1625話 ブラッディオーガロード

今のカムイではいくら首に食いつこうが致命傷は無理なんだよな。嫌がらせ程度の攻撃しかできない。仰向けに倒すことができればどうにかなりそうだが……


「ガウッ」


カムイは果敢に攻め続けている。次の狙いは肘の内側か。あそこの筋をぶち切れば腕が動かなくなる……が……

そこはオーガが地面に手をついている時でなければ狙いにくい。いくらカムイでも。

ならば……


「ドロガー! お前はロープの先に何か重いもんでも括りつけて離れて攻撃しろ! いや、オーガの気を引ければ何でもいい!」


「おうよ!」


さて、私は……


「アレク、それ貸して。」


「え、ええ……カース……」


アレクが悲壮な顔をする。私だって嫌だ。ムラサキメタリックの刀。確か『山裂やまざき』って言ったっけな。オワダで深紫ディパープルの奴から奪った刀だ。私が持つ長い刃物で最強なのはこれだからな。こいつを扱うには腕前が足りないだろうが、あのオーガに接近するには赤兜以外では私しかいない。今のところメンバーの中で二番目に防御力が高いのは私だからな。あーやだやだ。金属鎧じゃないから握られたりなんかしたらアウトなんだからさ……服は無傷で私だけ潰れてしまう。


ドロガーはオーガの棍棒が届くギリギリから……何だあれ? ロープの先に斧を括りつけてるのか? そんな奇妙な武器を振り回してはぶん投げている。結構エゲツない威力が出そうだな。オーガも無視はできないようだ。

その上カムイまで周囲を飛び回っていては。


で、私はその間に背後へとまわり込み……腰の上まで登りたいのだが……


くっそ! めっちゃ揺れる! 幸いなのか毛むくじゃらだから掴めるのはいくらでも掴める! だが、毛の間にはダニかシラミが多い上に臭い! なんで迷宮の魔物なのにこんな時だけリアルなんだよ! クソっ! 私の頭より大きいダニまで居やがるじゃねーか! こっち来んな! キモいんだよ!


ぶはっ! 大腿部を過ぎたら少し毛の量が減ったか。ここから尻の方へまわって、もう少し上へ……

行けるかぁ! 掴める所がほぼないじゃん! もうここでいいや! おらぁ!


「グギャオボッ!?」


さすがに気付いたか。腰の左側、大腿部との境目あたりに山裂を深々と突き刺してやったからな。骨には当たらなかったらしく、鍔元まで食い込んだ。すかさずオーガの手のひらが襲ってくるが……


遅えよ!


両手で刀の柄を握り、全体重を預ける!

すると!

ほぉーら! 腰から下が縦にスパッと斬れていくぜ! まさに破竹の勢いってやつか。問題は……


くっ、痛っ……

五メイル程度の高さから落ちたようなもんだからな。足の裏から着地して後ろにごろりと転んだ。ちっ、足首を少し痛めたか?


「グギャアァァァァ!」


どうよ? かなり痛ぇだろ。あ、やべっ!


ぐおおお……マジかよ……上から大量の血が降ってきやがった……

うがあぁ……めっちゃ臭ぇえええ! しかも前が見えん! ヤバっ、がはぁ!?




くっそ……痛ぇな……指先か何かに吹っ飛ばされたのか……上から潰されなくてよかったけど……

前が見えん……かぶっていたはずの帽子がなくなってるからか……


「カース!」


おおアレク! すかさずポーションを! しかも口移しで!? 今の私はかなり汚いのに! 防汚が効いてるのは顔以外だから……


「待ってて!」


おまけに私の顔をぬぐってくれた。ああ、アレクの顔が見えた。


「よし、ありがとね。元気が出たよ。今度はそっちを貸してね。」


「ええ……しっかり、ね……」


悲愴な顔をしつつも、行かないでと言わないアレクはいい子だ。


おっ、クロミも赤兜にポーションを届けてるじゃないか。やっぱ役割を分けて正解だったな。いくぜ……!


あっ! カムイ! マジかそれ! お前は天才か!?


カムイはなんと……山裂の柄を口に咥えて、擬似的に魔力刃を創り出している。


おおー! すごい! マジかよ! すれ違うたびにオーガから血がほとばしる! 縦横無尽に斬りまくりじゃん! さっきまでの爪攻撃と違ってこれは深いからな。とても嫌がらせなんてレベルではない。

急所を斬り裂かない限り致命傷とは言えないが、このままでもいずれは出血多量だ。いくらボスオーガの再生力だろうが追いつくまい。

ほぉら、カムイばっか気にしてると……ドロガーの強烈な斧が胸板に突き刺さってるじゃないか。さすがに心臓にまで到達する威力ではないにしても、それなりに出血を強いる一撃だな。


おっ! チャンス! 猛攻のせいかオーガの野郎、右手を床につきやがった! そこにカムイが……!

やった! 右腕の筋をスパッと切断しやがった! するとますます奴の頭が下がる! するとドロガーの斧が……いったぁぁーー! 左目直撃! もう少し! もう少しで喉まで手が……


おおーー! 赤兜! てめぇいいところ持っていきやがったな!? 横から走り込んで喉をザックリいきやがった! 私が不動でトドメを刺そうと思ってたのに! まあ、方法までは考えてなかったけどさ……


よし。オーガの血はもうほとんど流れない。終わりだな。だが、まだだ。迷宮の魔物との戦いは何か素材を落とすまでは終わりではない。全員そんなことぐらい言わなくても分かっている。あいつを半円状に囲み距離をとる。もちろん構えは解かない。


「ガウガウ」


あの時のあいつと同じだって?


「ちっ! 離れろや! 来んぞぉ!」


何ごともなかったかのように立ち上がったブラッディオーガロード。いや、少し縮んでるか?

あっ! あの時ってカゲキョー迷宮にいたあいつ! あいつも確かブラッディオーガって言ったか!? 大きさは全然違うけどな……こっちはボスだからか……


ちっ、二回戦やってやるよ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る