1653話 天都の騎士長ライコウ・ロクジョウ
ドロガーは赤兜どもを相手に何やら話しをしている。アレクはアーニャを闇雲内に隠している。クロミは顔まで隠れるローブを羽織り、赤兜はいつの間にやら普段着に着替えていた。コーちゃんは私の首に巻きついているしカムイは周囲を警戒しているようだ。
「おっし魔王、行くぜ!」
「おう。」
どんな手を使ったのかは知らないが、あっさりと城門を通過した。そんな私たちを天都の住人が物珍しそうに見てくる。赤兜の先導で大通りを歩く私たち。ん? 飲みに行くんじゃないのか?
「どこの店に向かってんだ?」
「おー、それがよぉ。赤兜騎士団の騎士長が俺らに会いたいんだとよ。場所は
「天道宮って何だ?」
「あー? そんなことも知らねぇのかよ。天王陛下がお住まいになられてる所だぜ?」
「あー、王宮か。大層な名前つけてんな。で、騎士長だって? 赤兜騎士団の方のトップなんだよな? ここって赤兜以外に騎士団ってないのか?」
他の街やオワダなんかだと赤兜は珍しかったよな。
「知らねーよ。どうなんだ?」
隣を歩く赤兜、えーっと名前はゾエマだったか、に話しを回すドロガー。
「ないな……数年前から天都には赤兜騎士団以外はいない……」
「ふーん。じゃあついでに質問。御三家って何だ?」
「おっ、何だよ魔王。御三家のこと知ってんのかよ。意外じゃねえかよ。」
たまたまね。
「御三家は……その昔、建国王アモロ・フルカワ公に付き従ってヒイズル統一に尽力した家柄だ……」
まあそんな感じだろうね。
「もう少し詳しく教えてくれよ。」
道中ヒマだしね。
「武力のヨシノ家、知力のオオヨド家、財力のアスカム家があった……だが今のジュダ・フルカワ陛下の御代になってから変化があった……」
「どんな風に?」
「ヨシノ家はオワダに飛ばされた。ローランド王国との要衝オワダの守りを担うという名目で……オオヨド家は一族郎党まとめて処刑された……反乱を企てた咎で……
で、アスカム家は健在だ……メリケイン連合国との貿易を一手に任されて、かなり羽振りがいいらしい……」
あー、そういえばオワダで会ったあのおっさんは元御三家とか言ってたよなぁ。やたら高そうな服着てやがったけど。羽二重とか言ってたかな。
「ふーん。色々あるんだな。あれ? 宰相は御三家とは関係ないのか?」
「ないな……そもそも宰相のアラカワ家はフルカワ家とは反目だったからな……よく宰相にまで成り上がったものだ……」
ふーん。色々あるんだねぇ。でもこの話って一時間もすれば忘れてしまいそうだな。やたら固有名詞の多い話なんて覚えきれるわけがない。
朱雀大路か、と言いたくなるような大通りを歩いてるかと思えば途中で左折。こっちの道も太いな。
おっ、着いたか。ここね。ほー、看板は毛筆か。達筆だね。鹿鳴山楼か。
「ほぉー? いい店じゃねぇか。ここに騎士長がいんのか。」
「騎士長は恐ろしいお方だ……なるべく丁寧に接した方がいい……」
おやおや。赤兜が心配してるのね。私は気にしなくていいや。面倒なことはドロガーに任せておけばいい。
「あぁ? 何だぁお前ら。飲まねぇのか?」
「お、おお……またな……」
「今度また奢れよ……」
「じゃあよ……」
ゾロゾロと付いてきた赤兜どもは店に入ろうとしない。飲みに来たんじゃないのかよ。
「ようおいでくださいました」
代わりに従業員がぞろぞろとお出迎えかよ。楽しく飲めるならどうでもいいけどさ。
「こちらでございます」
「どうなってんだこれ?」
「こちらでございます」
ドロガーの言葉に反応を示さない従業員。
「どうなってんだ?」
「さあな……」
今度は赤兜に会話を振るドロガー。
「こちらでお待ちでございます」
ほう。良さそうな部屋だな。畳敷き、床の間には鮮やかな生け花。趣き深いねぇ。
「お客様をお連れいたしました」
あ、ここの隣なのね。
「入れ。」
「失礼いたします」
ほう。こいつが赤兜の騎士長か。細いな。服装は、これって制服か? 赤兜と言えば赤い鎧兜姿の印象が強いんだよな。
「ようこそ天都イカルガへ。いや、ドロガー君にはお帰りと言うべきかな。」
「アンタか。いつの間に騎士長なんてもんになったんだい?」
おや。ドロガーの知り合いか。
「最近さ。では改めて自己紹介といこうか。私は天都の赤兜騎士団騎士長、ライコウ・ロクジョウだ。ドロガー君以外は初めましてだな。」
「ロクジョウ様、お久しぶりです……シューホー大魔洞の迷宮任務に就いておりました……テンポザ・ゾエマです……」
「それがなぜここにいる? 迷宮での任務はどうした?」
「お、俺はもう……赤兜じゃない……もう、自由に生きるんだ……っぐはぁっ!?」
あらら。吹っ飛んじゃったよ。風の魔法ではない。何やら衝撃を飛ばしたようだったが。
「おいおい、勘弁してやれよ。こいつは迷宮攻略の功労者だぜ?」
「陛下の御恩を忘れた赤兜など必要ない。が、迷宮攻略に免じて命は助けてやるさ。では、乾杯といこうじゃないか。」
こいつが手を叩くと、中居さんたちが次々と酒と料理を運んできた。おっ、旨そうじゃん。
「それでは用意はいいかい? では、シューホー大魔洞の踏破を祝って、乾杯!」
「乾杯。」
「ピュンピュイ」
酒があればコーちゃんはごきげんだ。コーちゃんが嬉しいと私も嬉しい。あ、美味しい。
「さぁてと騎士長さんよ。そんじゃあ話してもらおうか。なぜ俺らを呼んだ?」
ふー、酒は旨いし料理も旨い。難しい話はドロガーに丸投げして、私は料理に集中しよう。
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