1661話 天都でのショッピング

クロミは騎士長の情報なんていつの間に手に入れたんだ?


「で、いい事って何だ?」


「んー。明日何かあるじゃん? 人間相手に戦う的なやつがさー?」


「ああ。あるな。それが?」


「あいつウチらを全員殺す気だよー?」


なんだそんなことか。それは予想がついてることだしね。


「どうして分かった?」


「えー? 普通に怪しいから心を読んだだけだし。なーんか隠す気もなかったみたいだしー。」


そっちの方がびっくりだよ。クロミは心まで読めるのか……いや、でも夢の中に入るのは危険とか言ってなかったっけ?


「あの騎士長の心は簡単に読めたってことか?」


「そーねー。ニンちゃんたちと違って魔力は大したことないし紫の鎧も着てなかったしー。むしろ来れるものなら来てみろって感じなんじゃーん?」


あー、魔力が大したことないから心を読むのも容易いってこと? 各自が無意識に待つ魔力抵抗の突破も簡単ってことかな。

あれ? てことはもしかして……


「それはそうとさ。もしかしてクロミって俺の魔力が空っぽの時なら心を読める?」


「いやいや、無理に決まってるし! それさー、確かに読もうと思えば読めるし! でもさー、ニンちゃんとか狼殿とかの心に入っちゃうとマジ出れなくなるし! ウチまだ死にたくないし!」


うーむ、よく分からん。つまり心を読むためには心に入る必要があるってことか? そしてそこから無事に脱出する必要があると。後先考えなければ誰の心にも入れるってことか。うーむ……やっぱ魔法って奥が深いよなぁ。まだまだ私は勉強が足りないな。長旅が終わったら王都で魔法学院に通うのもアリかもなぁ……


「ちなみに騎士長の心に入って本人には気付かれてないのか?」


「当たり前だし。ニンちゃんだってウチがそんな魔法使ってるの気付いてなかったっしょー? ニンちゃんが気付いてないのあんな人間ごときに気取られるような真似しないしー。」


出た。ナチュラル人間見下し発言。まったくエルフどもときたら……

それにしても私が気付かない程の極小の魔力か……母上の魔法みたいなもんか。


「とりあえず明日は私もアーニャを連れて一緒に行くわ。アーニャがいるから本当はここで待っておいた方がいいとは思うけど。」


「分かってる。バラける方が危険だもんね。だいたい僕らが全員揃っていれば赤兜騎士団だって敵じゃないよね。」


問題があるとすれば白弾も紫弾も、そしてミスリルの弾丸である魔弾も。一発もないんだよな。どうしよう……


「アレク、ポーションと魔力ポーションは何本ぐらい残ってる?」


「そうね……五本ずつね。しかもカースが持ってたのと違って市販の最高級品ではないわよ。」


ふーむ……


「クロミは?」


「ウチは十本ずつぐらいだしー。充分足りるくなーい?」


たぶん問題はない。今の私の魔力が一割ちょいだから明日には三割近くまでは回復するだろう。通常なら三割でも多すぎるぐらいだが……明日はおそらくムラサキメタリックが相手だからな。用心に越したことはないな……


「アレク、買い物に行こう。ポーションをさ。」


「そうね。備えておくことは大事だわ。」


今ならまだ日は沈んでないしね。


「えー!? ウチはー?」


「悪いがアーニャの見張りを頼めるか?」


「ぶー! 別にいーけど! じゃあ帰ってきたらウチとお風呂入ってもらうし!」


そのぐらいなら構わないね。


「分かった。すまんが頼むよ。」


「アーニャを頼むわね。」


「ガウガウ」


自分が付いてるから別に平気だって? まあそう言うな。クロミと協力して頼むよ。


「失礼いたします。お待たせいたしました」


しまった。酒と肴を頼んでいたのを忘れてた。さすがに食べてからじゃあ店が閉まってしまうな。


「ありがとう。そこに並べておいてくれ。」


「かしこまりました」


刺身、タタキ、煮付け。西京焼きっぽいのから串田楽のようなものまで。魚尽くしか。めちゃくちゃ美味しそう。あきらかに肴って量じゃないけど構いやしないね。


「ところで天都で一番高品質のポーションを買いたい場合はどこに行けばいい?」


「ど、どなたか具合がお悪いのでございますか!?」


おお、今まで無表情で接客していた客室係の顔色が変わった。これは接客テクニックか、それとも本心からの心配か。


「いや、そうじゃない。俺たちはローランド王国から来たんだけどな。手持ちにあるのはローランドの最高級ポーションだけなのさ。だからこっちの最高品質のものと飲み比べてみたくてね。案内を頼めるかい? 料理はこうして魔力庫に入れておくから心配はいらない。」


