1632話 四十八階、ボス戦
ボス部屋の広さはいつも通りだが、戦闘に使えるエリアは前の階と同じく二十五メイル四方のようだ。変だな。もっと狭くなると思ったのに。
そこに前回同様、上からブラッディオーガロードが降ってきた。あ、なるほどね。高さが半分ぐらいになったってことか。それはこっちに有利だな。五十メイルの高さが半分になったところで今の私たちには何の影響もない。逆にやたらデカいこいつは動きにくいんじゃないか? 体高が十五メイルはあるからな。つーかデカすぎ。私たちの逃げ場もないじゃん!
「グゴオオオオォォオオオーー!」
くそうるせぇな。魔声でもないくせに。アーニャが腰を抜かしたか……大音声だったもんな。
しかしそんな余裕かましてるから……カムイに足首をぶち斬られるんだよ。アキレス腱どころか足首を半分近くざっくりと。学習しねぇなぁ……別個体なら当たり前か。
「隅に避けろよ!」
言うまでもないが一応ね。二十五メイル四方しかない部屋に十五メイルのオーガが倒れてくるんだからな。しかも手をバタつかせて。危険すぎるだろ……だが、これで勝てる!
すかさず背中を斬りながら頭方向へ走るカムイ。
真正面からオーガの頭を狙う赤兜。
足元でロープをかけるチャンスを窺うドロガー。
そんなドロガーを補佐するべく足を隔てた反対側で待機する私。直径が二メイルどころじゃない太っとい足なんだからさ。どう考えても一人でロープをかけるのなんて無理だからな。
そうこうしていると、赤兜がトドメを刺したらしい。脳天に深々とムラサキメタリックの剣で。すげぇなあいつ。暴れるオーガの二本角をきっちり避けきって。ああ、もちろんカムイが首に痛撃を与えたからってこともあるよな。
「よしドロガー! ここを通せ!」
不動を使い、テコの要領でクソ重たいオーガの足に空間を作る。これを二回。
どうにか下を通したら上からドロガーに投げ返す。
「魔王ぉ! そっちの足を押してくれぇ!」
「おう!」
オーガの足が閉じるように押す。ドロガーはロープを締める。
「よっしゃあ! これでいいぜぇ! 離れろや!」
「おう!」
私とドロガーが離れるのと、オーガが復活したのはほぼ同時だった。
「グオオォッ!?」
くくく、立ち上がることすらできまい。
足首の傷は塞がり、赤兜が脳天に突き立てた剣も抜けている。だが、ロープは解けていない。寝たままの体勢ではなかなか力を入れられないだろうしな。これは私たちの作戦勝ちだ。いっけーカムイ!
こうして仕留める度にロープを増やしていった。一度目は両足、二度目は右手と首、三度目は左手と首を結びつけた。つまりオーガは中途半端な万歳のような格好で両手を拘束されているわけだ。しかもうつ伏せで、両足を縛られたまま。
本当はもっと縛り上げてやりたかったがドロガーのロープが足りない。ここを出たら私も魔力庫にロープを用意しておこうかな。
トドメを刺したのは何度目だろう。さすがのボスもだいぶ小さくなってきたな。当初の半分ぐらいだろうか。足をバタつかせはするが起き上がることはできず、復活してはやられ、その都度小さくなっていくボスオーガ。哀れな気もするがこっちだって魔法が使えない以上ギリギリなんだからな。容赦も油断もせん。
そしてまた赤兜に脳天を貫かれ動きを止めたボス。これではもうとてもブラッディオーガロードなんて呼べないだろうな。
「カズマカズマカズマカズマ!」
なっ!? いきなりアーニャが左腕に抱きついてきた!? なぜ!? い、今はやばい! すぐアレクたちの所へ戻さないと……
「グオオォガアァ!」
なっ!? しかも足、ロープが、外れ、やば「アレク!」
ぐっ……くっそ……めちゃくちゃ痛ぇ……頭がガンガンしやがる……
「カース!」
「ニンちゃん!」
「止まんな狼ぃ! やれぇ! 赤兜ぉ! 合わせろやぁ!」
ふう……少し落ち着いた……
アレクが口移しでポーションを飲ませてくれたから……
「カース! ごめんなさい! わ、私がアーニャをしっかり拘束してなかったから……」
「いや、それはもういい……」
あの瞬間、拘束を外れたオーガの左足が上から降ってきたんだよな。地面に向けてインステップキックでもするかのように。それでとっさにアーニャをアレクに向けて突き飛ばしたが……どうにか間に合ったようだ。隅で呆然と座っている。さっきも腰を抜かしていたと思ったが……
落ち着いたことは落ち着いたが……まだ体のあちこちが痛いな……上からあんなヤバい足に潰されたんだもんな……どうにか頭は庇ったが……
斬撃や魔法相手には無敵のドラゴン装備も単純な重量には分が悪いからな。くそ……油断してないつもりだったが、あんな単純なことを見落としていたとは……小さくなれば拘束が緩むのは当然なのに。
勝ちを目前にして誰も気づかなかったってわけか……
私がアレクの膝枕で横たわっている間にボス戦は終わった。首だけになったブラッディオーガロードにトドメを刺したのはクロミ。何やら火の上級魔法で燃やし尽くしてくれた。ちなみにアレクは間髪入れずに部屋を冷やしてくれた。こんな狭い部屋で上級魔法なんか使うなってんだ……
「ニンちゃんお待たせ! 見せて見せて!」
「ああ、頼む……」
『換装』
とりあえず上半身だけ裸になる。私の頭とヘソに手を当てて何やら魔力を流すクロミ。
「分かったしー。じゃあ治すねー。あ、下も脱いで。」
「分かった。」
『換装』
パンツぐらい穿いててもいいよな。
「じゃあいっくよー。金ちゃん魔力ポーション用意しといてねー。」
「分かったわ!」
『
「痛えええーー!」
「ニンちゃん動かないで! ヨッちゃんと赤ちゃん押さえつけて!」
「おう!」
「ああ……」
マジか……めちゃくちゃ痛いんだけど! 足首と膝……そして両肩まで!
「あがががががぁ!」
「ニンちゃんもう少し!」
だめだ……痛すぎる! そ、そうだ無痛狂心を使えば……
「だめぇぇぇーー! 何もしないで! 耐えてぇぇーー!」
何ぃ!? しかしクロミがそう言うんならそうなんだろう……くっそおおおお……骨折した時より治る時の方が痛いってマジかよ……泣きそう……
ちくしょおおおお……めちゃくちゃ痛ぇよ……
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