1636話 先行する赤兜、追随するアレクサンドリーネ
遠見を使いながら時々アレクたちの様子を見ていたが、何やら慌てているようだ。急に加速したようだし。
そしてついに遠見でも見えなくなった。このやたら長い直線は一体何キロルあるんだろう?
「カズマカズマカズマカズマ!」
「どうし、バカ! やめろ!」
ふう、伝わったかな。アーニャの奴、いきなり服を脱ごうとしやがった。心は壊れても体は覚えているってことか……あそこにいた女どもは、みんなそんな感じだったよな……男を見れば股を開き、壊れた言葉を発するだけ。むしろアーニャがここまでまともになったことがすごいんだろうな。アレクのおかげだ。
「カズマカズマ!」
服を脱ぐことはやめたが、代わりに私の服を脱がそうとしてくる。それもいきなり下から。ベルトを外そうとしてきやがった。
「やめろ。分かるか? やめろ。」
「カズマカズマ!」
言えばちゃんとやめるんだよな。こちらの言葉が通じるのは助かる。これもアレクの薫陶だろうか。
はぁ……
赤兜ことテンポザ・ゾエマは戸惑っていた。数日前まで天王肝煎りの任務、迷宮探索でそれなりの深層までやってきていたのに。確かにずっと同じ階で燻ってはいたが……
それが突然あっさり全滅するわ冒険者に助けられるわ。おまけに、問題の階を通過することができた代わりに冒険者に絶対服従の契約魔法をかけられて……半ば夢見心地でここまでやってきていた。そのせいか体は自分の意思とは無関係なようによく動き、強大な魔物にも臆せず立ち向かうことができた。
名前を聞かれることも呼ばれることもなかったが赤兜、赤兜と呼ばれるのは不思議と不快でもなかった。
そしてとうとう四十九階。話によれば五十階で最後だそうだが、ここでもまた厄介な罠が立ち塞がっている。何がどうなっているのかさっぱり分からないが、目にも止まらぬ動きを見せる白い狼ですら眠りこけている。自分はその先を目指してひたすら歩く。戸惑いながらも。
黒い肌をした美しい女なら敏感に感じ取っているであろう魔力を、今の自分は全く感じ取れない。ムラサキメタリックの鎧を纏っている間は自身の魔力ですら感知できない。だから通常迷宮内を歩く時は赤い鎧を纏っている。このような迷宮において他者の魔力を感じ取れないのは致命的だからだ。
そうして一体どれほどの時間を歩いたことだろう。体感では一時間を超えたぐらいだろうか。しかし、このやたら長い道は一向に変化を見せない。
本来なら途中で眠ってしまうのだからその先を長くしてもさして意味ないんじゃないか? そのようなことも考えていた。
一方、途中で待つアレクサンドリーネたちは……
「ガウガウ」
「カムイ、起きたのね。何が起きたか分かる?」
「ガウゥゥ」
首を横に振るカムイ。
「つまり、知らない間に眠らされたってこと?」
「ガウ」
今度は縦に振った。
「狼殿を気付かれずに眠らせるって相当ヤバいし! やっぱ魔法防御をガチガチに固めていくっかないし!」
「魔法防御かよ……俺ぁ無理だぜ? 水壁や風壁じゃあるまいしよぉ?」
「カースの自動防御なら……クロミは使える?」
「自動防御ぉ? そりゃモチ使えるけどぉー。けどねぇ……あれって魔力をめちゃくちゃ食うし。ほぉーんとニンちゃん意味分かんないし。」
「じゃあまずは私が行くわ。」
『魔力障壁』
「おっ、金ちゃんやっるぅー。普通に使えるんじゃーん。」
「ガウガウ」
カムイはアレクサンドリーネが張った障壁内に入りたそうにしている。
「カムイも行くのね? 心強いわ。」
そうしてカムイを障壁内に迎え入れ、一歩ずつ前進していった。
「クロミよぉ、女神の奴ぁ大丈夫なんか? あの魔法……効くのかぁ?」
「たぶん効くし。あれって魔法攻撃なら全部防げるやつだしねー。まあその分魔力の消費が酷いけどー。でも制御が面倒な分、ニンちゃんの自動防御ほどじゃないからまあいいんじゃない?」
「ふーん。それにしても次から次へ色んな罠があるもんだよなぁ……適当に強ぇ魔物ぉ用意しときゃあいいだろうによぉ……」
「そーねー。たぶんウチらを見て楽しんでるんじゃん? こーゆー所の神様って暇そーだし。」
「そ、そうなんか……マジかよ……」
「知んなーい。それよりさぁ、こうして待ってても暇だしウチらも行こーよ。金ちゃんがあの魔法なら通れるって証明してくれたし。」
「あ? クロミも使えるんか?」
「あったり前だしー。使うよ。来て来て」
「お、おお……」
『魔力障壁』
「そんじゃ行っくよー。どうせ行き着くとこまで行ったらボスでも居るんじゃん? ニンちゃんだって待たせてるし、さっさと終わらせよ?」
「お、おお……」
二人はやや駆け足で、たちまちアレクサンドリーネに追いついた。そのまま進めば先行している赤兜にも追いつけるだろう。
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