1652話 天都イカルガ

で、その虫喰岩むしくいいわからはどんな素材が取れるんだ?


「結構おいしいぜ。まず魔石だけどよ、ポーションを作る時に粉にして混ぜると効果が上がるみてぇだなぁ。で外皮、まあ岩の部分だな。そいつは砕いて砂に混ぜると外壁なんかを塗る時にいいらしいぜ。どっちにしても高く売れるのぁ間違いねぇなぁ。」


ほほう。それなら狙ってみようかね。


『水壁』


「これで死ぬと思うか?」


普通なら窒息するんだろうけどなぁ。


「無理じゃねぇか? 生物じゃねぇんだし。実際ちっともこたえた様子がねぇしよぉ。」


だよなぁ。水壁解除。そして……


『落雷』


「ガウガウ」


効いてないって? 表面を通り過ぎただけなのね。


じゃあもう普通に……


『徹甲弾』


うっわ、硬いなぁ。もう二、三発か。


『徹甲連弾』


よし。大穴が空いたな。貫通してないけど。

改めて……


『落雷』


「ガウガウ」


死んだ? カムイが言うなら間違いないだろう。そろりと近付いてさっと収納。うん。間違いなく死んでたね。


「やっぱ魔王はめちゃくちゃだぜなぁ……全然近寄らねぇまま仕留めちまいやがった……」


「近寄ると危ないんだろ? 次いくぞ。もう二、三匹ぐらいは集めたいからな。」


「お、おお……」




結局五匹ほどゲットした。見た目はただのキモい岩。虫が這いまくって食われまくったチーズって感じ?

大きさは三メイルから五メイルってとこか。重さは一匹あたり百トンぐらいだろうか。こんなの魔力庫がなかったら絶対運べないよな。

ではこれにて金策終了。まあ天都イカルガに行ったら行ったで別の金策もあるんだけどね。それは着いてからのお楽しみとしよう。


「よし、そんじゃドロガー。天都イカルガはどっちだ?」


「おう、あっちだ。」


やや北東なのね。さて、初めての天都イカルガ、よその国の首都か。少しワクワクするな。




快適な空の旅。そこまでスピードを出しているわけでもない。急ぐことでもないしね。外の空気は冷たいが天気はいい。風壁内はぽかぽかだ。眠くなってしまうな。


それはそうと現在の懸念点が三つほどある。


一つ目はアーニャが目覚めないこと。こればかりは仕方ない。心も体もヒイズルに拐われる前まで戻るそうなので一体どのような処理がされているのか想像もつかない。体の時間を巻き戻すとかそんな感じなのだろうか。つくづく神業だな……


二つ目は私の身分証だ。ギルドカードも国王直属の身分証も全て失くしてしまった。一国の首都に立ち入るのにこれはまずい。後でドロガーに相談だな。


三つ目はオワダで元御三家とやらのおっさんから預かった手紙だ。もちろん失くした。手紙を見れば名前なんかも思い出せるんだろうけどな。ないものはない。しかも、手紙と言えば自称ヒイズルの勇者セキヤ・ゴコウの連れ、クワナ・フクナガから預かった手紙もだ。あの時は神との交渉で頭に血が昇ってたからなぁ……後先考えてなかったんだよなぁ……

固く約束したわけではないけどさぁ……会えたら渡す程度の。だから会わなけりゃあいいけだけなんだけどさぁ……そうもいかないよなぁ。

おっさんの分は相手が天王ジュダなんだもんなぁ。あいつにこそ会わないわけにはいかない。ぶち殺すために……

クワナの手紙だってそうだ。今まで集めた情報からすると相手はたぶん母親。そんな手紙を失くしてしまっただなんて……罪深すぎる……どうしよう……

約束を破るなんて……私が……


なんとかしないと……


とりあえず目先の問題は。


「なあドロガー。身分証がない者が王都に入る時ってどうするんだ?」


「あぁー? おーそうか。全部神にとられたんだっけな? まあどうにでもなんだろ。適当に門番に金掴ませりゃあいいだろ。」


そりゃそうだ。常套手段だよな。


「それでいこう。任せる。」


だって私には金がないから。


「おう。任せとけや。なんせ俺ぁリーダーだからよぉ。」




おっ、見えてきた。シューホーからだいたい百キロルってとこかな? 歩けば長旅だな。

へー、結構広いな。しかも区画整理がきっちりされてる。碁盤目状だな。結構やるじゃん。


「正門はあっちか。いきなり前に降りるぞ。」


デモンストレーションも大事だからな。それにドロガーは……


「おう。どんと頼むぜ。」


ほぉー。正門大きいな。例えるなら朱雀門って感じか。丈夫さなら領都やクタナツの城門の勝ちだが、芸術性ならこっちの勝ちかな。


「ドロガー、拡声の魔法は使えるか?」


「いや、無理。どうした?」


「なに、お前が使えないんなら俺が使ってやるさ。」


「あぁ?」


『天都の野郎ども! シューホー大魔洞を踏破したブラッディロワイヤルの傷裂ドロガーが帰ってきたぜ! 場所を開けろ!』


上空から拡声で知らせる。どうせあの神も周知したんだろうしな。さっきの今でシューホー大魔洞からここまで来たってことで驚き二倍といこうじゃないか。


おっ、さすがに注目が集まってきたか。じゃあ降りようか。おーおー、わらわら集まってきたな。民衆も、そして赤兜も。


そんな中心に着陸。ふう。ここが天都イカルガか。やっぱ木造建築が多いんだな。


「おう赤兜ぉ。シューホーの神から聞いてんだろ? 俺らぁやったぜ! あの前人未到のシューホー大魔洞を攻略したぜ! 今から飲むからよぉ! お前らも来いや! 奢ってやんぞ!」


「お、お前もしかして傷裂ドロガーか!?」

「おっ!? マジで!? もうシューホーから戻ったんか!?」

「嘘だろぉ! どうやったらあんなトコ踏破できんだよ!」

「飲むんだろ!? じっくり聞かせてもらおうぜ!」


「おうおう! そこの赤兜ぉ! いい店連れてけや! たっぷり聞かせてやんぜぇ。俺らの武勇伝をよぉ!」


門の前はかなり騒ついている。私たちの周りには多くの人が押し寄せて半分パニック状態だ。風壁を広めに張ってるから揉みくちゃにされるなんてことはないけどさ。このまましれっと門を通過できると楽でいいんだが……

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