1648話 クロミ、揺れる想い

ふらつく足でどうにか立つドロガー。

床に手をつき、呼吸が荒いクロノミーネ。

勝負あったようだ。


「ドロガーの勝ちね。クロミ、何か言いたいことはある?」


いつの間にやら魔法を解除したアレクサンドリーネが問いかける。


「はぁっ、はっ、ふうぅ……別にないし……ウチの負けだし……」


「だったらドロガーにかけた魔法を解いてあげたら? 苦しそうよ?」


「そーねー。」


『酩酊解除』


「おっ、おお……あー……俺の勝ちか?」


「そうよ。じゃあ後は二人で話し合って。くれぐれもカースを起こさないように。」


『風壁』『消音』


「お、おお……」


未だ呼吸の荒いクロノミーネ。そっとその背中をさするドロガーだった。




「で、さっきのはどういうこった?」


「何が?」


「なんであんなヌルい魔法を使いやがった? 頭がクラクラして立つのも大変ではあったけどよぉ。」


「別に……ヨッちゃんに傷付けずに勝つ気だっただけだし……」


「姿が見えなくなったのはどういうこった?」


「ただの幻術だし。もう少し強くロープを引っ張ってれば気付いたはずだし。ヨッちゃん甘いし!」


「そうかよ……で、俺の勝ちでいいんだな? もう知らねぇぞ?」


「別にいいし。何でも言えば?」


「いいんだな? 俺の言うことを絶対聞けよ?」


「いいし。何でも聞くし。」


「だったら言うぜ。命令は……俺の質問に正直に答えることだ。さあ言え。俺に惚れてるわけでもねぇお前が俺との勝負で手ぇ抜いてどうすんだ? 何がしてぇんだ?」


「ちょっ、ヨッちゃん! 言うこと聞くのは一回だけなのに! そんなの……」


「いいんだよ。俺ぁ俺に惚れてくれねぇ女はいらねぇんだよ。自分に嘘をつくような女もなぁ。」


「別に嘘なんかついてないし……」


「だったら正直に言えや。魔王に惚れてんだろ? 俺よりよっぽどよぉ!」


「ち、違うし、いや、その違わない、くもない、てゆーか……ヨッちゃんのことも、その、悪くないかな……って……」


「ふーん。そいつは本音みてぇだな。嬉しい誤算だぜ。まあいい、よく分かった。そんじゃあ話ぁ終わりだ。あ、そうだ。こいつは勝者の特権じゃねぇ。俺のただのお願いだ。聞くも聞かねぇも好きにしろや。」


「なぁに?」


「俺のことはドロガーと呼べ。ヨッちゃんじゃねぇんだよ。」


「ドロ、ぉガー? ドロ、ガー……うーんちょっと言いにくいけど、まあいいし。呼んであげるし。」


「ありがとよ。お前は本当にいい女だぜ。」


「バカだし。せっかく勝てたのに。何回チャンスを逃す気ぃ?」


「お前が本当に俺に惚れてくれるまで、かぁ? それよりクロミ、ここを出たらどうすんだ? このまま魔王に付いていくんか?」


「もちろんそのつもりだし。ヨッ、ドロガは?」


「ドロガーだっての。まあいいけどよぉ。そりゃあ魔王の行き先次第だぜ。あいつといるとおもしれーからよ。ローランドに帰るんでねぇ限り付いていくぜ?」


「ふーん。じゃあまたしばらく一緒だね。んふふー、よかったねドロガ?」


「ああ、悪くねぇな。お前もさっさと俺に惚れろよ?」


「さあねー。ドロガ次第なんじゃん? せいぜいがんばったらー?」


「そうするぜ。」


そんな二人のやり取りを赤兜は嫌そうな顔をしながらも全部見聞きしていた。

何せ赤兜から見れば、クロノミーネはとっくにドロガーに惹かれているようにしか見えないからだ。なのにドロガーは鈍感にも気付かず、わざわざ遠回りをしているとしか思えない。クロノミーネはクロノミーネで素直になれずに言い訳を用意して欲しがる乙女のようで。

バカな二人だとうんざりしていた。

魔王は魔王で呑気に女の膝枕で寝ているし。帰ったら馴染みの女のところにでも顔を出してみるか……そんなことを考えていた。




















和真かずま……


和真……


見つけた……


ついに……


和真……


やっと……会えた……












「おはよ……」


「カース。大丈夫? まだ寝てなくていいの?」


「僕はどのぐらい寝てたのかな?」


「一時間半ぐらいかしら。カースにしてはだいぶ早いわね。」


「いやー、それがなぜかすっきり目が覚めてしまってさ。カムイは……まだみたいだね。」


なんだかすごく寝起きが心地いいんだよな。魔力なんかほとんど回復してないのに疲れだけは吹っ飛んだ気分だ。アレクの膝枕のおかげかな?


「あー! ニンちゃん起きたのぉー! 気分どーお?」


「おう、おはよ。いい気分かな。なんだかすっきりしてる。クロミこそどうした? ニヤニヤして、何かいいことでもあったか?」


「べっ、別に! ニンちゃんが起きたから嬉しいだけだし!」


「カース、クロミはドロガーといい感じみたいよ。」


なんと。それはいいことだ。ドロガーの想いがついに通じたのか?


「ちょっと金ちゃん! それ違うしー! ウチ別にドロガのことなんか……どうでも、よくはないけど……」


おやおやぁ? クロミの顔が乙女モードになってるじゃないか。分かった。これはアレだ。

今まで私に言い寄ってきてたのは憧れの先輩、もしくは先生に対するミーハー気分。つまり恋に恋する状態だな。

それがドロガーを意識することで少し大人の階段を登ったってとこか。ドロガーやるじゃん。


それはそうとカムイはまだなのか。一時間半もあの化け物と戦い続けてるってことだよな……

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