1650話 あの光の下へ

カムイの奴まだかよ……と思っていたら壁に隙間が開いた。出てきた。カムイだ!

うわぁ、血と脂でギトギトじゃん。くっさ。多少ふらついているが……怪我はしてないのか?


「ガウガウ」


怪我はないけどめちゃくちゃ疲れたのね。とりあえず『浄化』

まったくもう。ほぼ魔力が空っぽの私に何てことさせるんだよ。

ん? それは何を咥えてるんだ? ロープ?


「ガウガウ」


へー。悪食が落としたんだ。いや、悪食じゃなくて……しゅだぶちって言ったか? 変な名前。

つーかよく勝てたよな。おお、お前マジで無傷じゃん。さすがカムイだ。

何だか長そうなロープだけど、とりあえず収納しておくか。ドロガーの活躍でロープが思いのほか有用だって知れたもんな。


時にはアレクとの夜の生活に……むふふ、ありだな。


「やっとここともおさらばだぜぇ。魔王は外ん出たらどうすんだ?」


「コーちゃんとアーニャの具合次第かな。まずはコーちゃんと合流して、それからアーニャが目覚めるのを待って……ってとこか。ドロガーはどうすんだ? 好きな場所まで送ってやるぞ?」


「もうちぃーとばかり付き合ってやんぜ。まだまだ暴れる気なんだろぉ?」


私に付き合うってよりはクロミを追っかけるって感じか。まあそれは好きにすればいいことだ。


「暴れるかは分からんけどな。さて、出ようか。外は何月何日なんだろうな。」


太陽を拝むのも久々だよな。人間は長期に渡って太陽光を浴びないと健康に悪いらしいが、私たちの健康に影響はない。今のところではあるが……

迷宮内が明るいことと関係あるんだろうか。それとも一年ぐらい太陽を浴びないと影響が出るんだろうか。さすがに今回は一年も経ってないよな。


「アレク、悪いけどアーニャを頼むね。」


「ええ、もちろんよ。任せておいて。」『浮身』


なんせ魔力が空っぽだからな。わずかに回復した分もカムイへの浄化とロープの収納で使い切ってしまったし。浮身すら使えない。


「はいニンちゃんこれ。一本飲んどく?」


「おお、悪いな。貰うわ。」


「いやこれニンちゃんから預かったやつだし。」


そういえばそうだったか。確かにクタナツで買った魔力ポーションだわ。

ふぅーまずいぃ……もう一本、は要らないな。一割ちょいほど回復すれば充分だ。


「よし、忘れ物はないな? 出るぞ。」


「ええ。」

「ガウガウ」

「ほーい!」

「おう。」

「ああ……」


眩く光る出口へと。くっ、明る過ぎて何も見えん。これで罠とかあったら許さんぞ。




出た……外だ。目の前には山並み。うーん、緑が眩しいねぇ。冬なのに。

背後には岩山か。ここから出てきたんだよな?


どこだよここは……入る時に見た覚えが全然ない。コーちゃんはどこだ!


『ワォオオオォォーーーーーーン!』


カムイの遠吠え、しかも魔声バージョンかよ。まさか、コーちゃんを呼んでくれてるのか?


むっ!? 感じる! 感じるぞ! この魔力! もう永遠に会えないと思っていたのに! 再び感じることができるなんて! あっちからだ!


「コーちゃーん!」


「ピュイーピュイィー!」


薮からガサゴソと現れるや否や飛び上がり私の首に巻きついたコーちゃん!


「コーちゃん!」


そんな私に抱きついてきたアレク。


「ガウガウ!」


そんな私たちに飛びついて地面に押し倒してコーちゃんも私も区別なく舐めまくるカムイ。こいつにしてはかなり珍しい。よっぽど嬉しいんだろうなぁ。私もだよ。

コーちゃんも可愛らしい舌をチロチロと出して私やアレクの頬をつついてくる。それだけでなく頬ずりまで。かわいすぎるぜ。


「精霊様ぁ……また会えてよかったぁ……ぐすん……」

「よかったじゃねぇか。あの神ぁ約束守ったみてぇだな?」

「よかったな……」


そうだよな……あいつは約束を守ったんだよな……

死んだ精霊をも生き返らせることができるなんて、本物の神業だよ……

フェアウェル村のハイエルフ村長が言ってたよな。壊れた心を治すのは死人を生き返らせるぐらい難しいと。つまりあの神はどちらもできるってことか……下っ端なんて言って悪かったな。よし、後日魔力庫の中身が充実したら再び訪れて貢物を渡そう。一階のどこかに置いておけば勝手に吸収するだろう。あいつは素晴らしい神だ。


「ピュイピュイ」


は……? え? どういうこと!?


「カース? コーちゃんは何て言ったの?」


「いや、それがね……あいつに吸い込まれはしたんだけど、死ななかったんだって。吸い込まれてる途中で神に引き寄せられて、閉じ込められてたんだって。酒付きで……」


それは監禁なのか? それとも接待なのか? 一体どうしたことなんだ!?


「ピュイピュイ」


なんと! なるほど! そんなこともあるのか! はぁー……やっぱあいつ下っ端だわ。


「あのね。ここの神から見たら土と豊穣の神デメテーラ様はかなり位が上の神なんだって。で、コーちゃんは大地の精霊だし、そんなデメテーラ様の眷属みたいなものだから……ここの迷宮で死なれたら立場が危うくなるみたい。むしろ悪食に吸い込まれかけたコーちゃんを見て相当焦ったらしいよ。」


神々の世界も楽じゃないねぇ……


「ピュイピュイ」


「でも迷惑料として二つの首輪は没収されたんだって。そんな訳でコーちゃんは生きてたってことだね。」


終わってみればカムイの言う通りだったか。カムイの奴、ここまで読みきってたのか?


「ガウガウ」


さすがに違うのね。でもその可能性は考えてたのか。確信はないから言わなかったと。


あっ! ってことは!?


「アレクの願いにあの神が容易いって言った理由はこれか! あの野郎……手抜きしやがって……」


そりゃあ容易いわな。自分で保護してるものを解放するだけの話なんだから。マッチポンプじゃん。しかもついでに同命の首輪とオリハルコンの首輪まで手に入れやがった。今後またこの迷宮に潜ったら今回私が放出したお宝と合わせて提供されるんだろうか? 宝箱に入ってたりさ。

ちっ、貢物を持って再訪する計画は無期延期だな。下っ端野郎が……


「ピュイピュイ」


え? 私とアレクも少しだけデメテーラ様の祝福を持ってるって? 蟠桃を食べたから……?

あっ! そうだ! ハイエルフ村長が言ってたんだっけ? 蟠桃を食べたら少しだけ祝福が手に入る的なことを。


で、それが何か関係あるの?


「ピュイピュイ」


少し健康になるだけで今回の話とは関係ないのね。思い出しただけと。でもよかったよコーちゃん。二度と会えないかと思ったんだよ?


「ピュイピュイ」


ふふ、コーちゃんも心配してくれてたんだね。嬉しいよ。


「コーちゃんがみんなにまた会えて嬉しいって。」


「私もよ。コーちゃんおかえりなさい。」

「精霊様おかえりー!」

「よかったぜなぁ。」

「よかった……」


よし。ならば今日はコーちゃんとの再会を祝ってどこかで宴会だ。私の魔力庫内には食べ物も酒もないから、どこかの街まで行ってからだな。今の時刻は昼過ぎぐらいか。どこの街に行くのがいいか……


ん? 何かが来る。赤兜どもか? 魔力探査によると三人か。

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