答えなかったので殴る。


「質問してるだろ? お前はボスか? それとも下っ端か?」


裸なもんだから服装で区別がつかないんだよな。さらにぶっ叩く。


「ち、ちが、や、やめめってぉ……」


「何が違う? ボスでも下っ端でもないってのか?」


「ちがっ、言わなっ、たすっ、たすけっ!」


こいつの視線は……


危ねっ。


「ちっ、黙っとくこともできないとはねぇ? やっぱ男なんざおっ立てることぐらいしか使い道がないのかねぇ?」


この女、ムラサキメタリックのナイフを持ってやがった。もう少し気付くのが遅かったら首あたりをざっくり斬られてたかも。全裸なもんだから衣擦れや足音すらしなかったのね。完全に油断してたわ。こっちがボスかよ。三十代後半かな。肉付きはいいが顔はキツめだな。般若みたい。


「お前がここのボスか? エチゴヤに女幹部がいるとは知らなかったな。」


「ふっ、男だろうが女だろうが強いモンが上に行くのさぁ。当たり前だろぉ?」


どうでもいいけどこいつの喋り方ってラグナそっくりだな。闇ギルドの女ボスあるあるか? 私の前に肌を晒してるのに少しも恥ずかしがらないところもそっくりだし。


「そうだな。その通りだ。ところでお楽しみの最中だったんだろ? 邪魔して悪かったな。ついでだから聞かせてくれよ。」


「ふぅん何をだぁい?」


女ボスはナイフを手の平にぺしぺししながら太々ふてぶてしく返答する。大物だね。


「大番頭はどこにいる? 何ならエチゴヤの会長でもいいぞ?」


「ふぅん……あんたぁただの向こう見ずじゃないねぇ? 何が目的だぁい? 話によっちゃあ協力してやんなくもないねぇ?」


おっ、意外な風の吹き回し。まあ嘘くさいことこの上ないけどね。


「条件があるなら言え。大抵のことなら聞いてやるぞ?」


「まあ、そんな小難しい話よりさぁ……脱ぎな。あんたの男の性能で判断してやるよぉ。このアタシを満足させることができたら話ぐらい聞いてやるよぉ?」


「チェンジ。無理。他の条件にしろ。」


「なぁんだ。口だけかい。このアタシの裸体を目の前にしてんのにビビりまくってんだろ? それじゃあ立つもんも立たないわなぁ。そんな役立たずな男は……殺すしかないねぇ!」


結局こうなるのかよ……

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