1630話 地下四十八階突入

また起きてきやがったよ……

とうとう高さ二メイル程度にまで縮みやがった。そんなサイズじゃあもう敵ですらない。正面からカムイが胴体を真っ二つ。そこそこの素早さを見せたがカムイと比べれば遅い遅い。私よりは早いかな。


また起きやがったよ……胴体はきっちり繋がってやがるし。

ついに体長は一メイル。私より小さい。


「グギャッ!」


ちっ、痛ぇな。私に攻撃してきやがった。かなり早い。だがその程度の体格で蹴られても『痛い』で終わりだ。効かんな。

むっ、それでも私の不動をするりと避けやがった。だが、無駄だな。そっちにはカムイが待ち構えている。


終わったな。防御した腕ごと首をぶった斬った。カムイめ、すっかり刀を使いこなしてるな。器用なやつだな。


「動かねぇな。今度こそ終わったかぁ? 俺ぁいいかげん疲れたぜ……」


私もだよ……もう起きてくるな。

でも、起きてくるんだな……首なしの胴体と浮かび上がる首。やれやれ、やっとか。これでこちらも魔法が使えるようになった。


火球ひのたま


まずは胴体を丸焼き。頭部は浮かび上がり逃げていった。逃がすかよ!


火柱ひばしら


アンデッドを焼くのに相応しい魔法だろ? 大人しく燃え尽きてしまえ。あー疲れた……


上から落ちてきたのはいつものより二回りは大きい火の魔石。サッカーボールほどはないかな。あれだけ手こずらせてくれたんだからこれぐらいないとね。やれやれ。


「カムイ、大丈夫か?」


「ガウガウ」


さすがのお前も疲れたよな。特に顎あたりが。いかんな、山裂の柄が壊れそうだな。カムイが咥えてるんだから無理もない。さすがのカムイも柄のない刀を咥えるのは嫌だよな。金属を直に噛むことになるし。次のボスは大丈夫だろうけど、そこまでかな。まあその時は他の剣でもいいよね。私の魔力庫にはまだいくつかムラサキメタリックの武器が入ってることだし。

何にせよ魔力の使えないボスとの戦いはカムイが要だからな。頼むぜ。


「おう魔王、もう行くか?」


「いや、少し休もうか。お前らも疲れただろ?」


特に赤兜が。


「おう。俺ぁまだ平気だが赤兜がよぉ。マジで厄介なボスだったぜなぁ?」


「ああ……」


下に降りる扉の前に座り込む私たち。


「はいカース。」


「うん、ありがとね。」


すかさずお茶を渡してくれるアレク。本当にいい子だなぁ。あっ、冷たい。今の気分にもぴったり。さすがアレク。あぁおいしい。




さて、そろそろ行くか。一時間経ってしまうとまたボスが現れてしまうからな。あんな面倒な奴、二度と戦いたくないよ。


いよいよ四十八階か。本当に五十階で終わるんだろうな……これでまだ半分って言われた心が折れるぞ?


前の階と同じようにカムイを先頭にして慎重に進む。相変わらず現れる魔物は五メイル程度のブラッディオーガとレッドキャップゴブリンばかり。ぞろぞろと密集してやがる。


素早く引き返すカムイ。カムイの後退と同時に『業火球』

全部まとめて燃えてしまえ。多少オーバーキルな気もするが構うことはない。わずかな反撃の隙すら与えてやるかよ。


ん? 火勢の向こうに見えるのは……デュラハンかよ。しかも頭が首の上に付いてやがる。つまり、魔力吸収モードか。無駄だよ。


『身体強化』


不動をぶん投げてやった。顔のど真ん中めがけて。

ほーらストライク。いくら魔力を吸収しようがぶん投げた勢いはどうにもならんだろ。見事に貫通したな。


「赤兜、いけ。」


「ああ……」


それにムラサキメタリックの鎧なら吸収もクソもないもんな。いきなり行かせて反撃くらっちゃあ可哀想だからワンクッション置いてやったのさ。

おっ、ほぉーらやった。赤兜の一閃で体が縦に真っ二つか。これで魔力吸収モードも終わったろ。


『火球』


終わったな。


でもなぁ……問題は……こんな雑魚どもがわらわら出てくることなんだよなぁ……




仕方ない。やってやる。


「クロミ! カムイ! ぶっ飛ぶからな! 罠の気配があったらすぐ言ってくれ!」


「分かったし!」


「ガウガウ」


『氷柱』


轢き逃げアタックで行くぜ! 普段より氷の円柱との距離を空けて……


殺戮の!

心となりて!

氷柱こおりばしら

迷宮ごろごろ!

踏み潰していけ!


うむ。素晴らしい句だ。多少の字余りぐらい何のその。


「ニンちゃん上!」


「よし!」


上からギロチンらしき何かが落ちてくるが、そんなものより私のボードの方が早い。


「ガウガウ」


「おう!」


デュラハンが魔力吸収モードで立っているようだが直径十メイルにも達する氷柱を一瞬で吸収しきれるかよ。ほぉら、ぐしゃっと潰れた。もちろんまだ生きてるんだろうが、あいつが起きる頃にはもうとっくに私たちはいない。ノロマは寝てろってんだ。


「ニンちゃん!」


クロミの叫びと、氷柱が砕けたのはほぼ同時だった……


余波が私たちを襲う。


くそが……


ついに来たか……


透明な壁。


もう攻略法は分かってんだよ。


分かってんだけど……マジかよ……


透明な壁の向こう側で……デュラハンが待ち構えてやがる……ふざけんなよ! こんなのアリかよ!


正確には透明な壁から百メイルってとこか。今は動いてないが……こちらから全員、もしくは一人でもそっちに行ったら動き出すんだろ? クソが……どうしろってんだよ!

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