1640話 五十階のボスは……!?

地下五十階は、いきなり直線だった。

こんなのまっすぐ前以外に行きようがない。

まあいい、とりあえず慎重に進むだけだ。頼むぞカムイ。横になってていいから何か妙なことがあったら教えてくれよ?


「ガウガウ」


「クロミも頼むな。何か気付いたらすぐ知らせてくれよ?」


「はーい。てか何もなくない? 全然何の魔力も感じないし。狼殿もそう思わなーい?」


「ガウガウ」


「全然怪しいところがないってさ。まあいいよ。それでも慎重に進むことに変わりはないからさ。」


飛ぶスピードは私が走るよりやや速い程度。なんと言っても最終階だろうからな。用心するに越したことはない。


と思ってたらもうボス部屋かよ。近すぎるぞ? まだ二十分も飛んでないのに。


「どうすんだ魔王? もう入んのか?」


「いや、ここまで罠も魔物も現れなかったことだし休憩しよう。とりあえず食事だな。」


「それがいー! ウチもぉー疲れたしー!」


「じゃあ用意するわね。赤兜、手伝いなさい。」


「ああ……」


ならばその間に。


「クロミ、一緒にカムイを洗ってやろうぜ。カムイはお前の恩人だからな。」


「もちろんだし! しっかり洗ってあげるし!」


「待てや魔王。そいつは俺とクロミがやるぜ。お前は休んでな。」


私はそんなに疲れてないんだけどな。まあいいけど。


「分かった。終わったらこれでブラッシングな。」


「ガウガウ」


分かってるって。湯船も出しておくさ。そうなると私の役目は見張りだな。今まで魔物が現れなかったからって今からも現れないとは限らないからな。アーニャのお守りをしながら見張ろう。




「カース、お待たせ。赤兜が見張りをするからカースは食べて。」


「うん。ありがとね。いただきます。」


カムイたちはまだ手洗い中か。いや、終わってからの湯船タイムか。まあ放っておいていいだろう。


それにしても……旨い……


俵型の塩味おむすび、限りなくヒイズル風に寄せて味付けられた味噌まいそ汁。豊穣祭でゲットした様々な漬物。

旨いなぁ……すごく旨い……


「おいしいよ。すごくおいしい。やっぱりアレクの料理は最高だね。」


「もう、カースったら。ほとんど何もしてないわよ。少しは赤兜の意見も取り入れたかしら。」


「そうなんだ。でもアレクの料理だと思うとますます美味しくなるよ。お腹が破裂するまで食べたいけど、ここまでにしておくよ。ありがとね。ご馳走様。」


「ええ、決戦前だものね。外に出たら今度は豪華な料理を作るわ。楽しみにしてて。」


「うん、楽しみだよ。 さあ、アレク。食べたなら寝て。ここで。」


「う、うん……ありがとう。膝、借りるわね。」


「おやすみ。」


『快眠』


ついでだからアーニャも寝かせておいた。


「赤兜、見張りはもういいぞ。お前も食べな。」


「ああ……」


のそりとおむすびを口に運ぶ赤兜。戦ってる時は鋭い動きをするくせに、普段はのろいな。兵士ってのは早飯早ナニ芸のうちじゃないのか?


「魔王……俺は「お待たせー! ウチも食べるしー!」


赤兜が何か言いかけたところでクロミが戻ってきた。ドロガーは……ああ、ブラッシング中か。


「で、どうした? 話なら聞いてやるぞ?」


「いや、いい……大した話ではない……」


話せと命令するべきだったかな。まあ別にどうでもいいけど。


「いっただっきー!」


えらく旨そうな顔して食べるじゃないか。アレクが作ったんだから当然だけど。


「ニンちゃんウチにも膝枕ぁー!」


「悪いな。膝が空いてない。ドロガーに任せるさ。」


「もぉーー! ニンちゃんのバカー!」


だってアレクとアーニャが寝てるんだもん。




ドロガーもブラッシングが終わり戻ってきた。時間差はあったが、これで全員が休めるな。


「全員寝ていい。俺が見張っておくから。」


「悪ぃな。頼むぜ魔王。」


「おやすみー!」


「悪いな……」


全員雑魚寝だ。さすがのクロミも水魔法のベッドを作る余裕はないか。




全員が寝てしまい、錬魔循環すら行えないためかなり暇を持て余すかと思えば……そうでもない。

アレクの寝顔。正確にはその横顔だが見てるだけで飽きない。ほんと……整った顔してるよなぁ。誰だよ美人は三日で飽きるって言った奴は。


思えば……もし生まれ変わって再び現代日本に生を受けたとする。そして小学校でアレクに出会えたとする……

そこまでだな。卒業までにギリギリ名前を覚えてもらえるかどうかのポジションになりそうだ。あ、いや、記憶力抜群のアレクなんだから早々に名前は覚えてもらえるだろうが、何かの当番でもない限り会話をすることすらないだろう。顔面偏差値ってのは無情だからな。

クタナツに、あの両親のもとに生まれた私はかなり幸運だったようだ。




「ふぅーう……あーだりぃ……」


「おう、起きたか。何か飲むか?」


一番早起きはドロガーか。


「冷酒のポーション割りなんてどうよ? あるか?」


「そりゃあるけどさ。絶対まずいぞ?」


「冗談に決まってんだろ。寝起きは水が一番だぜ。ふぃー……」


一人が起きると次々にみんなが起き出す。意外とみんな敏感なのね。それでこそ冒険者……違うか。




ほどなくして全員が目を覚ました。


「じゃあ行こうか。いよいよ最後のボスだ。基本的には僕が戦うからアレクたちは端に寄っておいてね。」


「ええ、カースに任せるわ。」


「こいつぁ楽でいいや。」


では、行くぜ。五十階のボス部屋。

その扉を……開けた。




広さはいつも通り。百メイル四方と見える。そして扉が閉まると、ボスが姿を見せた。今まで通りではないな……


ほう。やや大きいレッドキャップゴブリンか。見た感じアンデッドではない。


『グギャギャギャ『狙撃スナイプ』ギャッ!?』


終わりだ。開幕で魔声ぶちかまして先制したつもりだろうが、そんなしょぼい魔声が効くわけがない。


落としたのは火の魔石。大きいだけの上級ゴブリンにしてはいい物落とすじゃん。弱くてもボスってことか。


「魔石を落としたってことはぁー? これでボス終っわりー?」


「終わりだろうな。ほら、あっちの扉が開いた。」


なんともあっけない終わり方だったが、これまでがハードだった分、これでちょうどいいだろ。ラスボスが雑魚ってゲームもたぶんあるよな?


「まだ行くんじゃねぇぞ。どんな罠があるか分かったもんじゃねえからよぉ。おう赤兜ぉ、ムラサキに換装してちぃと行ってみろや。」


「ああ……」


無敵の鎧は便利だね。




出口の前に集まり赤兜を見送る……までもなく扉の向こうがよく見える。

そこには先ほどまでと同じような通路がどこまでも長く伸びていた。

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