1647話 ラストバトル! ドロガー VS クロミ

カースが倒れ込んだ後、一行には緊迫した空気が流れることもなく意外と落ち着いていた。


「はぁ……終わったのね……これで。」


「そーねー。後は狼殿が戻ってくれば終ーわりーだし。」


「クロミ、ありがとう。この子のために貴重な祝福を譲ってくれて……」


「にゃははー。まーねー。ニンちゃんのお気に入りだし? 早く元気になるといーねー。」


アーニャはアレクサンドリーネによって敷かれたコートの上で横になっている。カースはアレクサンドリーネの膝枕で安眠している。


「それにしても驚いたぜぇ。クロミぁあんな口ぃきけたんだなぁ?」


「当たり前だし! 相手は神様だし! そりゃあちっと下っ端っぽかったけどぉ! それでもウチらより何十倍も魔力を持つ怖ぁーい相手だし! なのにあんな喋り方するニンちゃん達の方がおかしいし!」


「俺も直前までぁビビってたんだけどよぉ。魔王を見てたらビビっても意味ねーって思ってよ。そんで落ち着いて願いを言えたぜぇ。赤兜も良かったじゃねぇか。お前の歳で魔力が三割も増えるってただ事じゃねぇぜ?」


「ああ……同行してよかったと思う……」


「二人ともせっかくニンちゃんから貰った金剛石まで捧げちゃったしー。もったいなーい。」


「へっ、俺にぁもう後がねぇからよ。おおかたもう三、四年もすりゃあ引退だぁ。その前にでっけぇ勲章ぉ手に入れたんだ。金剛石なんざぁまたここで獲ればいいのさ。なぁ赤兜ぉ?」


「ああ……」


「さてと……そんじゃあ狼が帰ってくる前にカタぁつけとくかよ。なあクロミぃ?」


そう言って立ち上がったドロガー。


「なーにぃー?」


「決まってんだろ? 俺の女になるか、ならねぇかだ。どうやら魔王の両手は塞がりそうだからよぉ?」


ドロガーの中でアーニャの存在意義は決まっているようだ。


「ふーん。そんなら一回だけチャンスあげるし。ヨッちゃんのルールで勝負しよっか。そんで負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くの。もちろんただ聞くだけじゃなくってきっちり叶えるって意味だしー。受ける?」


「バカ! それじゃあ俺が勝つに決まってんだろぉ! 何だそりゃあ! 俺を舐めてんのか!?」


「いーやー。ヨッちゃんが活躍したからチャンスをあげるってだけー。どーする? 自信ないのー?」


「いいぜぇ。そんならやってやるよ。今度こそ容赦しねぇぜ? 体力も魔力も消耗具合は似たようなもんだろうしよぉ。そんじゃこいつで勝負だぁ。」


そう言ってドロガーが取り出したのはロープだった。


「どうすんのー?」


「こいつを手足のどちらかに結ぶんだ。ちなみに俺ぁ左手にすんぜ。」


「ふーん。面白そうだし。じゃあウチも左手にするしー。」


「後は何でもアリだぁ。魔法でも武器でも好きに使えや。そんで先に地面に足の裏以外を着けた方の負けだ。おっと、ロープを切るような真似もだめだぜ。これでいいか?」


「いいよー。でもそれってどうなっても知んないよー?」


「いいんだよ。そんじゃあ俺が勝ったら何でも言うこと聞いてもらうぜ? 女神が証人だぁ。いいなぁ女神よぉ!?」


「いいわよ。」


「ウチもいいよー。じゃあ金ちゃん開始の合図してー?」


「いいけどもっとあっちでやってくれない? カースが目を覚ますじゃない。」


しぶしぶと場所を移動するドロガー。そのロープに引かれるように動くクロミ。


「こんだけ離れたらいいだろー!? 合図してくれや!」


「双方構え! 始め!」『風壁』『消音』


アレクサンドリーネは合図を出すとさっさと空間を仕切り、騒音がしないよう魔法を使った。ドロガー必死の大勝負も彼女の興味を惹くものではない。


『葉ざ「遅ぇ!」


クロノミーネは魔法を使おうとしたものの、ドロガーがぴしっと左手を引くと体勢が崩れ、あらぬ方向へ放ってしまった。

しかも、ドロガーがささっとロープを波打たせと、まるで生きているかのようにクロノミーネの首へと巻き付いた。


「終わりだ。負けを認めるなら膝を落とせや。でないと死ぬぞ?」


左手と首をまとめて拘束され声すら出せないクロノミーネ。ドロガーが手を緩めなければこのまま窒息死してしまうだろう。


しかし、その時だった。クロノミーネの姿がふっと消えたのは。ロープは床に落ち、何の手応えもないように感じる。


ロープを切るのは禁止だが、ロープを外すことは禁止していなかった。そもそも片手で解けるような簡単な結び方ではないのだから。ドロガーは己の迂闊さを悔やみながらも油断なく周囲を警戒していた、が……突如ロープが引かれバランスを崩す。転げそうになりながらも、どうにか耐えた……ところに『酩酊めいてい


「なっ!? おっ、あばっ……くっ……」


足元がおぼつかなくなったドロガー。手にも力が入らないようだ。


「ゲホッ、ゲッ、オボッ! はあっ、はあはぁ……」


しかし、激しく咳き込んで床に手をついたのはクロノミーネだった。

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