だいたい六割ほどを収納した。クロミとカムイの分を残しておかないとな。


「さようでしたか。もしご予算を気にせずともようございましたら薬屋の『トヤクヤ商会』がよろしいかと存じます」


「じゃあそこで。すまないが頼む。」


そう言って一万ナラーを握らせる。


「ありがたく頂戴いたします。では、参りましょう」




夕暮れが近い天都の街をアレクと腕を組んで歩く。コーちゃんは私とアレクの首に輪のように巻き付いている。まるで一つのマフラーを二人で巻いているカップルのようだ。ラブラブ。


「ピュイッピュイッ」


「コーちゃんもまたアレクに会えて嬉しいって。」


「うふふ。私も嬉しいわ。コーちゃんがいなくなった時のカースったら、もう見ていられなかったもの。」


「ピュイピュイ」


「だから早く帰って一緒に飲もうだって。」


「ええ。今夜は私も飲むわ。うふふ。」


アレクから思わず笑みがこぼれる。私もだよ。幸せ超ハッピーだ。




大きい通りを外れ、小さい道をいくつか折れた。やはり案内させて正解だな。絶対道をきくだけじゃ分からないと思ったんだよ。


「こちらでございます」


到着したのは路地裏の壊れそうに古い店、ではなく路地裏で小さくて古そうな雰囲気だけど木材自体はしっかりしてる店だった。


「ありがとう。すまないがこのまま待っててもらえるか? とても迷わず帰れそうにない。」


「かしこまりました」


まあ客室係もそのつもりだろうけどね。


「ごめんください。お客様を連れて参りました」


「やあいらっしゃい。あらセヒロさん。」


薬屋独特の妙な匂いがするな。これは何と例えればいいんだ? 八角? ドクダミ? うーん、分からん。


「こちら当宿にご宿泊いただいておりますお方です。こちらのお店の最高品質ポーションをお求めにございます」


「最高品質? えーっと、お入用はどっちのポーションかな?」


「両方頼むよ。現金で三千万ナラーほどあるが、買えるだけ欲しい。」


通常のポーションも、魔力ポーションも必要だ。


「ならこれかな。魔力ポーション『純松すみまつ』と通常のポーション『松位まつい』。純松は一本二百万ナラー、松位は一本百万ナラーだね。」


ふぅむ。魔力ポーションはクタナツ価格と比べると少し安いか。逆に通常のポーションは倍近くするのね。


「十本ずつ買えるか?」


「おおっと待ってね。まだ売ると決まったわけじゃないよ。」


だから買えるか? って聞いたんだけどな。


「何本ならいいんだ?」


「ううーん、そうだねぇ……この純松なんだけど、一本丸ごと飲み干せたら十本ずつ売ってあげるってのはどう?」


見た感じ一本あたり三百ミリってとこか。今の私には渡りに船な話だね。こいつが何を気にしてるか分かった気がする。ならば飲んでみせようではないか。


「いいけど、その分の金はとらないでくれよ?」


「いいとも。ただし全部飲めなかったり吐いたりしたら五百万ナラー払ってもらうよ。いい?」


ふーん。まあ金目当てで吹っかけてるって感じはしないな。


「分かった。では約束だ。俺はその魔力ポーションを全部飲む。そしたらこの店のポーション、純松と松位を十本ずつ三千万ナラーで売ってもらう。もし飲めなかったり吐いたら五百万ナラー払う。いいな?」


「ああ、いいとっもっおおっ? い、今のは……契約魔法かい?」


「その通り。だが破っても特に罰則はないけどな。」


「そ、そうかい……じゃ、じゃあこれね。」


ふぅ……さて、思い起こしてみればヒイズル産のポーションって初めてじゃないかな? どんな味がするんだろうなぁ……

ポーションあるあるに当てはまらないといいんだけど……

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