1695話 いつもの蹂躙

ばたばたと地面に落ちる野郎ども。とっさに浮身を使うこともできないとは。だめだねぇ。


「てめぇかぁ!」

「どこのモンじゃあ!」

「ここをどこだと思ってんだぁ!」


十メイル程度の高さから落ちた割には意外と元気だな。


『風斬』


首チョン。


うーむ……壁ドン、顎クイ、首チョン。ぷぷぷ、言ってみただけ。


へー、落ちてくるのは汚らしい野郎だけじゃないな。半裸の女もだ。


『水壁』


そういう場合は水のクッションで優しく受け止めてやるさ。


「ちょ、ちょっとあんた……な、何やってるの!?」


「害虫駆除ってところかな。お前こそこんな所で何やってんだ? お仕事か?」


服装を見れば想像はつくが……


「そうだけど……まだ金もらってないのに! どうしてくれるのよ!」


「いくらだ?」


「ショートで二万……」


ショートって何だよ……


「ほれ。さっさと離れた方がいいぞ?」


「えっ、ちょ、あ、よく見りゃ……上客……ね、ねぇあなたぁ? 私今ひまなんだぁ。一緒にイイコトしなぁーい?」


『風球』


まったく。私に営業かけるのは自由だが触れるのは許さん。まあ自動防御を張ってるけどさ。せっかく助けてやった上に損失補填までしてやったのに。ぷんぷん。


それからも人間だけでなく、家具などもポロポロ落ちてきた。もっとも、着地した時点で壊れていくけど。そんな破片をいつの間にか集まったスラムの住人が嬉々として拾っている。上からまだ落ちてきてるってのに。潰れてもしらんぞ?


「あぎゃうっ」

「ひでっぁっぽ」

「しぎゃいゃ」


そりゃあそうなる。


さて、そろそろかな。




「なっ!? なんだぁこりゃあ!」


あら、予想が外れた。中からでなくどこか外から現れやがった。帰ってきたって感じか。こいつがボスかな。


『水壁』


「ちいっ!」


おっ、生意気な。ムラサキメタリックの短剣を持ってるとは。


「てめぇ……どこのモンよぉ……まさかジノガミじゃあるめぇなぁ……」


『風斬』


「舐めんじゃねぇ!」『風壁』


おっ、すごい。きっちり防ぎやがった。だが無駄だな。


『狙撃』


「いぎっっ……て、てめ『狙撃』ぇっごぉ」


両肩に穴を空けた。

では改めて……


『水壁』


よし、オッケー。


「やあこんにちは。俺はカース。ローランドの魔王なんて呼ばれてるが知ってるか?」


「ふざけんなぁ……てめぇみてぇなガキが……まさか、あの傷裂と一緒んなって迷宮踏破したってぇのかよ……」


「知ってるようだな。じゃあ質問。お前はエチゴヤのボスか?」


「けっ! そんなわけねぇだろが! それよりてめぇ……ここまでやりやがったんだぁ! 死んだぞおらぁ! てめぇだけじゃねぇ! 両親に女、ツレ! そして傷裂ドロガーもなぁ! あいつに助けてもらえるだなんて思ってんじゃねぇぞ? エチゴヤぁ敵に回したモンがどぉなるかたっぷり思い知らせてやんからよぉ! もう逃げても無駄だぜ……クソ田舎のローランドだろうが俺らぁどこまでも追っかけるぜぇ……」


『風壁』


おっと、こいつが落としたムラサキメタリックの短剣を住人が拾おうとしやがった。それは私がもらうんだよ。


「ぷぷっ、こんな島国の田舎もんがよくもまあローランドを田舎だなんて言ってくれたな。お前には後でローランドの広大な大地を見せてやるよ。」


「てめぇあ『水壁』がぼっぼぼっ」


顔まで覆ってやった。

あーあ、大人しく拾うだけじゃなく乱闘まで始まってるし。そんなにいい物落ちてるか?

おっと、短剣ゲット。ふーん、結構分厚いなぁ。鉈としても使えそう。収納……は後にしておこう。


『水壁一部解除』


「ぶはっ、はぁっはぁ……てめぇ……」


「喋る気になったか?」


「舐めんじゃねぇ! 俺ぁこれでもエチゴヤの『風斬』おっか、し、ら……」


はい残念。せっかくローランドが見える高さまで空中遊泳させてやろうと思ったのに。まあいいや次行こ次。


倒れてる奴で比較的服装がまともなのは……

よし、こいつにしよっと。


「死ねやぁ『風斬』あっふしゅ……」


へー。死んだふりかよ。懐の中身を漁られながらも死んだふりを続けるとは、中々の役者だな。

でも惜しかったね。無言で襲ってくれば少しは勝ち目があったろうに。

今の場面、褒めるべきは私の魔力制御の巧みさだ。直前まで水壁を使う気だったのに、瞬時に風斬に切り替えたところなんか惚れ惚れするね。おまけにその後、寸分違わず首チョンした魔法制御。やっぱ私って基礎力バッチリだよな。


「てんめぇ……ったる……殺ったるからなぁ!」

「イゲさんの仇だぁー! やったれやぁ!」

「クソったれがぁ! どこのモンじゃおるぁ!」


『風斬』


無防備に突っ込んでくるからいいカモなんだよな。さて、これで外に落ちた人間は全部か。

では建物を下ろして……


今度は全部封鎖。誰も入れない、誰も逃がさない。


「お前ら。この水の外に落ちてるモンは好きに拾っていいぞ。でも中に入ったらどうなっても知らんぞ?」


「あっ、ああす……」


近くにいた住人に一言だけ忠告。さて、いざ突入といこうか。ざぶざぶ。

まだ何人か残ってるかなー。おっと、そうか。地下もあるんだな。持ち上がったのは一階から上だけか。安普請だな。

じゃあ先に地下に行こう。どうせ胸くそ悪くなるモンがあるんだろうけどさ……

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