1644話 五十階のボス、二回戦

いくら見た目は完全に元通りだからって魔力までは違うだろ。分かってんだぞ? これまで使った魔力はドロガーから吸い取った魔力じゃあ全然足りないよなぁ。特に、元通りになる魔法だ。あれは相当の魔力を消費したようだし。


さぁて、二回戦といくか。


『金操』


『壁ヨ』


無駄無駄ぁ! 壊れるまで何度でもぶつけてやるよ。ミスリルギロチンは痛いぜぇ?

ついでに『徹甲弾』

ほぉーら壊れた。


『榴弾』


移身ウツセミ


分かってんだよ。防ぎ切れない攻撃をされると転移で逃げるんだろ? さあどこだ?


「クロミ! 油断すんなよ!」


「分かってるし!」


ほぉら出た! 私の後ろ! バレバレなんだよ!

私を触ろうとするその汚ぇ手を……ぶっ叩く! もう杖もないしな。


『風ヨ』


遅ぇ! ほぉら折れた。脆い腕しやがって。おまけだ!


『火球』


『火ヨ』


至近距離で魔法の撃ち合い。勝ったのは、もちろん私だ。


奴の火の魔法を突き抜けて、いったぜ直撃!

私の方も少し髪が焦げたか。


『復元』


ふぅん。まだやる気かよ。ほぼ灰になったくせに復活するとはね。だが、見えたぞ。

さっきドロガーに頭を真っ二つにされても、私に胴体を真っ二つにされても平気だった理由がな。


『風斬』

『金操』


終わりだ。左胸あたりにこっそりと埋まっていた魔石。さっきはどうにか魔石は無傷だったわけだな。

風斬で切れ目を入れて金操で抜きとってやった。久々だな、魔石のぶっこ抜き。ゴーレム系の魔物にはかなり有効だが、リッチーにも効くんだな。


『カ、エ、セ……』


へー、喋れるんだ。まあブツブツと魔法唱えてたしね。


「かえしてやるよ。」


『火柱』


天に帰りな。いや、地獄かな?


終わりだ。跡形もない。いや、まだ魔石が残ってたな。


『火球』


これでいい。少々もったいない気もするけどね。

さあ、まだボスはいるのか? こいつで終わりか?


おっと『浮身』

危ない危ない。床の土がいきなり消えやがったじゃないか。リッチーが完全に消えたってことだな。


おっ、これはあいつが着てた黒いローブか。呪われてはなさそうだが……リッチーが着てたローブなんていらないなぁ……


「クロミ、いる?」


「うーん、村長むらおさへのお土産にもらっとこっかなー。ニンちゃんありがとー。」


ハイエルフ村長か。意外に似合うかもね。


「カース、いよいよね。」


「うん。いよいよだね。あそこに入るんだね。」


ボス部屋の奥に、今までとは違う豪華な扉が現れた。あそこに入れってことか。


「うう……やったんかよ魔王ぉ……」


「おう。やったぞ。気分はどうだ?」


「最悪だぜ……ほんの少し手が触れた程度だってのに……一瞬で全魔力吸い取りやがったぜ……」


「魔力ポーション飲むか?」


「いや、いい……せっかくクロミが魔力を入れてくれたんだからよぉ……」


へー。クロミ親切じゃん。


「へへーん。せっかくヨッちゃんが決めたかと思ったのにねー。惜しかったし。」


「クロミがあいつの腕ぇぶち切ってくれなけりゃあ命まで吸われてたかもしんねーぜ。ありがとなクロミ。」


「しぶといボスだったしー。まあ赤ちゃんが暴れ始めた時はけっこうヤバかったしー。ヨッちゃんがささっと縛ってくれて助かったしー。」


あー、リッチーが何か妙な魔法を使った時か。「くるえ」とか言ってたっけ。まあそのせいで隙ができてたしね。所詮は迷宮のボス。ろくに実戦経験もないんだろ。

きっと本物のリッチーとは比べものにならないんだろうな。例えば勇者の仲間の一人『七色の魔法使いイタヤ・バーバレイ』なんかがリッチーになった日には……めちゃくちゃヤバそうだな。


「カズマカズマカズマカズマぁー!」


アーニャも起きたか。


「アーニャは眠らせておいたわ。あいつの魔法で赤兜と同じ時に暴れ出したから。」


「さすがアレク。いい判断だね。」


思うにあいつが使った妙な魔法は私たち全員を対象としたんだろうな。だが、それが効いたのがアーニャと赤兜だけだったと。赤兜にしてもムラサキメタリックの鎧を脱ぎさえしなければ効かなかったんだろうなぁ。ついてない奴。


「よし。それじゃあ行こうか。」


「ええ。コーちゃんのことは私がお願いしてみるから、カースはアーニャのことに集中してね。」


「アレク……うん! ありがとね! コーちゃんを……頼むね!」


実は少し迷ってたんだよな。アーニャのことを頼むか、コーちゃんのことを頼むか……

アーニャのためにここに入ったんだが、コーちゃんを犠牲にしてまでやる価値があったのか……それならコーちゃんを返せと頼むのもアリか……なんて思ってたら。さすがアレク……自分の望みを無視してコーちゃんのことを考えてくれるだなんて……

惚れ直してしまうぜ。アレク大好き!


ほう。近くで見るとますます豪華な扉だな。迷宮の床や壁は全然化粧っ気がなかったのに。ここだけ精緻な彫刻を施してやがる。この扉外して持って帰ろうかな。領都の自宅にぴったりな気がする。


私の手が扉に触れると、音もなく開いた。そして奥から光が……くっ、めちゃくちゃ眩しい……




『よくここまで来たな。人間ども』


シューホー大魔洞の神か。さほど広くない密室に響く声は木と植物の神トールカンの声より若々しく、毒と腐敗の神サマニエルより明るい。

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