1627話 地下四十七階

四十七階。うむ、問題なく魔法が使える。ならば同じようにカムイを先頭にして進もうではないか。


うーん……やたら魔物の数が多いな。五メイル程度のブラッディオーガとレッドキャップゴブリンが群れで襲ってきやがる。さすがのカムイもこの数には勝てんな。どうやらレッドキャップはアンデッドだしブラッディオーガは一度や二度首を斬ったところで復活するし。

まあいいや。カムイ、下がってな。私がやるわ。


火球ひのたま


全部燃やせばアンデッドであろうがなかろうが関係ない。全て等しく灰は灰に、塵は塵に。ちなみに威力は抑え気味だから灰は残ってる。

それ以外に残るのは数が合わない魔石。明らかに魔物の数より少ない。まあ拾わないから関係ないんだけどさ。慎重作戦のせいで魔物に遭遇するたびに全部燃やしているもんで、いちいち足が止まるんだよな。攻略速度が氷柱ごろごろの轢き逃げアタックとは雲泥の差だ。




さすがに疲れたな……

ボードを飛ばしながらも魔物どもには魔法を使いまくりだもんな。魔力的には一割も減ってないけどさ。


ちっ、またぞろぞろと現れやがったか。


『火球』


アンデッドだろうとなかろうと、燃やしてしまえば全部同じ。魔法さえ使えるなら敵ではない。


それにしても……安全地帯はまだか? もう三時間ぐらい経ってる気がするんだけどな。いつもならとっくに着いてるんだが……

いやまあ理由は分かってるさ。進むペースがノロいんだもんな。もう一気に行ってしまうか? いいや、だめだ。どこにどんな罠があるか分かったものではない。

もし、氷柱ごろごろが通り過ぎた後にいきなり透明な壁が発生したら?

もし、飛行中にいきなり魔力無効空間に突入したら?


色んな可能性がある以上、ここはやはり慎重に進むしかない。それでも赤兜たちのように歩いて攻略するよりは何倍も早いんだろうけどさ。


「ガウガウ」


腹がへったか。実は私もだ。しかし我慢できないほどではない。そこら辺で警戒しながら食うよりは安全地帯に着いてからゆっくり食べたいしね。




それからも魔物は現れ続けた。前から来る奴らは私が燃やしたが、後ろから来る奴らはクロミとアレクがどうにか燃やした。

アレクお得意の氷の魔法で凍りつかせてもパーツごとに襲ってくるし、首を切断しても首だけでも飛んでくる。やはり燃やすのが一番だよな。


「ふぃー。やっぱニンちゃんの火力はハンパないねー。いくらアンデッドでも普通は骨ってあんま燃えないよねー。」


「カースだもの。私たちの魔法とは威力が桁違いだわ。」


心なしかアレクがドヤ顔をしているような。


「奥様もすごかったけど、単純な火力だとやっぱニンちゃんだねー。あれだけの威力となるとさー、魔力を込めまくってもだめなんだよねー。」


「そうね。カースだもの。」


へぇ。さすがクロミ。よく分かってんじゃん。確かに私は魔力でごり押ししてるけどさ。だからって魔力を二倍込めたら威力が二倍になるほど魔法って甘くないんだよな。だから普通は上級魔法とか使うんだろうけどさ。わざわざ下級魔法なんかで高火力を出さなくてもさ。

その点母上がすごいのは魔力を半分にしても威力が落ちないようなところだろう。それを突き詰めていった先にあるのが最小の魔力で凶悪な切れ味を誇る『風斬』だったり無敵の『魔力感誘』だったりするんだろうな。知れば知るほど魔法は奥深いよね。勉強勉強。




はぁ……どうにか安全地帯に着いたぞ。結局六、七時間はかかったか。あーマジで疲れた。怪我がないだけマシなんだろうけどさ。

風呂にも入りたいがまずは飯だな。さすがに腹がへってたまらん。こんな時は肉だな。焼きまくってやる。


「おう魔王。今回はどんぐれぇ休むんだ?」


「そうだな……慌てることもないし、二日ぐらいか。のんびりしようぜ。」


「そりゃあ構わんが、食い物は足りるんだろうな?」


「余裕だな。あと半年はいけるぞ。」


いつもの私たちだけなら一年だって楽勝だけどね。


「分かった。飯ぃ食ったら俺と赤兜はちっと出てくるぜ。途中でいいもん見つけたからよ。」


「そりゃあ構わんが……正気か? こんなヤバい迷宮に二人って……宝箱が気になるんなら一緒に行ってやるぞ?」


「いやいや、一番苦労してる魔王にそんな真似させられっかよ。なぁにすぐそこだぁ。一時間もかかりゃしねぇよ。」


「ならせめてカムイぐらい連れて行け。そしたらピンチの時に知らせに戻るぐらいしてくれるからよ。」


「そりゃいいな。すまんが頼まぁ。いいのか狼ちゃんよ?」


「ガウガウ」


まったく。休める時ぐらい休んどけってんだ。この期に及んで欲が出たってわけでもなかろうに。




ふぅ。あー腹いっぱい。もう風呂なんか入らないで寝てしまおうかな……

そこに出しておけば入りたい者は入るだろ。


「ドロガー、帰ってきたらカムイをしっかり洗ってやれよ?」


「おう。もちろんだぁ。そんじゃあ行ってくるぜ。」


「赤兜、お前はドロガーの指示にきっちり従えよ?」


こいつには絶対服従がかかってるからな。一時的にドロガーの言うことをよく聞くようにしておいてやった。たぶんその方が安全だろうからな。


「ああ……」


「待って待ってー! ウチも行くし!」


クロミもかよ。まあその方が安全だろうけどさ。もし全滅したら私たちまでピンチになってしまうぞ……

大丈夫なんだろうな? 私は寝るからな。

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