1697話 倉庫番ズレナ・エバーシン

もちろん戦いと言えるほどのことはなかった。さすがにボスだけあって多少は強かったが、二十秒余計に時間がかかる程度のものだ。


「くっ、こ、殺せぇ! アタシをなぶろうってんだろぉ! ご禁制の絵巻みてぇにさぁ! いっそ殺せぇ!」


なんだそれ……知らんぞ。


「聞きたいことを話せばいいだけだ。別に嬲りたいわけじゃない。」


「ふざけんじゃねぇ! アタシにそんな魅力がねぇとでも言うのかい! ここから出せやぁ! アタシの舌ぁ味わわせてやんからよぉ!」


面倒くさい奴だなぁ。媚を売りたいならその般若みたいに釣り上がった目をもう少し緩めろよな。


「とりあえずあれ見ろ。」


『風斬』


先ほど水壁に閉じ込めていた男を首チョン。


「お前も死にたいんだったな? いいんだな?」


なくなった首から血が真上に吹き出している。その血を頭から浴びても、この女は顔色ひとつ変えない。さすがに慣れてるのか。


「へんっ! そのぐらいでビビるとでも思ってんのかい! この稼業にゲソつけたときからいつでも死ぬ覚悟ぁできてんだぁ!」


なーんかこのセリフもラグナか誰かから聞いた気がするんだよなぁ……

まあいいや。もう少しがんばって尋問してみよう。どうしてもだめなら殺せばいいや。


「これなーんだ?」


「あぁん? ただの白い薬じゃねえかぁ……まあまあ上物……はんっ! そうかい! そんなもんを使わねぇと女も抱けねぇってのかい! 情けないねぇ! 見た目通りただの坊ちゃんかよ!」


半分正解。コーちゃんのだからたくさん使う気はないけど。


『水鞭』
















〜〜削除しました〜〜















「ねっ、ねぇ……も、もっとぉ……もっとぉ……あんたの女になるからぁ……何でもする……何でもするからぁ!」


こうかはばつぐんだ。お薬は少ししか使ってないんだけどなぁ。こいつ意外に普段は摂生してるタイプか? それとも単に男の趣味が悪かっただけ? 攻めてばっかりで責められることがなかったとかね。


「じゃあ約束な。俺に絶対服従しろ。そしたら時々かわいがってやる。」


「はいっんんんっあっがぁっっっ! ふぅーふぅーふぅ……」


よし。ばっちりかかった。


「まずは質問に答えてもらおうか。お前の名前は?」


「ズレナ・エバーシンんん……」


「お前の立場は?」


「ここ……エチゴヤのファベル倉庫の管理人んん……」


なんと。ここって倉庫だったのか。人間やら武器やら色々としまっておく倉庫なのね。


「ローランド人奴隷は扱ってるか?」


「いいやぁ……あいつらは高級品だからぁ……こんな場末になんて来ないさぁんん……」


ちっ、やっぱそうかよ……


「お前のすぐ上は誰だ?」


「わかんなぁい……アタシらぁどぉせ捨て石みたいなもんだしぃんん……」


なんだよもー。来た意味ないじゃん。


「上とはどうやって連絡をとってる?」


「月末に指示書を持った使いが来るよぉ……で、帰りにうちから商品ブツを運び出したりしてるぅんん……あ、商品の受け取り場所を指示されたりもするぅんん……」


くっそ……十日も先じゃん! しかも私がこれだけ暴れたからもう来るわけないし! いや、むしろ私を狙って殺し屋とか青紫部隊バイオレッタが来るかも? そしたら手っ取り早いんだけどなぁ……


「青紫部隊や深紫ディパープルはどこにいる?」


「知らなぁい……数回した見たことないしぃぃんん……」


もぉーー! スラムの中にこんな大きな建物を構えてるくせに! 下っ端ばっかりじゃん!

はぁ……えーっと、他に聞いておくことは……


「お前のナイフ、あれはムラサキメタリックだな? どうやって手に入れた?」


「使いの野郎が生意気だったから帰り道に襲撃して奪ったのぉんん……金目のモンなぁーんにも持ってなくてぇ……あのナイフだけぇ……」


めちゃくちゃじゃん……つまり使いに来るような奴は下っ端だからそんなことしても問題ないってことかよ。むしろ問題が発覚しないように殺したりしてそうだな。つくづく外道の集まりだよなぁ。


「お前らは倉庫番以外にどんな仕事してる?」


「あはぁん……普通に賭場開いたり娼館の女ぁ手配したりぃ……薬だって安く売ってるよぉ……アタシは安物ぁ嫌いだけどぉんん……」


普通だ……普通すぎる……


「天都の中にあるエチゼンヤ本店はエチゴヤにとってどんな場所なんだ?」


「知らなぁい……噂じゃあエチゴヤが裏で手に入れたものはエチゼンヤが売り出すって話だけどぉんん……」


情報統制しっかりしすぎだろ! なんで身内なのに噂しか知らないんだよ!

無駄足か……

あ、そうだ。せめて……


「お前らの全財産はどこにある? 出せ。」


「はぁいこれぇんん……」


おっ、こいつの魔力庫に入ってたのか。どれどれ……五億ナラーと少しか。これなら全くの無駄足でもないな。


「他に倉庫内に隠してる金目のものは何かあるか?」


「あるよぉ……案内しようかぁん……」


「ああ。おっと、まずは服を着な。」


「えぇえん……着るのぉ……?」


口では文句を言いながらもきっちり服を着る。私の契約魔法には逆らえまい。




「こっちぃんん……」


それにしてもこいつ、いつまでナイストリップしてるんだ? 別にいいけど。


「あっ! てめぇ誰だぁ! ズレナさん大丈夫っすかぁ!」


曲がり角でばったり。もちろん気付いてたけど。隠れる必要ないし。


「大丈夫ぅ……アタシの部屋ぁ掃除しといてぇん……そしたら後でかわいがってやるからぁんん……」


「えっ!? ま、まじっすか! ついに俺にも! もうグルドンさんに飽きたんすね! やったー!」


明らかにこの女より歳上のごろつきが……少年のような目をして死体が転がった部屋の掃除をする……

うーんミステリー。

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