1634話 奇妙な仕掛け

一日余りの休息を終え、再び四十九階の攻略を開始する。


「ガウガウ」


何? かなり間を空けて付いてこいって? よく分からないが何だか嫌な予感がする?

カムイの嫌な予感って、それほぼ予言じゃん。しかも先を行くお前が危ないって意味だろ?


「ガウガウ」


自分は平気だって? まあ……そりゃそうだろうけどさ。


ならカムイ、約束だ。命が危なくなるような真似するなよ?


「ガウッガガウ」


魔力を消費しない、ほぼ個人魔法による契約だ。お前がその気になれば容易く破れるだろ? だから頼むぜカムイ。無茶するんじゃないぞ?


「ガウガウ」


そしてカムイは私たちのだいぶ先へと進んでいった。


「いいのカース? 間隔が広すぎるような気がするわよ?」


「よくはないけどね。カムイがこうしろって言うんだよ。嫌な予感がするんだってさ。」


「そんな……」


「たぶんカムイからすれば自分一人なら問題ないけど、そこに僕たちがいたら邪魔になる何か……そんな予感らしいんだよね。」


「そう……」


所詮は予感だから外れてくれればいいんだけどなぁ……


通路は長い直線。魔物は現れないし罠もない。遠くにカムイの尻尾を見ながら進んでいる。カムイも特に大きな動きはない。いつも通り悠然と前進しているようだ。




それにしても長い直線だな……距離感は狂いまくりだ。私たちとカムイはいったい何メイル離れているんだ?


「あら? ね、ねえカース? 道幅が狭くなってないかしら?」


「そう?」


道幅は目算で十メイル。十分広いが……


「カース、ちょっと止めてくれる?」


「ん? どうしたの?」


と言いつつもミスリルボードを止める。


『計測』


おっ、アレクの魔法か。私が使えないやつだ。


「九メイルと四十センチね。ちょっと気になるわ。カース、私がいいと言うまで戻ってみてくれる? ゆっくりね。」


「わ、分かった。」


アレクが言うなら何かあるのだろう。ゆっくりとボードを後退させる。カムイはどんどん先に行ってしまう。


「ここ! 止まって。」


『計測』


「なるほどね。ここの幅は九メイル四十一センチ。ちなみにさっきの場所から十メイルほど戻ったの。」


ん?


「つまり、先に行くほど狭くなってるってこと?」


「そのようね。でもおかしいわ。先をよく見て。」


よく? とりあえず……


『遠見』


「カムイの大きさからすると、あれだけ両側に幅があるっておかしくないかしら?」


「言われてみれば……」


長い直線、おまけに装飾なんかまるでない迷宮の壁に床。遠近感がさっぱり分からない。でも、先の方に行けば行くほど狭くなるのならカムイの両サイドはもっと狭くなっているはず……

なのに、見た目は何も変わっていない。どういうことだ?


「少し確かめてみたいことがあるわ。カースはここで待ってて。赤兜、来なさい。」


「わ、分かった。」


「ああ……」


な、なぜアレクは!? 私ではなく赤兜を!?


ボードから降りた二人は来た道を戻っていった……

そして時々立ち止まっては魔法を使っている。赤兜は何やら長い棒を持たされて迷宮の壁から壁を動いている。


そして数分後、アレクだけが戻ってきた。


「少し分かった気がするわ。今度はカース一人で赤兜のところに行って。そしてあいつが持ってる計測棒で道幅を測ってみてくれる?」


「え、いいけどアレクがもう測ったんじゃないの?」


「いいからいいから。ね? カース。」


「分かった。いってくるね。」


アレクがそう言うなら意味があるに違いない。喜んでやるとも。


「これを地面に置いて使え……」


なるほどね。よく見ればこれ定規か。二メイルを測ることができるだけの。定規ってよりいわゆるバカ棒ってわけだな。どれどれ……


だいたい九メイル半ってとこかな。さっきより広いのか? やはり先に行けば行くほど狭くなる、のか?




「測ってきたよ。九メイル半ぐらいだね。」


「ありがとうカース。これでおぼろげにだけど見えてきたわ。」


さすがアレク。私には何がどうなっているのかさっぱり分からないってのに。


「じゃあもう少し試してみるわ。カース、そこで待っててくれる?」


「分かった。」


私以外の全員がミスリルボードから降りて先に歩いて進んでいく。


そして途中途中で立ち止まってアレクは道幅を測っているようだ。アレクには一体何が見えているんだ?




「カースぅー! いいわよー! 来てー!」


アレクが大声で呼ぶ。意外とアレクが大声を出すのって珍しいんだよな。かわいい。


ボードでひとっ飛びだ。


「うわぁーホントだしー。」


「マジかよ……」


クロミとドロガーは何やら納得しているが。


「じゃあカース、説明するわね。おそらくだけどここの道幅はパーティー内で最も魔力が高い者に反応するみたいなの。」


「反応?」


この場合は私に反応してるってことか? 普通は感知できない私の魔力を感じ取るとは、迷宮やるじゃん。


「ええ。ある場所を起点に、そこを超えたら十メイルにつき一センチ狭くなるみたいね。カースがいる場所だけが。」


なん、だと……?


「え? どういうこと?」


「さっき測ってもらったじゃない? 私が測った時はいずれも十メイルだったわ。でもカースが測った時は九メイル半。同じ場所なのによ?」


同じ場所……ああ、だから赤兜は目印代わりに立たされてたってことか。いやいやそんなことはどうでもいい。同じ場所を測ったのに幅が違う? 意味が分からん……

分からんが事実は事実として受け止めないと迷宮内では命取りだからな。


「分かった。そうなると、行ける所までは全員で行くとして……そこから先はどうしよう?」


その計算だと、いずれ私は通れなくなってしまうってことだよな? ならば私が残ればいいのだが……


「たぶんだけど、だからカムイは先に行ったのね。この先にある何かを求めて。呪いとも言えるここの仕掛けを解除する何かを。」


「なるほど……」


やるなぁ。さすがカムイ。私よりよっぽど先が見えてるじゃん。実際は見えてるっていうか感じてるってとこか?


「じゃあカースはここで待ってて。もう少し先に移動してもいいのかも知れないけど、用心のためにね。私たちはカムイの後を追うから。」


「分かった。くれぐれも気をつけてね。あ、それならアーニャは置いていった方がよくない? 歩くんだよね?」


「それもそうね。しばらくカースに預けるわ。アーニャ、カースに迷惑かけるんじゃないわよ?」


「カズマカズマ!」


一応アレクの言葉が伝わってるような気もする。いつも通り私の左腕にしがみついてきたけど。


「じゃあアレク。慎重にね。頼むから無茶しないでね。」


「ええ、待ってて。」


そう言って四人はやや早歩きで前進していった。それにしても変な罠だなぁ。巧妙なのかガバガバなのかよく分からない。マジでここの神は何を考えてるんだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る