1631話 見えない壁、再び

ふざけんなよ……裸で……魔力も切れた状態でデュラハンと戦えってのか? その程度のこともできないで迷宮を踏破する資格はないとでも言いたいのか?


クソ……


「お、おい魔王……どうすんだ?」


「ちょっと待ってろ……」


覚悟が決まりそうなんだからよ。それとも他にアイデアでも……


アイデアその一。赤兜を先に行かせる。こいつなら死んでも惜しくないから特攻させて時間稼ぎに最適。だが問題は真っ裸で武器もないあいつじゃあ時間稼ぎなんてほぼ無理ってことだ。


アイデアその二。ドロガーに先に行かせる。

無理だろうな。相手がレッドキャップゴブリンならいざ知らず。デュラハンなんだから……赤兜と二人がかりでも時間稼ぎができるかどうか……


そうなると……


やるしかないか。神の機嫌なんか知ったことか。これ以上誰も死なせるもんかよ。


『身体強化』


「お、おい魔王……」


「すぐ終わる。待ってろ。」


螺旋貫通峰らせんかんつうほう


ボスに使ったような名ばかりの技ではない。校長並みの威力を身体強化で無理矢理再現した、ある意味本物だ……


くっくっく……

ほおら、貫通したなぁ。

何が透明な壁だよこの野郎。こんな壁なんかのせいでコーちゃんが犠牲になったんだよ。始めっからこうやってぶち壊せばよかったんだ。それを私が神の機嫌なんかを気にしたせいで……


文句あんのかクソ神が!

文句あんなら出てこいや! てめぇもこうやって穴空けてやるぞおらぁ! おら! うらぁ!


「ニンちゃん! もう大丈夫だよ! 通れるよ!」


「お、おお……」


いかんいかん。あんまり無駄に突くと筋肉痛が酷いことになるからな。


「通れた……マジかよ……魔王すげぇな……」


「さっさと行くぞ。」


「私は先に行くわね。」


あら、アレクが行ってしまった。しかもデュラハンに向けて駆け出している。カムイ、アレクのフォローな。


「ガウガウ」


雑魚でもデュラハンだもんな。油断はできないさ。


「全員乗れ。行くぞ。」


「おうよ!」


「カズマカズマカズマ!」


アレクがいなくなるとアーニャは私の左腕にしがみついてくるんだよな。


「ニンちゃん大丈夫?」


「どうにかな。じゃあ行くぞ!」


道は一直線。その途中でデュラハンは待ち構えている。こっちを舐めてるのか馬車にも乗らず一匹で。

そんな調子だからアレクに瞬殺されるんだよ。だいたいアレクはボスにだって一人で勝ったんだからさ。通常のデュラハンでは相手になるまい。


「お見事だったね。一瞬だったから見えなかったけど。」


「かなり弱かったわ。もしかしてあの壁を越えた人間を相手にする想定だからかしら?」


「あー、なるほどね。意外と挑戦者のことも考えてあるんだね。意外と……」


だからってそんなこと向こう側にいる時に分かるわけないもんな。そうならそうって言えってんだ。そしたら私も少しは考えたのに。少しは。


さて、アレクを乗せたら、轢き逃げアタックいくぜ!


『氷柱』


この長い直線の先はどうせボス部屋だろうけどね。




正解。結局ボス部屋に着くまでに魔物どころか罠すらなかった。てことは何か? あの壁を通過して、弱いデュラハンさえ倒せばここまでは楽勝で来れるよう配慮してあったってことか? そんなバカな。つくづくここの神は意味不明だわ。


それより気にするのはボスだ。また狭くなりそうだし、そうそう何度も復活されたんじゃ大変すぎる。どうにか楽して勝てる方法は……


「ドロガー、ロープはまだあるか?」


「そりゃもちろんあるぜ?」


「なら一度ボスを殺したら、その隙に両足を縛っちまいな。できれば両手も。」


「そりゃいいな。ちいっとロープが持つか心配だがよ。」


ワイヤーロープや鎖なんかがあるといいよなぁ……

あっ! ある! ワイヤーでも鎖でもないけど! しかし金操を使わずに操るのは少しばかり難しいけど……


「ドロガー、これ使ってみるか?」


「こいつぁ……かい、トンファーっつったか? 魔王にしちゃ妙なもん持ってんじゃねぇか。」


クソ針こと、闇ギルド連合の会長の武器だ。あの時没収したんだよな。いつか使おうと思ってたんだけど。ここでついに出番か。


「先端を前に向けて、そこのボタンを押してみな。」


トンファーの握り部分の親指で押せる位置に小さなボタンが付いている。クソ針はこの仕掛けでラグナの手足を切断したんだよな。


「んん? ちっとよく見えねぇが……何か飛び出たか?」


「うかつに触るなよ? 人間の手足なんか簡単に切り取ってしまうからな。もし縛ったロープが切られたら、そいつを上手く使ってボスの手でも足でもぶち切ってやりな。」


「お、おお……つまりこいつぁトンファーと見せかけてやべぇ刃鋼線じんこうせんってわけかよ。ったく、おめぇはどこの暗殺者だぁこんなもん持ってやがるとはよぉ。」


「拾いモンだよ。」


「暗殺者が自分の命とも言える武器ぃ落とすわけねぇだろ。つまりぶち殺して奪ったんだな? ドラゴンやワイバーンだけでなくやばそうな殺し屋まで殺してやがんのかよ……」


殺し屋殺し……ゴロがいいな。


「だってカースだもの。」


出た。ドヤ顔アレク。ふふ、かわいいなぁ。


「まあ使いどころは任せる。要は一度殺した後は楽に勝てるよう型にハメてやれってことだ。ブラッディオーガだろうが転がしてしまえば勝ちだからな。」


「おうよ。やったろうぜ。赤兜ぉ、お前も気張れよ?」


「ああ……」


カムイにも最初から山裂を咥えさせておく。頼むぜカムイ。


「アウアウ」


無理して返事しなくていいっての。


では、四十八階のボス部屋へ。いってみようか!

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