1635話 眠るカムイ

うーん、何もせずに待つのってやっぱ退屈だよな。これがアレクならイチャイチャもするのだが、アーニャではなぁ。


「なあ、アーニャ。お前の本当の名前は何て言うんだ?」


「カズマ!」


「お前の生まれた街はどこだ?」


「カズマ!」


「私のことを覚えているのか?」


「カズマ!」


無理だよなぁ……

焦点の合わない目をキラキラさせながら私を見る。


『うちの犬、あれからどうなった?』


「カズマ!」


『両親は……そりゃあ悲しんだよな……』


「カズマ!」


『先に逝って悪かった……』


「カズマ!」


日本語で話しかけてみても返事はいつも同じ。私は何をやってるんだか……

返事がくるだけいいかな……






「女神よぉ、よくこんなの気付いたなぁ。」


「何かあると疑いながら見てたもの。ただカースだってこのまま進んでたらすぐ気付いたはずよ。」


「そりゃまあそうだろうがよぉ……それじゃあ遅いんじゃねぇんか?」


「そうかも知れないわ。今回の場合はカムイが泥をかぶってくれそうな気もするけど……」


「そうでなけりゃあ俺らか? つまり何か? 俺らぁ、魔王のための……捨て石か?」


「さあ、どうかしら? 私はカースのためなら命ぐらい懸けられるわよ。あなたはどうなの?」


「バカか!? できるわけねぇだろ! 俺が命ぃ懸けるとすりゃあ……すりゃあ、そ、その……ク、クロミのためなら……」


「ヨッちゃんのばーか!」


早歩きをしながらも、それなりの会話をしながらも警戒を怠らない一行。


『遠見』


魔法を使い遥か先を見たアレクサンドリーネ。


「カムイが倒れてるわ……」


「何だとぉ!?」


「狼殿が!?」


「急ぐわよ! クロミ、風の魔法使ってくれる?」


「分かったし! てか飛ぶし!」


『浮身』

『風操』


クロノミーネの魔法で四人はわずかに浮き、立ったままの姿勢で前方へ滑るように飛んでいく。




「ここで様子見するし!」


カムイまでもう二十メイルという辺りでクロノミーネは魔法を解いた。


「別段妙な魔力は感じないわね……」


「ウチも……」


アレクサンドリーネはおろかクロノミーネでさえ感知できない何かが起こっているのだろうか。


「おう赤兜、紫の鎧に換装して行ってみろや。そんで狼を叩きおこせ。場合によっちゃあポーション飲ませてやんな。」


「ああ……」


ムラサキメタリックの鎧ならばあらゆる魔力の干渉を防ぐはず。ドロガーでなくともそう考えただろう。容易く行けと言い放てるかどうかはともかく。


「はいこれ。」


アレクサンドリーネがポーションを手渡した。


「ああ……」


罠を警戒しながら慎重に進む赤兜。


ほどなくしてカムイのもとへ辿り着いた。まずは揺り起こそうとしてみるが……目を覚ます気配はない。外傷がないかチェックしてみるが、それも見当たらない。

苦しそうな表情も見えず、ただ単に眠っているだけにしか見えない。やむなく元の位置に戻ろうとカムイを背負った赤兜。かなり重そうだ。




「よく眠ってやがる。分かるかクロミ?」


「分かんないし。どう見ても寝てるだけだし。とりあえず起こしてみるし。」


目覚めざめ


しかしカムイが目覚める気配はない。


「起きないわね。私が覚醒を使ってもいいけど……でもこれ……」


「そうねー。やめた方がいいしー。ちょっとこれ普通じゃないし。」


「そんじゃどうすんだ? 狼が見てる夢でも覗いてみるってか?」


「いや無理だしー。狼殿って魔力はニンちゃんに比べたら全然だけどー、心の強さが人間ぶっちぎってるしー。そんなところに入ったらウチなんかすーぐ飲み込まれるしー。」


「つまり何も分からない状態でこの先を攻略しなくちゃいけないってことね。赤兜は近寄っても無事だったことだし魔法防御が重要みたいね。」


「そうねー。狼殿をあっさり眠らせたみたいだし相当しっかり防御しないとねー。じゃあとりあえず赤ちゃん行ってみる?」


「ああ……」


今度は一人で前進する赤兜。何か糸口を見つけることはできるのだろうか?




「つーかよぉ? パーティーの中で一番魔力が高え奴を来させねぇっつーことはよぉ。魔力が高けりゃあここぁ突破できるってことだぜなぁ?」


「おそらくね。それにたぶん問題はその先だわ。ここでかなりの魔力を消費させられるはずだし。その後に現れるボスなり魔物なり相当に厄介なはずね。」


「そーねー。とりあえず赤ちゃんが帰ってくるのを待とーかー。今のところ無事っぽいし。」


赤兜の背はすでに点になっている。

カムイは気持ちよさそうに寝息をたてている。


三ヶ所に分断された一行はこの四十九階を無事に突破できるのだろうか。

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