1651話 シューホー大魔洞からの旅立ち

どたどたと足音を立てて現れたのはやはり赤兜だった。


「んだぁ? お前らどこから入り込みやがったぁ?」

「あれ? ゾエマさんじゃないっすか? 何でこんなとこに?」

「あ、本当だ。ゾエマさんちーっす!」


「ああ……」


ゾエマ? そういやこの赤兜の名前を聞くのを忘れてたか。


「ゾエマさんって迷宮任務じゃなかったですっけ? こんなとこで何やってんすか?」


「ああ……悪食に出くわしてな……全滅した。そこをこの冒険者たちに助けられた。傷裂きずさきドロガー率いるブラッディロワイヤルだ……」


「マジっすか!? 傷裂ドロガーってあの!? あれ? でもそれ変っすよ? だって赤兜騎士団以外がシューホー大魔洞に潜ったって記録なんぞないっすよ? いつ入り込んだんすか?」


言葉遣いは騎士とはかけ離れてるくせに、えらくまともなことを言うじゃないか。


「さあな……俺に分かるわけないだろ……お前らの怠慢じゃないのか?」


「ぐっ、それを言われるときついっすわ! そんじゃあちっと話を……えーと、ドロガーはお前だな? いつ入り込んだんだ?」


「あぁ!? てめぇこの若造が! 誰に口ぃきいてやがんだ!? おお? いつ入ったかだあ!? そんなもん知るかぁ! こっちぁ入口で大枚はたいてんだぞコラぁ!」


おっ、ドロガーやるねぇ。いかにも入口で賄賂を払って入り込んだかのように。


「勘弁してやってくれ……おおかた担当の者は貰うだけ貰って握り潰したんだろう……」


赤兜もナイスフォロー。いや、赤兜は私たちがどうやって入ったのか知らないわな。だから本当にそう思ってるんだろう。


そして私は『解呪』


「は?」

「へ?」

「ほ?」


効いたね。こいつらは洗脳されてたってことか。それにしてもここの赤兜騎士団は千人近くいるって話だったが、最短距離を最速で駆け抜けたせいか出会った数がだいぶ少ないんだよな。解呪できた人数はたぶん二百人もいってないんじゃないだろうか。


「そんで赤兜ぉ。お前はどうすんだ? しれっと帰隊すんのか?」


「いや……もし叶うことならこのまま同行させてくれ……」


「ああん? お前冒険者になる気かぁ? 正気か?」


あらあら。どうしたことかね。


「ああ……つまらない日常が……お前たちと一緒なら楽しくなりそうで……な。」


「ふーん。まあいいんじゃねぇの? 判断すんのは俺じゃねぇし。いいのか魔王?」


私かよ。


「俺は構わんぞ。ただ赤兜さぁ。俺らじゃなくてドロガーと一緒に活動したいんだろ? 俺らはいずれローランドに帰るからな。」


「そうだ……」


「そうかよ。それなら仕方ねぇな。あれこれ仕込んでやんぜ。ブラッディロワイヤルへようこそだ。」


「テンポザ・ゾエマだ……よろしく頼む……」


ちなみに外に出たことで、こいつにかけた契約魔法は解けてる。


「よし! そんじゃあ無事に生きて出られたことだし天都イカルガで飲もうぜ! 俺がおごってやんぜ。」


「天都か。飲み代だけじゃなくてしばらくの生活費も頼むわ。俺はもう全財産を失くした身だからな。」


マジで一文なしなんだよね。


「しゃーねーな! どーんと面倒みてやんよ!」


話はまとまったな。

では天都イカルガに向かうとするか。それにしても意外と混乱してなさそうだったな。まだまだ解呪した人数が少なかったんだろうか? もっとカオスな状態になってるかと思ったんだけどなぁ。




『氷壁』


「スパッと行くぜ。さあ乗った乗った。」


ミスリルボードがないと落ち着かないけどね。


「ドロガー、方向は分かるか?」


「おうよ。任せとけぇ。イカルガぁあっちだぜ。」


ここより東ってことぐらいは分かるんだけどね。あっちか。


「よし。じゃあ行く……あ、ちょっと寄り道してからな。」


「なんだぁ?」


「まあいいからいいから。」


私は全員を乗せてまっすぐ上昇する。ここらは確か岩山の上がフラットになってたよな。天都に行く前に少しばかり金策をしておかないとな。


岩壁に沿って上昇する。ここってかなり高いんだよなぁ。私の目論見が正しければ……ここらにもあるはずだが……


「ピュイピュイ」


おっ、コーちゃんが先に気づいたね。あっちか。あったー!


「おお、イワミミタケか。よく覚えてやがったな。俺ぁいらねぇぞ。行きん時にも貰ったからよぉ。」


「そうだったっけな。まあいいや。少し待ってな。」


『風操』


ごっそりいただきだ。目算で十キロルはあるかな。


「これだけあればいくらで売れそう?」


「そうさなぁ……ギルドの買い取りで一千万ナラーは固ぇな。名のある商会なんぞに持ち込みゃあ千五百万はいくだろうぜ。」


そいつはボロ儲けだな。もう金策が終わってしまった。


「ついでだから上を回っていくぜ。何か大物でもいたらいいんだけどな。」


「カース、あんまり無理しないでね。お金なら私も少しはあるから。」


「うん。ありがとね。じゃあ通り過ぎるだけにしておくね。」


ローランド王国には女に金を出させることが恥だなんて文化はない。ただし金を出すことで両者の格付けが決まってしまう場合もあるので気にする者は気にする。私は気にしない。貴族なんかは特に気にする傾向が強いかな。




さて、山頂に着いた。東は……あっちか。昼間は羅針盤がなくても太陽でだいたい分かるからいいよな。

のんびり飛んでいくが魔物の姿は見えない。木々も少ないし地面はほぼ岩だし、無理もないのかな。それならそれで鳥系の魔物ぐらい見えそうなんだけどなぁ。時々大きな岩が転がってるぐらいか。つるっときれいな奴からゴツゴツした奴、はたまた大量の虫が這ったようなキモい岩まで。いろいろあるねぇ。


「ガウガウ」


何? あのキモい岩は魔物だって?


「ドロガー。あの岩って魔物らしいが、心当たりあるか?」


「あぁん? あの岩……おお、ありゃあ虫喰岩むしくいいわだぜ。俺なら無視するけどよぉ虫だけに。」


何言ってんだこいつ?


「あはははははは! ヨッ、いやドロガ面白いし! 虫喰岩を無視だって! あはははははは!」


おお、クロミには大ウケじゃん。


「理由は?」


「単純に硬ぇんだよ。おまけにあんま近寄るとガバッと食われちまうしよ。それにあのべっこりへこんだ所に手でも突っ込んだ日にゃああっさり溶かされるとも聞いてんしなぁ。」


表面はかなりでこぼこなもんな。あんなのに体当たりでもされたら大怪我だな。


「で、あいつは何かいい素材でも取れるのか?」


結局はそれに尽きるよな。教えてドロガー。

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